6話「始まりの風①」
「そんなの、考えるまでもないですよ。ね、綾野?」
「そうね。私としては分かってたことだし、これも何かしら今後の生活にも役に立つと思うし。引き受けます。」
「いやぁ、助かるよ二人とも。是非とも今後に役立ててくれ給え!」
呼び出した理由は生徒会に誘うだけだったらしく、あとは特にないようだったので、教室に引き返した。戻って席に着いたところで先生が登場した。入学式及び始業式は、生徒数が多いということもあり教室のテレビを通して行われた。
「さて皆、改めて本校への入学おめでとう!俺はこの三組の担任を務める岡嶋智章だ。まずはクラスの全員の顔を知るために自己紹介をしよう!はいじゃあ…廊下側の一番前の子からいこうか。」
知っている者知らない者が自己紹介をする中、聡は何を自己紹介するか迷った。考えた結果、趣味や得意なことを言うことにした。
「藤原聡です。趣味は絵描き、歌、読書。得意なことはスポーツ全般とダンスです。よろしくお願いします。」
「山崎綾野です。趣味は絵描き、歌、裁縫。得意なことはスポーツ全般とダンスです。よろしくお願いします。」
クラスの子達が黄色い歓声を送る中、聡と綾野はただひたすら驚愕して顔を見合わせた。まさかここまで被るとは思っていなかったからだ。
こうして波乱の予感を秘めた学校生活が始まった。学業自体は専念しなくても常に満点を取っていた。だが他の面で驚いたことがあった。綾野の父親が、母の務める一菱の専業依頼会社の娘だったということだ。普段の生活からは想像が出来なかったが、父親が夜に経営する私営カラオケ店で受付の手伝いをしていた時に偶然山崎家が訪れたのだ。
そんなこんなで一ヶ月が経った。元から趣味が合うこともあり、聡と綾野はかなり仲良くなった。そんなある日のこと。帰る準備をしていた時のことだ。
「ねぇ聡…ちょっといい?」
「どしたの?そう言えば今日そこまで話しかけてこなかったけど。」
「今週の土曜日から一週間空いてる?」
「うん、特に用事はないけど…なんで?」
「両親が揃って社員旅行で家を空けるのよ。私その間1人だし、使用人が家のことはおまかせをって言われちゃって…実質寂しいのよ。」
「…なるほどね。じゃぁ一旦学校を出ようか。電話で聞いてみるよ。」
「ありがと。」
教室に残っていた先生に挨拶して学校をあとにする。校門から出たのを確認し、すぐさま携帯を取り出し、現在休憩を取っているであろう父親に電話をかける。
「もしもし父上?…うん、ちょっと頼み事。今週の土曜日から一週間友達を家にあげていい?…ほら、前カラオケ店に来た母上の専業依頼会社の娘さん。一週間社員旅行で家を空けるんだって。…うん。…うん。分かった。伝えとくね。じゃあまた夜に。」
「…何だって?」
「問題ないって。内容聞いた瞬間すぐさま綾野のお父さんに頼まれてたこと説明してくれたから…元からそのつもりだったんじゃないかな?」
「分かった。じゃあ土曜日に矢矧公園に集合ね。時間は9時で。」
「オッケー任して。っと、もうそろそろバスが来るか。じゃまたね!」
「うん!また明日!」
こうして土曜日から一週間綾野が聡の家に泊まりに来ることが決まった。だがしかし、この約束事が想像を絶する冒険になることを、まだ知らない。