殺人デッキ
パッパッ………
シュラララララ
「ふむ……」
喫茶店のマスター、アシズムは丁度。
トランプを使った手品でもするかのように、カウンター席でそのカードを片手で広げた。
マジシャンとかがお似合いそうな、老店主だ。
そんな彼と対峙して座っている、野球帽の男は
「似合ってるな。アシズム」
「そうかね?ありがとう、広嶋くん」
「だけどよ、邪魔だ。俺はモーニングセットを頼んだぞ」
「そうだったね。じゃあ、先ほどしていた目が覚める話を君にするよ」
「手短にな」
◇ ◇
自分の周囲から半径40メートルにいる人間を、問答無用で即死させる魔法のカードデッキがあった。
髑髏の縁に入れられた、その人間達の姿と名前、生年月日が映し出されたカード。
生成したデッキをシャッフルし、一枚引き。確認したその瞬間。
選ばれたカードの者は、即死する。
証拠も残らず、無関係な人間を理不尽のまま命を断つ。
凶悪な能力。
『そんなに人を殺したいのならあげようか』
包丁を手に取り、暴れる狂人になれず。拳銃なんて手にもできず。それでも、このクソみたいな世界をグチャグチャのクチャクチャにしたい。あと一歩進むと、自分はそうなるんじゃないか。そういう人間に接触した神様は、死を身近にできる能力を与える。
『君はシャッフルして、カードを引くだけ。それだけで君の近くの誰かが死んでしまう。手を汚す、汚いこともしない、誰かに疑われることなく。絶対の死を与えるもの』
誰かの人生をメチャクチャにしたい。そんな気持ちが塵程度にあるのなら、……。
男は頷き。授かった。
パッパッ………
近くの飲食店に入り、カウンター席の下でそれをおこなう。
カードをシャッフル。そして、一枚目を引くだけ。
この中にいる人間の誰かが死ぬ。
どうにでもなれっ………。
◇ ◇
「そして、自分を引きましたとさ」
「だろうな」
魔術、”殺人デッキ”
使用者の半径40mにいる生物40名未満から、カードに選ばれた1人を問答無用で即死させる。
カードに選ばれる生物の条件。
1.使用者の半径40m以内、使用者を含めた生物
2.使用者を含め、生物のフルネームが分かること
3.使用者を含め、生物の生年月日が分かること
カードは常に40枚生成され、範囲内に条件を持つ40名が満たない場合。カードの生成条件を満たした人物をランダムで被らせる。
「ちゃんと説明してやれよ」
「そーする頭があれば、まだまだやり直しはできたという事さ」
珍しく短く話が終わったところで、広嶋の頼んだモーニングセットを運ぶアシズム。
随分、短い話だったなぁ。って思いながら、パンを食べる広嶋にアシズムは、ハッとした口をし。
「あ、今回はちゃんと自分で後始末できたオチだからね!!決して、いつも!君達に頭を下げて、能力の回収をお願いしてるわけじゃーないからね!」
「別に疑ってねぇよ……話が短いなーぐらい」
「ホントに大丈夫だからね」
「……いや、人死んでて大丈夫なのか?まぁ、大丈夫な奴なんだろうけどさ」
結構焦り気味な表情で、信じてくださいよっていうお願い。
「お前、人に迷惑をかける神様なんだから、ドンッと胸を張れよ」
「その言い方は全然、讃えてないよね?」