三位決定戦
一回戦を敗北した二人。
チャクラム使いのフレイミー。大鎌使いの琳子。
彼女達は再び、闘技場内に立っていた。
三位決定戦。そんな意味があるかも分からない試合のために呼び出された訳だ。頭が痛い、と琳子は額を片手で覆う。
「誰が一番強いか決める大会じゃないの、これ」
「主催者の意向らしいデスね」
「ろくでもないわね、あの羊」
凶悪な意匠の大鎌を肩に担ぎ、溜息を一つ。
フレイミーの表情もどことなく困っているようなに見える。
ごめんなさい。Twitterのアンケート結果なんです。
そんな弛緩しきった空気の中、小さく試合開始の鐘が鳴った。
両者が構える。
琳子は先程と同じく、大鎌の柄を水平に、刃を上向きに。
一方フレイミーもまた、チャクラムを指でクルクルと回す。
超重武器と投擲武器。普通に考えれば後者の方が圧倒的に有利だが、どちらも油断はしない。
特に琳子は常より気を引き締め、相手を睨むように見詰めている。
油断からの敗北。そんな醜態は二度と晒さない。
凄まじいプレッシャーを感じながらも、フレイミーは微笑みを絶やさずに居た。
たおやかに、静かに機を伺うが、膠着していては埒が開かない。
「ではこちらから、いきマス」
遠心力を活かした投擲。目にも止まらぬ速度で迫るチャクラムを、琳子はやはり大鎌の柄で受ける。その僅かな隙をつき、チャクラムを両手に駆けるフレイミー。しかし。
「読めてます、よっと!」
大振りの横薙ぎ。大木をも切り倒す威力を持って振り回された死神の大鎌のせいで、迂闊に近付く事が出来ない。
琳子もそれを理解しており、自身の間合いを維持しながら間断なく斬撃を浴びせる。
ブォン、と風を斬る度、フレイミーは軽やかに跳び躱す。空を舞う木の葉のように、当たらない。
通常であれば琳子の体力が尽きたところを狙うべきだが、魔力で強化された彼女のスタミナが切れることは無い。
当たれば終わる。その強靭な一撃を嵐のように繰り出しながら尚、彼女の眼は鋭くフレイミーを見詰めている。いつでも防御に回れるよう、意識を集中している。
苛烈。豪快にして繊細。
隙のない連撃に見舞われ、フレイミーは徐々に余裕を失ってきている。苦し紛れに放たれたチャクラムは全て弾かれ、近接戦闘に持ち込もうにも空間を削ぐような攻撃のせいで上手く近付けないでいる。
不意に、焦りから回避が遅れた。
跳ね上げるような大鎌の一撃を避けきれず、空中に投げ出される。
それに合わせて、琳子は遠心力を付けた大鎌で斬りつけた。
ギャリンと金属が擦り合わされる音。フレイミーの腰部分に吊るされた予備のチャクラムの上から命中した強烈な一撃は彼女の体をはじき飛ばし、やがて外壁に激突して動きを止めた。
「……さて。ウチの勝ちですかね?」
構えを解かず様子を見るが、フレイミーが動く気配はない。
カメラに視線を向けてきた為、私は小さく頷いた。
決着。三位決定戦は松葉山 琳子の勝利で幕を閉じた。
あまりにも一方的な展開。それは作者すら予想出来なかった、サイコロの神が起こした悪戯。
まさか、一試合でクリティカル判定が三回も出るとは思わず、この試合を内心かなり楽しみにしていた私は小さく肩を落とした。
さて。次は決勝戦だ。気を取り直して筆を取る事にしよう。