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7話「始まりの風②」

そして土曜日が来た。約束した日から家の中は慌ただしかった。理由は言うまでもないが、専業依頼会社の娘を泊めるということ、息子である聡が初めて友達を連れてくるということ、その友達が女の子ということ…言い出したらキリがない。


「じゃあ迎えに行ってくるけど…あまり派手に飾り付けないでよ?」


「あらぁ、印象をよくするだけよぉ?せっかく来てもらうんですもの。」


「寝る場所はお前の所でいいか?」


「言うと思ったよ…てかなんであそこだけカラオケの大人数ルームの二倍ほどの広さがあるのさ!?」


「いやぁ…本当はもっと子供が産まれると思ってね…子供の部屋をひとつにしようって話だったんだよ。ちゃんと仕切りとかつけてたしね。まさか一人しか産まれてこないとは思ってなかった!はっはっは!」


「父上が思う理想像と真逆の現実になっている気がするのは息子だけかな!?」


「大丈夫よぉ、ママもそう思ってるから…」


「てかもう父上とかいうの疲れたからパパとママでいいかな…」


「良いんじゃないかしらぁ。母上なんて堅苦しいもの。聡が言いたいようにしなさい。」


「聡、そろそろ8時だぞ?矢矧公園まで少しかかるだろ?」


「この話をさせた元凶の人に促されたよ…はぁ、行ってきます、パパ!ママ!」


「「行ってらっしゃい!」」


家を出た聡は、歩いて矢矧公園に向かった。一週間もの用意をしてるはずであり、かなりの量の荷物が予想されたので、手を空けておいたのだ。


「まぁ…こんなに早くにいるわけないか。」


と言いつつ聡が矢矧公園に着いたのは8時20分。約束していた時間には40分あった。早め早めに行動することはいい事だが、あまりにも早く来すぎるとやはり暇である。暇つぶしのものは持ってないので、遊具で遊ぶこと10分。公園に綾野が来た。


「よっ。」


「あっ、おはよう聡。今日からよろしくね。」


「おう、よろしくな。早速だけど行こうか。荷物持つよ?」


「ありがと。」


帰りは色々話した。聡の両親がどんな人か、どこに家があるのか、何人家族かなど。どの話も新鮮で盛り上がった。その中でも盛り上がったのはやはり恋愛関係だろうか。どんな人がタイプかに至っては盛り上がりすぎた。盛り上がりすぎて恥ずかしかったくらいだ。


「着いたよ。上がって?」


「お邪魔します。一週間よろしくお願いします!」


「いらっしゃい綾野ちゃん。ささっ、上がってちょうだいな!」


「聡、先に綾野さんの荷物を置いてらっしゃい。」


「分かってるよパパ。綾野、こっち。」


「あっ、待って聡!」


「…なるほど、もう下の名前で呼び合う仲か。」


「いいじゃないですか。あの子達が呼びたいように呼んでるんですから。…しかしあの子…うちの子と同じで能力持ちね。」


「そうだな。正明(まさあき)…君の娘も俺の息子と同じなのか。俺達と同じ様な運命に導くなと言ったはずだぞヴァルハイム。」


両親が揃って不安に見つめる中、聡は綾野を自分の部屋へ連れ込んだ。言い方としては最悪だが、綾野は満更でもないようだ。


「聡の部屋って広いんだね。私がいても有り余るじゃん!」


「まぁお蔭様でダンスとかここで出来るし…要は使い方次第だね。泊まるのもここらしいか…ら。」


あれ?と聡は思う。いくらなんでも一ヶ月という短い間しか知らない子を此処に入れることを了承するほど両親は気楽な人達だっただろうか?それとも…


「あれ?この写真…」


綾野のそんな声にハッと我に返った。いつの間にか綾野は部屋の散策をしていたらしい。


「あぁ、その写真?何処で撮ってもらったか覚えてないんだけど飾ってあるんだ。」


「そうなの?でも聡となんで分かるの?姿とか全然違うのに。」


「それはこれを見た方が早いかな。」


そう言いつつ、聡はとあるノートを見せた。


「…あぁ、そういうこと?写真に写ってるのが聡が書いた絵のキャラだからってことなのね。」


「うん。…そう言えば、話してくれる?入学式の続き。なんで僕が能力持ちだと分かったか。」


「そうね。あれから話してなかったっけ。理由は簡単よ、私も能力持ちだからよ。」


「…なるほど、手品(マジック)系統、精神感応(テレパシー)か。」


「ど、どうして私の能力が分かったの!?」


「ここ一ヶ月の学校生活の一連を見れば分かるよ。特に体育、いて欲しいところに適確な動きで入る。動くのはわかるけど、他人の思ったところに適確な動作でかつ経験者が驚くほどのフェイント。スポーツ全般が得意とはいえ、ここまで出来るとは思えない。」


「能力を完全看破する聡の眼もどうかと思うわよ!?」


「観察力がいいだけさ。」


「それに問題はあなたの能力よ!どうやったら複数の能力を使える訳!?」


「違うよ、そういう能力なの。」


「ど、どういうこと!?」


「無系統、完全(パーフェクト)。それが俺の能力。全てを使える代わりに全て中途半端な能力、言い換えれば極めた一には負ける能力。」


「だからあの時二つ使ったように見えたのね。」


「さ、そろそろ行こう。きちんと紹介しないとね。」


「うん。」


部屋を出て二人はリビングを目指す。だが聡は自分の家に違和感を覚えていた。


「…おかしい。」


「どうしたの?」


「廊下の造りが変わってる。家よりカラオケの廊下の造りに似ている。だがもう自分の部屋にも戻れないようだ。」


「えっ、じゃあ…」


「あぁ。昔パパから聞いたことがある。能力者は二人以上の人間が一定期間一緒にいると異界の扉が現れる…ってね。」


さとしが止まった先には、カラオケの扉には似つかわしくない派手な木製扉がついた部屋があった。


「聡…」


「行くしかない。けど、行くなら二人一緒にだ。」


「うん!」


扉にはドアノブが存在しなかった。どうやら蹴破るしかないようだった。


「行くよ!」


「「せーのっ!!!」」


扉を蹴破った瞬間、二人は眩い光に包まれた。光は徐々に収まり、聡は目を開けた。


「…何処だ…此処は?」


目の前には見渡す限りの草原が広がっていた。振り返れば高さ八十メートル程の木がそびえ立つ森が見えた。


「待て、こんなに髪の毛長かったっけ?それにこの服装…」


気がついたのはほんの少しの違和感。そこから徐々に紐解けていく。


「服装が絵に描いたキャラに似てる…いや、同じなのか?それに妙に重いと思ったら背中に剣があるのか?つまりキャラそのものの設定が反映されている…?あ、そう言えば綾野は!?」


「此処よ。」


後ろから声がしたので聡は振り向いた。


「えっ?綾野…なのか?」


「そうよ?何か変?」


聡が驚くのも無理はない。何故なら写真たてに映っていたピンクの服に水色のスカートをはいた金髪の女性から綾野の声がしたからだ。


「じゃあ入学式の時のあの既視感は…!!」


「私よ。良かった、聡も既視感に襲われてたのね。…漸く見つけた!!あの時は名前も名乗れず別れちゃったから…私…」


「気にすんな。会えたならいいよ。そっか…綾野だったんだ。」


「強運過ぎて逆に困っちゃうね、私達。」


「さて、再会出来たことだし、急ごう。此処が昔あった場所なら近くに村があったはずだ。そこで生活だね。」

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