2話 「解なし」
2話
「2つのお願い?うん。いいよ」
「まず一つ目はこの大会、私が優勝したらその時、大事な話があるので聞いてほしいのです。」
うん。ん?なにこれ、なんか告白的な流れ?まぁ今日が初対面だぞ?まぁ期待をするのはやめておこう。
「いいよ。まぁ優勝でもはできないよ。俺がするもん!」
「さすが社長さん。私だって負けませんから」
しゃ、社長さん?この子まさかね...
そのセリフを聞いて、間違いなくこの子がいかに天才かを理解できるのは俺だけだろう。
「そして2つ目のお願いです。私には2人の兄弟がいます。妹と弟なのですが、その2人は一年前に突如姿を消したのです。妹は情報系の天才で弟は化学の天才、そのあまりに将来の有望な天才児はテレビでも取り上げられることもあるくらいでした。その2人が誘拐され、研究や開発にでも携わらせようとしているのだと思います。警察に頼りたいけど、警察に電話したら命は保証しないと置き手紙が残してありました。。なんもできないまま1年経っても見つけることができないのです。そこで先輩に見つけるのを手伝ってもらいたいのです。勝手なお願いなのは分かってます。でも本当に先輩の力が必要で...」
結構シリアスな内容に唖然としてしまった。もちろん協力するのはいいのだが...
「分かった。見つけるのを手伝うよ!でもさ、お前ほど頭のいいやつが1年かけてでも見つけられなかった人を俺が簡単に見つけられるのかな」
「実は私、小学校5年生の時から中学校3年生までの5年間、病気で学校にろくに通うことができない状態でした。中学3年生の夏に退院して、なんとかこの高校には進学できたのですが、5年間通ってなければもちろん天才とは程遠い状態でした。それでもどうしてもこの高校に行きたかったので毎日必死こいて勉強して、遅れた分を取り戻そうとしてました。」
「そんなことがあったのか、いまいち軽薄な理由で高校選んだ俺と違って七海はすごいな」
どこか余裕のない古谷がとても嬉しそうにしている。相談乗ってくれると言ったことがよほど嬉しかったのかな。
「七海って呼んだ...やばいな..これは」
古谷が小さい声で何かを呟いたが俺は聞き取れなかった。
「でも良く七海は高校入って1年足らずでこの大舞台に立てるほどの天才になったね!本当に頑張ったんだね」
「先輩!だめです。それ以上なんか褒められると調子に乗ってしまいそうなので一旦やめてください!!」
何故そこまで頑張れたのか、いろいろ聞きたいことはあったけどそれはまたの機会に聞くとしよう。
「わりぃわりぃ、あともう少しで始まるから急いでご飯食べよう!」
あと10分もすればまた体育館に戻って準決勝が始まる。準決勝.....
去年の事を思い出すとどうしてもトラウマになってしまう。去年の準決勝中に起きた事故。細かくは覚えてないけどとにかく出血しすぎてなんかそれ以降の記憶は無いな。意識朦朧としてたっけ。
「そら先輩、震えてますね。そうなるのも無理はありません、あんな事があれば...でも安心してください。私、設備に不備が無いか何度も確認しましたので。先輩は私に負けない事だけを考えてくださいね。」
「ありがとうね。七海は優しいな」
「だからそれだめですって。。もう!!準決勝終わったらまた話しましょうね」
何だかこっちまでほっこりしてしまう。容姿、声でいったら間違いなく俺のタイプ。性格はどうかと聞かれればそれも実は結構好きかも。
なんて考えてたら恐怖心なんてものはもう微塵も欠片も残っていなかった。
そして準決勝...
「さぁ〜お待たせしました。それでは準決勝です!」
「それでは問題です!現在我々は太陽にある地球で生活しており、日々地球の重力を受け大地へと引っ張られています。そこで問題、スーパーロケットが地球表面で超加速し、地球の重量を振り切り、なおかつ太陽の万有引力を振り切り無限の彼方へと到達するには最低でも初速いくらで発射する必要があるか計算しても求めなさい。ただし制限時間は10分です。」
なるほど、第3宇宙速度を求める問題か。
互いに静止してるいると仮定した速度から地球の公転速度、自転速度を求めて引けばいける。
解答オープン
俺...16.7km/s
七海...16.7km/s
漆原...42.1km/s
望月...16.7km/s
正解はこちらです。
「16.7km/s! よって3名が見事正解です。」
こんな簡単な問題出しても差がつかないと思ったがこれでも間違えるバカがいるもんだな。あのチャラ男はこんなんもできないのか。
そして次々と難問という名の簡単な問題を解いていった。
点字を読み取るも問題に、周期表を全て完成させる問題。
古代ピラミッドの創設にかかる時間を微積で求める問題。などなど
よく考えれば問題を解く時はずっと七海のことを考えてる気がする。兄弟が1年前に連れ去られた?あいつは一年も一人で戦ってきたのか?両親は?そもそも俺をここまで信用できるに値する根拠は?
