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童話系短編

お月様を目指して

作者: 腹黒兎




カーテンを引き忘れた窓から月光が部屋の一部を明るく照らす。

昼間の生き物は眠りにつき、今は夜の生き物が活動する時間。




タリアは上半身をむくりと起こすと、あくびをしながら腕を上へと伸ばした。

んー、と伸びた両腕を左右に揺らして、眠たげな瞳を何度か瞬きする。

ぱっちりと

目を開けると知らない風景が広がっていた。


ん?


右を見て、左を見て、上を見て、下を見る。

どこを見ても見覚えがない。

暗くて良く見えないが、知らない場所だ。


んー?


首を捻って体を左右に揺らす。

後ろを見ようと背中を反らして、反らしすぎてパタンと後ろに倒れる。


あっ


視線の先にはまん丸のお月様がほんわりと浮かんでいた。


お月様いた


明るいまん丸のお月様。

高い所からこっちを見てる。

ここがドコか分からないけれど、あそこまで行けばどうにかなりそう。


くるりと体を反転し、手をついて立ち上がる。足元が柔らかくて少しだけふらついた。

ふよんふよんと揺れる地面をゆっくり歩いて行けば、体の半分くらいの段差があったのでぴょこんと飛び降りる。

きちんと足を揃えて着地できた。両手も広げて綺麗な着地。

誰も見てないけどカッコよくて満足。

ふんすと鼻を鳴らしてにっこりと笑う。


降りた場所は硬い木の上。ツルツルしててピカピカしてる。

ここはお月様の光が届いてないから暗くて良く見えない。


ここはどこだろう。

木もない。

花もない。

風もない。

硬い木とふわふわのものがあって、甘い花に似た匂いがする。


知らない場所


歩いて行くと端まで来てしまった。

ストンと切れた崖の下は真っ暗で見えない。

切り立つ崖の向こう側に丘のような稜線と、白い地が見える。

向こう側までは走ってジャンプしても届くかどうか怪しい距離。もし落ちたら確実に怪我をしそう。


んー 困った


どうしようかと周りを見てみると、鳥の羽があった。大きくて綺麗な鳥の一枚羽。

根元を持って羽を抱え上げて向こう岸へと渡す。羽の先端が向こう岸に架かる。

こちら側の根元を足でトントンと叩く。

ふよんと揺れたが落ちない。

よし。と踏み出して羽の硬い場所を渡る。

ふよんふよんと小さく揺れて歩きづらい。

両手でバランスを取りながら慎重に進む。


半分まで来た時、向こう岸に架けた羽先がカタンと落ちた。

縋り付いた羽と共に奈落の底へ。

ビックリし過ぎて悲鳴も出ないまま羽と共に落ちていく。

ギュッと目を閉じたら、ぽすんと柔らかな物の上に落ちた。


びっっっくりしたぁぁ


抱えていた羽をポイっと捨てて、見上げると崖の上は遥か上にある。背伸びしてもジャンプしても届かない。


どうしよう


ゆらゆらと揺れる妙な弧を描いた地面から腹這いになって降りてみる。

自分の身長ぐらいの柔らかな丘みたいな場所から降りると、硬い地面があってホッとした。


お月様が見えるあの場所に行くには、この崖を登って向こう側に行かないといけない。

この崖は2色になっていて、下はヒラヒラした物で出来ている。

ヒラヒラを掴んで引っ張ってみる。

落ちたり崩れたりしないから大丈夫そう。それを握って登り始めた。


よいしょ、よいしょ


木登りは得意だけれど、崖登りはやった事がない。

どうにかなるかと思って始めたけど、どうにかなりそうでよかった。

色が変わった先を登り始めると少し疲れてきた。気を抜くと掴む手が滑りそうになる。

ふぅと息を吐いて、気合いを入れ直す。

ここを登らないとお月様が見えるところまで行けない。


よいしょ、よいしょ


ようやく頂上まで登れた。

這うように先に進んで座り込む。


はぁ 疲れた

何か飲みたいけど、何もない


見上げても空は見えない。

風の音も水の音もしない。

でも生き物の気配はする。

