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親愛なる勇者へ 親愛なる魔王へ(改稿版)  作者: 望月 幸
第一章【親愛なる人間たちへ】
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六話【魔王好きの美少女】

「えー、それでは全員に飲み物が行き渡ったようなので、始めさせていただきますねー」


 すっくと、あの鳥男がジョッキを片手に立ち上がった。座った状態で彼を見上げると、天井に頭が付くのではないかと思うほど身長が高い。


「わたくしはオカルト研究会会長、四回生の高瀬伸夫たかせのぶおと申しますー。みなさん、本日はお集まりいただき、誠にありがとうございますぅー」


 独特な話し言葉であいさつを始める鳥男――もとい、高瀬さん。キャラに似合わず随分仕切るなと思っていたが、彼こそがこのオカ研のリーダー兼幹事だったのか。言われてみれば、オカ研代表にふさわしい摩訶不思議なオーラを纏っている。


「ここにいらっしゃるということは、大なり小なり我々の活動に興味があるということでしょう。今回はメンバー全員が揃っているので、詳しい話は近くの会員たちに気軽に尋ねてくださーい」


 いつの間にか、何人か首に名札をげている。数えてみると八名。小規模なサークルだ。


「さて、挨拶はこれぐらいにしまして。我らがオカルト研究会に……乾杯」

「乾杯」


 いまいち覇気のない乾杯の音頭を合図に、僕らはジョッキを上げ、近くの人たちと軽くぶつけ合い、ぐいっと一口飲んだ。アキト一人だけが、なんとか場を盛り上げようと精いっぱい拍手を響かせていた。




 乾杯を見計らったかのように出されていく料理に手を付けながら、僕とアキトはぐるりと周囲を見渡した。

 

「……なんか、美人とか可愛いとか、そんな言葉が失われた世界なんだな。ここは」

「だから、そういうのは期待するなって言ったじゃないか。それに失礼だぞ」周囲に聞こえないように顔を近づけて話す。


 他の大学がどうかは分からない。ただ、愛智大学オカルト研究会員のルックスは「君たちは、他人の顔や服とか見たことないのか?」と一喝したくなるほどダサかった。

 素材は、たぶん悪くないのだ。たぶん。

 しかし、と思う。小学生がそのまま大きくなったような体つきだったり、「それどこで買えるんですか?」と訊ねたくなるような奇抜な服だったり。首や腕回りには、呪いでもかけられそうなアクセサリーの数々をジャラジャラ鳴らしている。

 ひょっとして、僕らは既にオカ研の術中に嵌っているのかもしれない。このままでは、店から出る頃には魔法陣の一つでも描けるようになっているのかも……。

 

 そんな中で、あのウーロン茶の女の子は可愛らしさが際立っていた。肌は白く、それと対照的な艶やかな黒髪がオレンジ色の照明を反射し明るく輝いている。ふんわりとした白のチュニックを身にまとい、お城から抜け出してきたお姫様のようだった。

 そんなお姫様はあろうことか、隣に座るオカ研の先輩と魔王について熱く議論していた。


「私は思うんです! あの魔王様はきっと、侵略という名のもとに新しい地球を生み出す存在なのです!」

「いやいやいや! そもそも僕は、あんな普通の中年男性が魔王とは思わないでございますよ! いたずらに魔王を刺激すれば、それこそ何の予告もなしに我らの地球は闇の中に堕ちましょうぞッ!」


 口角泡を飛ばすとは言うが、それを先ほどまで恥ずかしそうにしていた美少女が行っているとなると理解が追いつかない。隣のアキトを見ると、唯一可愛いと思っていた女の子の魔王様オタクっぷりに唖然と開けていた。

 

「ねぇ、あなたたちはどう思いますか!?」


 熱弁する美少女とオカ研メンバーに案の定ついて行けず、僕とアキトは大皿のから揚げとポテトを平らげていた。お酒も三杯目に口をつけていた。そんなときに急に話を振られ、喉にから揚げが詰まりそうになった。


「ングッ……え~っと、何の話でしたっけ?」

「ま・お・う・さ・まの手下の話ですよ! ぼんやりしないでくださいっ!」


 酔っているわけでもないのに、彼女は熱気で赤くなっていた。分厚い眼鏡の奥で、瞳の中に炎がたぎっている。

 それにしても、手下? あの映像には魔王一人しか映っていなかったはずだが。


「その顔……ほんっっっとうに、なんにも知らないんですね!」

「も、申し訳ありません!」


 はあやれやれとため息をつきながらも、彼女は僕らに説明してくれた。


「あくまで噂なんですけどね? この近辺で、得体のしれない生物……いや、生物かどうかもわからない〈モンスター〉が発見されたらしいんです!」

「へぇー! どんな奴だったんだよ、ソレ」


 意外にもアキトは乗り気だった。まあ、相手はこの場で唯一の美少女だからなぁ。

 

「見つけたのが酔っ払いのうえに、真夜中でよく見えなかったらしいんですが。なんでも、巨大なナメクジみたいなものらしいですよ!」

「巨大なナメクジ……」


 想像するだけで鳥肌が立つ。数センチでも気持ち悪い存在だというのに、そんなものと出会ったら卒倒するかもしれない。

 

「実は私も探してるんですけどね、もう全然見つからないんですよぉっ!」


 両の拳でドンドンとテーブルを叩く。それだけ見たら駄々っ子のようで可愛らしいが、会話の内容がおぞましくてそれどころじゃない。

 だというのに、アキトはとんでもないことを言い出した。


「よっしゃ! 俺と、この叶銘で探し出すからさ。君の連絡先教えてよ! 見つけたらすぐ連絡入れるからさ!」

「お、おい。何をいきなり……」

「いいんですかっ? 助かりますっ!」


 僕が制止する間もなく、二人は携帯を近づけて連絡先を交換し始めた。呆気にとられる僕にも、彼女が携帯を向ける。


「ほら、叶銘さんも!」

「ああ、わかりました……」


 彼女の剣幕に押され、いつの間にか僕も携帯を取り出していた。


桜美津姫さくらみつきです。力を合わせて頑張りましょうね!」


 おーっ! と拳を上げる二人。僕はそのテンションについて行けなかった。




 丸々二時間近く、尽きることない美津姫の話に僕らはトイレに立つことさえできなかった。コンパが終わって店の外に出た頃には疲労困憊だった。


「連絡先ゲットした代償はデカかったな……」

「頼むから、今度は僕を巻き込まないでくれよ……」


 ぐったりする僕らの膨らんだお腹を、美津姫がトンと叩く。危うく中身が押し出されそうになって、慌てて口を塞ぐ。


「お二人さん、期待してますからね! それじゃあ、また学校で!」


 ブンブンと両手で手を振り、その場を笑顔で去る美津姫。小さなその背中が夜の街に消えていった。


「可愛いんだけどなぁ……」

「ああ。可愛いんだけどねぇ……」


 嬉しいような、残念なような気持ちを抱き、僕らは帰路に就いた。お店の前ではまだオカ研メンバーが魔王について語り合っていた。

 僕が魔王の息子かもしれないって言ったらどうなるかな? 捕まり、根掘り葉掘り訊かれ、キャトルミューティレーションされてしまうかもしれない。

 想像して怖くなって、その場からそそくさと立ち去った。

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