とにかくひたすら解きながらこんな事を考えていた。七海のことを考えていたおかげで恐怖心なんて考えなくても良かったので感謝だな。
「高崎危ない!」
ドンっと数学バカの望月に押されて転がり込んだ。この瞬間去年の出来事が脳裏に蘇った。そうだ、去年も上からステージ上の大きな部品が頭に目掛けて落ちてきた。望月がいなかったら間違いなくまた病院に直行だった。ただ一つ疑問に残るのは、上から落ちてきたところが去年と同じく頭の真ん中から少し外れた位置に落ちている。ど真ん中なら死んでいてもおかしくないだろう。
「先輩、こっち。」
七海に引っ張られ、ステージの横にある控え室に向かった。
「お怪我はありませんか?」
「うん、大丈夫。」
ゾクッとする恐ろしい話だがこの時は少し冷静だった。
「ねぇ、七海。これは意図的に仕掛けられた。とみるべきだよな?」
「そうですね。2年連続で準決勝中に先輩の頭上からガラスの破片が落ちてきたわけです。これは人為的なものとみるのが必然です。」
バタッ。ドアから助けてくれた望月が入ってきた。
「望月。さっきはその、助かったよ」
「別に助けたつもりなんかねぇよ。ライバル居なくなったらこっちが迷惑だ。」
こいつらしい返事だった。けどしっかりライバル視してくれて素直に敬意をはらうこいつの根はとてもいい奴かもな。
「望月さん。先輩のこと守ってくれてありがとうございます!本当に、ほんとに感謝してます。」
「お、おう..まぁ友達助けただけだよ。それに別に助けた人が高崎じゃなかったって助けてたし。」
こいつ。。ちょっとお礼されたからって調子に乗り上がって。俺の七海だぞ...違うけど。
いや全然違かったわ。でもまぁここは助けてくれたのは事実だし黙っておく。
「ちょっとこれからの予定、先生に聞いてみるわ!」
望月は部屋を離れステージに集まる先生たちのところへ向かった。
「あの先輩?私、先輩に2つもお願いしましたよね。まぁ一つは優勝したらお話する予定ですが、兄弟を助ける協力をお願いしてもらうので、私も先輩のために何か協力をします。1人でやれることには限界ありますし1人だけだと心細いですからね!お互いがお互いのために助け合っていけばきっと全部解決できますから!」
「ありがとう。多分1人だったらなんもできてなかったかもしれない。頑張ろうね!」
笑顔で頷いてくれたこの子は本当に天使のような人だ。
犯人みっけて炙り出してやると決めた。
この時、LINEも交換した。これでいつでも連絡を取れるのはしばらくネット環境から離れて寂しく病院にいた俺からはとても嬉しいことだった。
「2人ともいいか?昨年に続いてこのような事故があったわけでな。おそらくこれは意図的に仕組まれたことだと思われる。なので身の安全のため、犯人が見つかるまではこの大会は持ち越しだ。」
「わかりました。」
それもそうか。教員の立場からすれば合理的な判断だし正直まだトラップがあるのかもしれないので俺もそうしたいと思っていた。
「そら先輩?今日うちに来ませんか?さっきの休憩の時はあまり時間ありませんでしたからゆっくりお話がしたいのです。」
「おっけぇ!!わかった」
なんかもう事件のおかげなのか、より幸せじゃね?これ。って不謹慎だな。まじで
俺が優勝したら、真っ先にこいつを富士急にでも誘おうって話は一旦保留だな。
控室を離れると去年の大会ぶりか、馬鹿みたく仲良かった茅野大地と再開した。
「大ちゃん!!おひさ!!」
「そらぁ!元気で良かったよぉ!おらな、病院にお見舞いに行こうとしたんけん、でもな、先生がなどこの病院か教えてくれなかったんよ。ごめんよぉ。寂しかったろぉ。空あいたかったよぉ。」
「来てくれようとしてたんだな。ありがとう!それだけで嬉しいよ!親友!」
「そらぁぁ〜〜」
俺の服で涙拭く大ちゃんに再開できたのは俺も嬉しかった。
大ちゃん。元気でよかった。
「ほら大ちゃん泣かないの!今度ラーメンいこうね」
「俺なぁいっぱいいっぱい美味しいお店見つけとんのなぁ、そらぁが退院したら全部連れてってやるって決めてたんだぁ、全部連れてくってぇ約束すんなぁ!」
「そっか!!楽しみだな!ありがとう!全部連れてって!」
交友関係の少なかったときでもずっと大ちゃんは一緒にいてくれた。友達想いな大ちゃんはとても信頼できる。
「なぁ、大ちゃんお願いがあるんだけど。」
その日の大会はとりあえず切り上げになったということで七海の家に七海と一緒に向かった。
