ネギVSチャクラム
第一試合。整えられた土の地面に二人が立つ。
互いの間は10m程。
ネギを片手に持ち柔らかく微笑む楓花と、大量のチャクラムを腰に吊るして同じく笑みを浮かべるフレイミー。
向かい合う二人からは気負いなど全く感じず、まるで友人と遊びに来たかのような気軽さがあった。
一陣の風が舞い、場内には薄い砂煙とネギの香りが立ち込めた。
それが収まるのを待ち、試合開始の鐘がカン、と鳴らされる。
先に動いたのは、フレイミーだ。
腰に吊るされたチャクラム、それを両手に持ち、指先を入れてクルクルと回す。
チャクラムとはこうして遠心力をつけて飛ばす暗器の一種だ。その小さな形から想像も出来ない破壊力を持っており、達人が放つ一撃は30m先の竹を両断できるほどに鋭い。
回転する、必殺の刃。それを投じる機会を狙いながらも、表情は依然として穏やかなまま。
対して、楓花がネギを中段に構えながら踏み込む。日常的な足運びながら、その一歩は瞬時に5m程距離を詰めた。
超人的な身体能力。しかしそれは相手も等しく持ち合わせている。
詰められた二人の距離。その刹那、目にも止まらぬ手捌きで投擲された輪が楓花に迫る。燕の如き速さで襲いかかるそれを、すいと半身になる事で軽やかに躱しながら、更に距離を詰める。
間合いに、入った。短剣ほどの長さしかない白ネギが残像を生みながら横薙ぎに払われる。その一閃は、フレイミーが握り込んでいた次のチャクラムによって防がれた。遅れてきた風圧が二人の髪を揺らす。
「まぁ速い。強いんですね」
「そちらコソ。あれを避けマスか」
拮抗するチャクラムと白ネギ。傍から見れば異様なそれは、本人たちにしか分かり得ぬ緊張間を生み出している。吐息を感じるほどの近さで鍔迫り合うが、込められた力は互角。
「では、こうしまショウ」
不意に、フレイミーが力を緩めた。押し出される勢いを殺さず背後に倒れ込み、両手を着きながら右足を蹴り上げる。その指の間には、いつの間にかチャクラムが挟まれていた。
三日月のような軌道での切り上げ。死角から迫る一撃を楓花はネギの根元でふわりと受け流す。次いで振り上げられた左足の一撃を敢えて受け止めて弾き落とし、隙を作り出した。
風を切り斜めに振り下ろされた斬撃に対してフレイミーは腕の力だけで背後に飛び退って避ける。離れ際に放たれたチャクラムは、容易に叩き落とされた。
再び、間合いが離れる。
「あらあら。体操選手みたいね」
崩れることの無い柔らかな微笑み。対して、フレイミーも微笑む。
本来であればリーチの差で勝るチャクラムの方が圧倒的に有利なはずだが、達人同士と戦いでは音速に並ぶ速さで飛び交う飛び道具すら、そうそう当たる事は無い。
互いの力量は互角。一手をし損じた方が敗北する。しかしてその緊張感すらこの二人は楽しんでいる。
「次は私の番ですね。行きますよ」
告げ、構える。
右手に持った白ネギを左腰に据えて、左足を後ろに引いて深く腰を落とす。地を舐めるほど下げられた顔から漏れる呼気。それは鋭く、甲高い音を立ててフレイミーに圧を掛けていく。
瞬間、楓花の体が前に弾き飛ばされた。
瞬きする間もなく詰め寄り、一閃。鋭く研ぎ澄まされた風を切る一太刀は、チャクラムを構えたフレイミーの両手を跳ね上げた。大きく開いた体に、空いた左拳を叩き込む。
腹に見舞われた打撃。後ろに飛ぶ事で威力を殺すも、深いダメージが残った。
「カハッ……!?」
くの字に曲がったフレイミーの体。その下に潜り込むように踏み込み、楓花が追撃を放つ。
目にも止まらぬ速さで襲いかかる白ネギ。その先端は、咄嗟に繰り出されたチャクラムによって止められていた。
しかし、分が悪い。ダメージの残った身では衝撃を受けきれず、フレイミーの体が浮き上がる。その機会を逃すはずもなく、白ネギが突き立てられる。
その必殺の刺突は、ぐにゃりと身を捻る事で躱された。
柔軟な動きで全力の一撃を避けられ、楓花の体が伸び上がる。そこに差し込まれたフレイミーの膝が彼女の胸を打ち据えた。
無理やり肺から空気を吐き出され、楓花の動きが止まる。
好機。至近距離、それも死角からの攻撃。
空中で振るわれたチャクラム。楓花はその影すら捉えることは出来ず、勝負が決した。
但し。
「……ふふ。こちらの方が速かったですね」
チャクラムが楓花の身に届くより速く。
白ネギがフレイミーの首筋を打ち据えていた。
そのまま意識を失い倒れかかるフレイミーを抱え込む。
決着の直後ですら、彼女の微笑みが途切れることは無かった。
まさかの展開に観客達から声が消える。
静寂の中に響く、チャクラムが地に落ちる軽い音。
静寂に包まれた会場。そして驚愕する作者。
サイコロで決めた勝敗の結果に絶望しながらも諦めずに頑張った作者は、褒められても良いと思うのであった。
頑張りました。感想で褒めてください(直球)