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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

パートタイマー聖女

パートタイマー聖女は立ち止まらない

作者: 三同もこ

コメディが書きたくて突発的に勢いで書いた聖女の異世界召喚話です。軽い読み物となっております。

誤字脱字等、お見苦しい点も多いかと思いますが、お楽しみ頂ければ幸いです。

 山田トメ子は、ごく平凡な事務員だ。


 残念ながら良い縁には恵まれず、二十九歳現在も彼氏募集中である。


 容姿は普通。化粧をすれば割と可愛い。背は女にしては少し高め。スレンダー系といえば聞こえはいいが、悲しい事に盛らないと体の前面は絶壁に近い。胸はバストというよりも胸筋。


 性格は自称、優しくて温厚。だが、自称は合コン用の設定で、実際には短気でせっかち。意外と義理堅い所もある。


 特技は子供の頃から習っている剣道と空手と柔道と合気道。強さばかりを求めた青春時代を過ぎ去ってから涙する日々。鍛え過ぎた。今でも背後に立たれると反射的に裏拳が出てしまうのは内緒。


 追記。―――彼女は聖女である。




 彼女が異世界にドボンしたのは二十一歳の時。

 強い奴に逢いに行きたい系女子だった高校時代なら、異世界ヒャッフー! だったのだろうが、その時期の異世界は平和そのもので、聖女はお呼びではなかった。

 異世界が聖女に助けを求めたのは、彼女が我に返り、慌てて女子力をつけようとして入った大学時代。しかも、召喚された時、彼女は大学卒業間近。絶賛就活の最中だった。


 更に、ようやく漕ぎつけた一流会社の最終面接が明後日という最悪のタイミング。


 呼び出された瞬間、彼女は大激怒。

 卒業論文にバイト、挙句に就活と、このところ寝る暇もなかった彼女がようやく布団に入った瞬間の出来事だったから仕方がない。

 麗しい微笑みを浮かべて出迎えてくれた美形王子様の顔面に正拳突きを入れて、踏みつけても仕方がない。

 取り押さえようとする騎士たちを全員薙ぎ倒したところで、すかさず隠れて難を逃れていた神官が供え物の酒とつまみを差し出さなかったら、聖女の手によって全員ゲームオーバー一直線であった事だろう。

 忙しさから禁酒を余儀なくされていたトメ子は渋々その拳を下ろして、話を聞くことにした。


 魔王が復活したらしい。

 ふーん。だから?


 倒してほしい? 何で私が?

 え、聖女? 知らん知らん。何それ、意味わかんない。そういうのもう卒業してますから。


 トメ子のやる気は限界まで下がっていたが、倒さなければ帰れないと聞いて仕方なくやる事にする。その前に神官も殴っておいた。トメ子は依怙贔屓も仲間外れもしない主義である。




 話に聞くところによれば、この世界の一日は元の世界での一時間に相当するという。


「なら、猶予は二十日ほどか。それまでに魔王倒して、世界を平和にするわ」

「「「え」」」


 ようやく漕ぎつけた最終面接には絶対行かなければならない。

 魔王を倒した暁には私の妃に…などといい加減な事を言う王子を正拳突きで沈めた後、聖女トメ子は旅立った。徒歩で。何故なら、トメ子は馬よりも早く歩けるからだ。



 トメ子が馬よりも早く歩ける理由、それは異世界に来た直後、夢の中に異世界との仲介をしているという天使が現れてから分かった事だ。


「聖女よ、貴女をここへ連れてきたのは私だ」


 トメ子は速攻マウントでボコった。

 ふざけんなテメェのせいか。

 ボコボコにされた天使は、慌てて言う。


「貴女に手を貸して貰う代わりに、異世界で言葉の不自由はないように取り計らった」


 トメ子は更に正拳突きをお見舞いした。

 ふざけんな。勝手に呼び出したんだから、やって当然の配慮だろうが。ふざけんな。


「ご、ごめんなさいトメ子様! お詫びに貴女に祝福の加護を差し上げますからもう勘弁してください!」


 天使はそう言って、トメ子の力、技、スピードを通常の百倍にした。

 トメ子は無言のまま、速攻マウントでボコにした。

 ふざけんな、ふざけんな、もっと他に上げるべき所があるだろうが、容姿とか容姿とか容姿とか!