どこかから獣の寝息が聞こえる。

柔らかい地面も、ヒラヒラの崖も知らない。

こんなに何もないところなんて初めてだ。


ここはどこだろう

知らないものばかり


この地面も柔らかい。

白かと思ったけど、よく見れば違う色だ。

お月様よりも少し濃い色。白い草があちこちに散らばっている。

この草は地面にくっついていて離れない。


変なの


よいしょっと立ち上がり、歩き出す。

ふわん、ふわんと弾むのが面白い。

ふわん、ふよんと歩いていたら、こんもりとした丘が見えた。

途中から手をついて四つん這いで登っていく。

頂上はすぐだった。

立つと丘を下ったさらに先がお月様の明かりに照らされている。

あそこまで行かなきゃ行けない。


ゴールが見えればやる気も湧いてくる。

タリアが一歩を踏み出した途端、地面がぐらりと揺れた。

腕を振ってバランスを取ろうとしたが、下から突き上げるような大きな揺れが来て、タリアは空に投げ出された。


「にゅわぁぁぁおぁぁあ!!」


手足をバタつかせても何もない空に掴むものは無く、綺麗な放物線を描いて落ちて行く先は月光の中。

タリアが見開いた目の、視界いっぱいに写るのはまん丸に輝くお月様だった。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



窓から差し込む月光を浴びて、小さな妖精の背中に羽が生える。

月光を浴びて、月の粉を煌めかせながら空を飛ぶ妖精を少年は呆然と見ていた。



何か夢を見ていて飛び起きたら、部屋の中を妖精が飛んでいた。

まだ夢を見ているのかと、目を見開いたまま頬を摘めば痛い様な気がした。


手の平ほどの大きさの妖精は4枚の薄い羽を煌めかせながら窓へと飛んで行き、コツンとぶつかった。

透明なガラスをぺたぺたと触りながら首を傾げる。


ああ、そうか。出たいんだ。


理解した少年は起き上がって、妖精を怖がらせないようにゆっくりと近づいていく。

少年に気がついた妖精が驚いて更に上に飛ぶので、慌てて止まった。


「何もしないよ。外に出たいんだよね。窓を開けてあげる」


何もしないと両の手の平を向けてゆっくりと振ってみる。

しばらく互いに見つめ合っていたが、妖精がゆっくりと降りてきて、少年の近くを飛び回る。


可愛いな


少年は微笑み、窓の錠を外して窓を開く。

夜風がさぁと流れ込んできた。

涼しげな風に目を細めると、少年の横を飛んで妖精が外へと出ていく。


「さよなら。今度は気をつけてね」


昼間に飼い犬が吠えていた先で見つけたのは気絶した手の平程の小人だった。

籠にタオルを敷いて寝かせてあげたのだけれど、まさか妖精だとは思わなかった。

夜にならないと羽が生えないのかもしれない。


妖精は月明かりの中でくるくるとダンスを踊るように跳び回り、キラキラと月光の粉を振り撒く。

そして、少年の顔の前まで飛んできて、鼻先にチュッとキスをして月光に溶けるように飛んでいってしまった。


少年は見えなくなった妖精を惜しむかのように満月を見続け、やがて窓を閉めて眠りについた。





妖精を助けた小さな国の王子様は、妖精の加護を受け立派な王様になりました。

王様は、満月の夜は寝室の窓を少しだけ開けておくそうです。たまにキラキラと光るものが王様の寝室に入って行くけれど、それはお月様だけが知っているお話。



 おわり

タリアの足跡

ベッドサイドボードの籠の中→羽ペンと落下→室内履きの上→ベッドマットシーツ→かけ布団→月光


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― 新着の感想 ―
[一言] 巧い表現でした。タリアが男の子なのか女の子なのかも明言されていないのでなんとなく女の子だと思いながら読んでいたのですが、タリアの冒険にハラハラしながら月を目指す姿がありありと浮かびました。そ…
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