風の獣
俺はこの村から少し離れた所にある山の麓の一軒家に住んでいる。
両親はそこで登山客に対しての売店を経営している。
そして山からは澄んだ川が流れている。
俺は風が気持ち良いと川と山が見渡せる高台に登り風景を見ている。
すると貂のような生き物が現れる。
こいつは友達で俺が俺が採ってきた虫をあげると喜んで食べる。
食べ終わるとこいつは強い風を呼び、二人で空の散歩をする。
皆には内緒だ。
この日もいつものように空の散歩で山の方に行ったら女の子と目が合った。
慌てて見えない所まで逃げてから家に帰った。
するとその女が家にやってきた。
そして俺を見つけると睨んで、
「さっき、見てたでしょ。」
と俺の目の前に来た。
「あれ、いつの間にお友だちになったんだい?」
「あら?本当に。」
「せっかくだし近くを案内してあげな。」
「わぁ、良かったわね。」
大人達は呑気に笑って俺達を追い出した。
「ねぇ、さっきの何?」
「さっきのって?」
「山で目が合ったでしょ。」
「知らない。行ってない。」
「嘘よ。空を飛んでたでしょ。」
「気のせいだよ。」
女はムッとした顔で俺を睨んで、「もう知らない。」と言って走って行ってしまった。
でもここら辺の奴じゃあ無いから迷子になったら俺が怒られるなと思い追いかけた。
奴は高台へ向かって行った。俺も追いついた時には、いつもの友達と会う場所だった。
俺来たから、他の奴が居るのに現れてしまった。
「ごめん。今は虫持ってない。さっきあげたので全部だよ。」
腕に乗せて頭を撫でながら言った。
「かわいい。私もなでて良い?」
そう言うと未だ何も返事していないのに手を伸ばしてきた。
すると威嚇されて慌てて引っ込めた。
「名前はなぁに?」
「知らないよ。」
「ペットじゃないの?野生の生き物は触ると危ないのよ。今日もお母さんから山で見ても触っちゃダメよ。って言われたんだから。」
「うるさい。」
「キュ。」
「ああ。違うよ。またこいつが居なくなったら遊ぼう。ほらここから帰りなよ。」
高台に生えている大きな木に腕を差し出し別れた。
「なによ、それ。なによ…」
奴はそう言って泣き出してしまった。
「ああ、もうなんなんだよ。」
仕方がないので手を繋いで奴の母親まで連れて行ってやった。
それなのに、俺は怒られた。
その日からしばらくすると奴を家の周りでよく見かけるようになった。
この村に引っ越ししてきたらしい。
たまに奴が一人でいる時に見つかると追いかけてくる。
高台に先にいる時もある。
けれど、ある日、未だ降っていなくても雨の匂いがする時。
俺はこんな時には家でゆっくりしているのだが、窓から外を見た時に友達と山へ向かう奴がいた。
しばらくして雨が降ってくるとみんな慌てて帰って来たのに奴の姿が見えない。家にも帰っていないようだ。
奴の親が家にまでやって来て知らないか聞いていた。
俺が山に友達と行っていたと言うとまた怒られた。
怒られて悔しくて悲しくて辛くて俺は高台へと走った。
何も居ないと思っていたら珍しく友達がやって来た。
抱きしめて木の下へ行こうとしたら風が吹き上がった。
貂がいた。友達の他にもう一匹。
そいつらと一緒に空へ駆け上がった。
しばらく一緒に遊んでいると、ひどく寒気がしてきた。
帰ろうとすると友達が止めてくる。
まるで、「ずっと一緒に居ようよ。人間はつらいよ。」と言っている様だった。
それも良いかもしれないと思い寒さも忘れかけた頃、目が合った。友達でない方の貂だ。
友達との仲を邪魔するかの様に威嚇してくる。
怖くなって離れようとした時、友達との間に突風が吹いた。
見る見るうちに俺達は離れていき、友達は上に俺は下に別れていった。
地面に叩き付けられる前に木の枝にしがみついた。
折れそうな音を立てて俺は無事に木の上に降り立つ事が出来た。
すると、反対側の枝に震えている奴が居た。
けれど、俺を見つけると途端に口煩くなった。
「やっぱり空にいたじゃない。……何よ。何か言いなさいよ。迎えに来てくれたんでしょ。」
「違うし。」
俺が煩くなって、木から降りて帰ろうとしたら、慌て始めた奴は俺のいる枝の方へ来てしまった。
そして枝は折れてしまった。
不幸にも泥だらけに二人共なってしまったが、幸いにも怪我はせずに済んだ。俺が最後まで枝を掴んでいたから勢いが殺されたんだと思う。
奴は咄嗟に俺を捕まえたから良かったんだろう。
「帰るか。」
「うん。」
帰る時に奴はずっと俺の手を握りしめていた。
寒くなんか無くなっていたのに、手が暖かく感じると歩くのが早く早くとなっていった。
家に着くと怒られて泣かれた。
汚れているのに構わず抱きしめられて、俺も泣いてしまった。
風呂に入って、寝て、また同じ日々になると思っていたが、高台へ向かっても、もう友達に会える事は無くなってしまった。
もう今では空へ行く事が出来なくなってしまったし、空に行けるのはおかしな事だと分かっているが、あの時、俺が空を確かに飛んでいた事を俺と奴は知っている。
読んでいただきありがとうございます。