大鎌 VS メリケンサック
第二試合。
片や大鎌を肩に担いだブレザー姿、片やメリケンサックを構えた黒いスーツ姿。
面倒くさそうな表情を隠しもしない背の低い琳子に対して、凛とした表情でそれを見下ろす佳奈子といった図式だ。
「なんでこんなことやらなきゃいけないんですかねぇ……」
「さぁ。そもそもなんで私がメリケンサックなのかも不明だし」
「そんな事言ったら私の方が酷いですよ。見てくださいよ、この馬鹿みたいな大鎌」
大鎌をドスンと地に下ろすと、乾いた地面を抉り砂埃が舞う。確かに小柄な琳子には似つかわしくない代物だ。
全長3m。鍛えている男性でも取り回しが難しいであろう禍々しい超重武器を、小柄な少女が軽々と扱う姿には誰しも違和感を覚える。
佳奈子もそれを感じたのか、端正な眉根をピクリと震わせた。
「馬鹿げてるわね。ナンセンスだわ」
「ですよねー。しかも何故かウチの頭の中に使い方まで入ってる親切設計ですからね」
「私も同じよ。そして、戦わないとチキュウに戻れないとも、理解しているわ」
いいながら腕を組むと、スーツ越しにでも分かる大きな胸元がより強調され、琳子は羨ましそうにそれを見つめていた。
そんな何とも言えない空気の中、試合開始の鐘が鳴らされる。嫌々ながらも構える二人。
琳子は大鎌の持ち手を地面と並行させ、その巨大な刃は上向きに。
佳奈子は両脇を引き締め、軽くステップを踏むボクシングスタイル。
先程までとは異なり、両者に緊張感が走る。
「それじゃ行きます……よっと!」
先に動いたのは、琳子。掛け声と共に大鎌が横一文字に振り回される。そのリーチを読み切り、空振りさせた後に佳奈子が踏み込んだ。
鋭い左ジャブを三連。疎らに打ち込まれたそれは、琳子の引き戻した大型の柄によって防がれた。その勢いのまま、背後から迫り来る刃を身を屈めるダッキングでやり過ごす。
接近、額のぶつかり合うような距離で繰り出されたフックが側頭部を狙うが、これも大鎌の柄によってブロックされる。
鎌の扱いが上手い。5kgを超える超重武器とは思えないほど軽やかに動き、佳奈子の攻撃を次々と防いでいく。
しかし、間合いの中に入られているせいで琳子から攻撃は出来ないでいる。
「あーもう! 離れてくださいったら!」
十回ほど攻撃を受けた拍子に無理やり腕を跳ね除け、大鎌を振り回す。遠心力を付けたそれは佳奈子に直撃し、ガードごと体を吹っ飛ばした。
距離が、離れた。
「くっ……!」
呻く佳奈子。彼女に襲いかかる大鎌。縦横無尽に振り回されるそれをステップを踏んで避け、体を折りたたんで躱し、メリケンサックを当てて受け流す。
しかし、止まらない。それどころか徐々に勢いを増していく。
風を切るどころか空間すら切り裂きそうな乱舞に対応出来ず、徐々にダメージが蓄積されていく。
「よぉい、しょおっ!」
一際力を込めて放たれた一撃。既に足が止まっている佳奈子に避ける事は不可能と悟った上の一撃は、確かに彼女の体を捉えた。
吹き飛ばされ、地面をバウンドする。刃は当たっていないが、凄まじい威力だった。
「ふぅ。終わりですかね」
大鎌を肩に担ぎ、一息ついた。
明らかな油断。それは、獣のように跳ね上がった佳奈子の接近を許してしまった。
「もらった!」
時間にして一秒にも満たない隙を逃さず、自身の間合いに踏み込むと、お返しと言わんばかりにメリケンサックでの乱打を放つ。
先程より早く鋭い拳撃の嵐。その攻撃はどんどん加速していき、より複雑なコンビネーションを叩き込んでいく。琳子は大鎌の柄で受け続けるも、次第に反応が間に合わなくなって行き、そして。
大鎌の持ち手を狙ったショートアッパーが、凶悪な武器を跳ね上げた。
「しまっ……!?」
「これで、終わり!」
鳩尾に突き刺さるボディーブロウ。その強烈な一撃は琳子の意識を刈り取るに十分な威力を持っていた。
決着。一瞬の油断が正に命取りになった勝負だった。
佳奈子は砂煙で汚れたスーツを軽く叩き、メリケンサックをこちらに向ける。
「全部終わったら話を聞かせてもらうわ。覚悟しておきなさい」
射殺すかのような鋭い視線に、私の背筋が粟立つ。
ヤバい、キレてるよあの人。どうしよう。
いや悪いのは私なんだけど、でもそんなメタい事したらダメだと思う。
倒れた琳子を担ぎあげると、佳奈子は闘技場の隅へと足を運んで行った。
お願いしますサイコロの神様。佳奈子ではなく楓花が勝つようにしてください。
でないと話が纏まりません。佳奈子が勝ったら作者はその時点で逃走しなければいけないです。
だってこの戦いに理由なんてないですし。