決勝戦
再び、闘技場内に二人の女性が現れる。
右方、普段着にエプロン姿ながら冴え渡る剣技を見せつけた、風見鳥 楓花。
左方、黒いスーツ姿の鉄拳事務員、山梨 佳奈子。
微笑む暖かい視線と無表情な冷たい視線が絡み合う。
「さてさて。この試合で終わりですね。早く帰って夕飯の準備をしたいですね」
「そうね。私も行き付けの飲み屋にでも行きたい気分よ」
朗らかな楓花に釣られるように佳奈子も笑う。
どちらも雰囲気の違う美女で、観客席からは様々な声が飛び交う。
激励の声、応援の声、ただの怒声、LOVEと叫び散らすオタ芸集団。
とにかく喧しいので、今回も観客席からの声はカットしていきます。
「佳奈子さんでしたよね。お互い頑張りましょうね」
「そうね。やるからには全力で行くわ」
ニッコリと笑って握手を交わし、離れる。
楓花は白ネギを手にほほえみながら。
佳奈子はメリケンサックに指を通しながら。
やがて、二人が振り返ったのを見計らって、試合開始の鐘が鳴らされた。
両者共に、動かない。互いが相手の力量を知っている為、迂闊に踏み込むことが出来ないでいる。
間合いは楓花に分があり、手数は佳奈子に分がある。
しかし自身の間合いを維持した方が有利になる以上、どちらが先に動くのかは分かりきった事ではあった。
トントンと軽く跳ねていた佳奈子が、突如として突進する。体を低くして両拳を顎の前に置く、ピーカブースタイルと呼ばれる構えだ。ガードを固めて接近し、己の間合いへ踏み込まんと試みる。
しかし相手もさるもの。強みであるリーチを活かす為、左右に動き突進の的を絞らせない。
ジワジワと距離が縮まる中、楓花がその状況を打破した。斜め上からの振り下ろし。最も回避の難しい軌道で繰り出された白ネギ。しかし、下から拳を打ち上げて相殺、更に距離を詰め、至近距離へ。
拳の距離。メリケンサックの間合い。そこから繰り出されるフック、アッパー、ボディーブロウ。それらを組み合わせて様々な角度から撃ち込むも、華麗な白ネギ捌きで悠々と受け止められる。
不意に、佳奈子が背後を振り向き、前に倒れる。
何事かと警戒する楓花の左腕に、打ち上げ気味の裏拳が炸裂した。
「きゃあっ!?」
武術大会が始まってから初の楓花の悲鳴。佳奈子はすぐさま体勢を立て直し、再度近接距離へ入り、激しいラッシュを浴びせていく。何とか白ネギで直撃を免れるも、劣勢。反撃に転じることが出来ず、次第に押されていく。
「フッ! ハッ!」
左、右とワンツーを叩き込み、意識を上に持って行った後にボディーブロウ。ギリギリでこれを受け止めるも、あまりの威力に腕が痺れる。
しかしまだ、楓花は戦意は失っていない。ギリギリのラインで受けながらも、チャンスを伺っている。
それは佳奈子にも理解されているようで、彼女は無理に攻めず、じわじわと追い詰めていく。
ラッシュ。ラッシュ。ラッシュ。
息もつかせぬ勢いで攻め続ける佳奈子。魔力で強化されているのか、スタミナが衰える素振りも無い。
このまま決着がつく。誰もがそう思った時だった。
ふらりと、楓花がふらついた。
その隙を見逃さずに巻き込むようなフックを放つ。しかし。
「かかりましたね!」
その一撃を躱し、一閃。
研ぎ澄まされた白ネギの攻撃が、佳奈子の胸に吸い込まれるように直撃した。
「――ッ!」
声にならない悲鳴。そして。
「これでっ!」
刺突。鋭い一撃が胸の中心に打ち込まれ、佳奈子の体が吹き飛ばされた。
ふう、とため息。白ネギを下げて、背中を向ける。
次の瞬間。
突如として跳ね起き突撃してきた佳奈子。
その胴体に、振り向きざまの楓花の居合抜きが吸い込まれる。
薄皮から漏れるトロみのある汁を利用した神速の攻撃は、抵抗する間もなく佳奈子の意識を刈り取った。
「先程の試合を見てなかったら危なかったですね」
白ネギを振り払い、穏やかな表情で呟いた。
決着。決勝戦は風見鳥楓花の勝利で幕を閉じた。
ほうと溜息をつく。ありがとう、サイコロの神様。佳奈子が勝ってたら私がヤバかったです。
でも白ネギが最強って大丈夫なんですかね?
まさかの優勝なのですが。
まぁとりあえず、参加者の皆さんにはお戻りいただいて……
「さて。ちょっとお話(物理)しましょうか」
ポン、と後ろから叩かれた私。
振り返るとそこには、先程まで倒れていたはずの佳奈子の姿。
「アッー!」
暗転。
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以上を持ちまして、閉幕とさせて頂きます。
お読みいただいてありがとうございました。
とにかく白ネギ無双でしたね。これを真面目に書ききった私を誰か褒めてください。