「ねぇとりあえずコンビニかなんか寄っていい??家にお邪魔するわけだしなんか買って行きたいんだけど!」
「いいですよ、気にしなくて!この時間は家は誰もいませんから!」
まじ?家に誰もいないし、女子高生と2人って緊張するなぁ。
「じゃあ、とりあえず飲み物とお菓子とカップラーメンくらい買うね!」
「さては先輩、私の家にそのまま泊まる気ですね??」
「え、いや。そんな、俺は普通にお腹空いただけだよっ!」
「先輩がどうしてもって言うなら私が許可をしますよ!」
結局、泊まるかどうかは一旦保留にして七海の家にやってきた。
「お邪魔しまーす」
「どうぞ上がってください。私の部屋はこっちです。」
七海の家に来た。二階の七海の部屋に2人きり。これ見つかったらやばいんじゃあ。
「ねぇ、これさお父さんとか帰ってきたらまずいんじゃ。。」
「平気ですよ。父は単身赴任で1ヶ月に一回しか帰ってきません。大きな行事の時とかは帰ってきますが。お父さんも弟と妹を必死こいて探してくれています。」
「これが七海のお父さん?」
七海の部屋に七海と両親、そして七海の妹?と思われる4人の家族写真があった。この背景のお家は昔住んでいた家か?とても古くて、いえば貧乏宅ってところだ。
「その男の人は私の元父です。私が入院してすぐに交通事故で亡くなりました。事故のことは病院で母親から聞きました。」
「そうか。七海凄い大変だったんだな。病気と一人で戦って辛かったろ。」
「辛くない。といえば嘘になりますが、可愛い弟も出来ましたし、とても優しいお父さんもできたので私は幸せでした。ですが今も弟と妹がどうしているのかと考えるとどうしたらいいかわかんなくって。」
そっか。七海の妹と弟は血は繋がってないのか。それで、七海を残して連れ去られてしまったと言うことか。七海は心を休ませる暇もなかったんだな。ほんとに、辛かったんだろうな。
「プルルルルルッ プルルルルルッ」
七海の部屋にあった子機の電話が鳴った。だが二回プルルルルルっと鳴った所で切れてしまった。しかも非通知か。
「出なくて良かったのか?」
「今日は2回ですか。」
今日は2回?なんのことだろう。着信音が二回なったってことなのだろうか。
「今日はってことは毎日来るの?迷惑電話??」
「ほぼ毎日非通知で電話が来ます。連日で電話が来て1日空ける、と繰り返しで1年前から鳴っています。」
「なぁ、それって電話が来るときは必ず2回プルルルルルって鳴るのか?」
「いえ、2回の鳴る時もあれば1回しかならないこともあります。ですが、3回以上なったことはありませんね。」
一年前からこれが続くのか。迷惑電話じゃないのかな。
「その電話に出たことは?」
「一度だけあります。ですが直ぐに切られてしまいました。」
詐欺とかそういう類のものかと思ったがそれなら電話を切る理由がないな。
「もう嫌と言うほど電話きているので慣れてしまいました!」
笑いながらそんなことを言ってくるが一年前から迷惑電話が続いたら自分ならもう固定電話なんて捨ててしまうだろう。
話が逸れていたが、そもそも連れ去られている七海の兄弟が生きている保証はあるのか?
研究に没頭させられているなら逃げる隙くらいはあるんじゃないかな。
「ねぇ先輩、ご飯食べましょう。」
「続きは後でまた話そっか。」
と言うと七海の表情が少し暗くなるが無理やり笑顔を作ってこう言った。
「本当は何もないんです。」
へ?なんて言った今??本当は何もないんです。?
何がない?何のこと。、
「えっと。それはつまりどう言うこと?」
「私は先輩に妹と弟を見つける協力をしてほしい。ってお願いしました。ですが見つけるために何一つ分かっていることはありません。正直、天才なら見つけられると言う話でもないです。何一つ分かっていることは無いのですから。私だって見つけることを諦めたくは無いんです。でももうなんか、疲れてしまいまして。」
七海はもう笑顔を作ることはできなかった。
というかもう泣いていた。泣き顔なんて晒したくなかったよな、仮にも男の前で。
こいつはこいつなりに、可能性を信じて俺を頼ったのに何もしてやれないのが情けない。
「なぁ、今日は俺がご飯作ってやるから下に来いよ。」
大会中に訪れた悲劇の夜...
なんの解決の糸口も見えない誘拐事件...
そっと声を出さずに泣いてる七海...
2話 完
次回、空が七海のため 次回をお楽しみに