 最終的に天使がハァハァと荒い息をしながら、潤んだ目で『もっと…』と言い始めた時点で、トメ子は目を覚ます。


 あの手の輩に構うと、期待した目でどこまでも付け回されることをトメ子はよく知っていた。―――よく、知っていた。



 そんな訳で異世界最強(物理)の聖女になったトメ子は、全速力で進撃を開始した。


 お供は、あれほど殴られたのに何故かトメ子に好意的な王子(※美形)と、トメ子をこの世界に呼び出した事により一日一回トメ子に頭突かれる神官長(※美形)、トメ子に薙ぎ倒されてから服従を誓った騎士団長(※美形)、それから聖女であるトメ子(※平凡顔)である。

 トメ子の目は澱んだ。

 通常なら両手に美形と喜べる状況だが、喜べない。


 何故なら、この異世界、美形しかいないのである。


 王子、神官、騎士。全員、美形。

 それだけじゃなく、王様、お后様、まだ小さなお姫様も美形。

 更に門番も、侍女も、町人も全員もれなく美形。


 そんな美形パラダイスに放り込まれた平凡顔。それがトメ子である。


 この世界に異世界人がやってくる事は割とあるらしいが、その場合、精神だけでやって来て、この世界の人の中に入り込むらしい。つまり、美形の中に。

 精神は徐々に混じり合い、新しい人格になる事もあれば、途中で異世界人の精神だけ帰っていく事もあるという。


 例外は聖女召喚のみ。聖女だけは元の世界の姿のまま異世界に呼ばれる。


 結果、聖女だけありのままの自分で勝負せざるを得ない状況になるのだ。

 碌に化粧品もない(※美形に補正は必要ない)世界で、平凡顔のトメ子孤軍奮闘。心の荒み方は聖女の登場にはしゃいでいた子供すら真顔にさせるレベルである。


 襲い掛かってくる魔物を千切っては投げ、千切っては投げ、十日ほど経った頃、魔物たちから『無慈悲なデストロイヤー』(※聖女)という二つ名をつけられ、恐れられるようになった。


 旅の途中、戦力(と言う名目の賑やかし担当)を増やすため、魔力が多い故に人と関わる事を恐れていた引き籠もりの魔術師を仲間にしたり、大切な人を殺めた罪により贖罪の旅に出ていた魔法剣士を仲間にしたりもした。


「僕なんか、人前に出られるわけないんだ…」

「美形が何言ってんだ。この顔で人前に出ざるを得ない私に対する挑発か。よし、そのケンカ買ってやる。歯を食いしばれ」

「え!」


「私はただ、贖罪のためだけに生きている」

「私は私の為に生きている。なのに、お前らの世界の都合でやりたくもない旅をしてる。まず、私に謝れ。そして、歯を食いしばれ」

「え!」


 旅は、聖女の説得(※物理)によって仲間を増やしつつ順調に進み、十五日ほどで魔王の城へ到着した。

 扉を拳で吹き飛ばし、怯える魔物を首の骨を鳴らしながら威嚇する。(※聖女の行動)

 柱の陰に隠れる魔物たちに睨みを利かせながら、足を踏み鳴らして城の中枢にある広間へ辿り着いた。(※聖女の行動)。


 魔王は小さな子供だった。当然の様に美形だった。

 トメ子は子供には少し優しい。

 旅立ちの時も、王子の幼い妹姫の懇願がなければ、お供は全員置いてきていた事だろう。だって、邪魔だから。財布だけくれればいいのにと本気で思っていた。


「ひぃっ、ご、ごめんなさい…殺さないで…!」(※魔王のセリフ)

「どうして、こんなことをしたの?」

「だって…皆が魔王なら人間を支配しなきゃ駄目だっていうから…だから、余は…」


 トメ子はその答えを鼻で笑う。(※聖女の行動)


「馬鹿ね。人が言った事を鵜呑みにして、自分で考えずに行動するなんて三流のやる事よ」(※聖女のセリフ)

「え…でも、やらないと魔物たちが怒って暴れるから…」

「そんな奴は拳で黙らせればいいのよ」(※聖女のセリフ)


 トメ子はニコリと笑った。



「この世は力こそ正義なの。聖女の拳は聖なる鉄槌。食らいたくなければ、馬鹿な真似はやめなさい」(※聖女のセリフ)

「は、はい! ごめんなさいぃぃぃぃ!!」



 泣きながら謝る魔王に、トメ子はデコピンをする。

 悪い事をしたら叱る。それがトメ子の方針だ。

 旅の仲間が物欲しそうな目で見ていたが、トメ子は気にせず城を後にした。


 あの手の輩に構うと、期待した目でどこまでも付け回されることをトメ子はよく知っていた。―――よく、知っていた。




 こうして、聖女トメ子の冒険は終わりを告げた。

 聖女のお陰で、世界は平和を取り戻し、犯罪者は消え去り、誰もが清く正しい心を持って生きている。

 時に悪戯が過ぎる子供に、親は『悪い子には聖女様の鉄槌が落ちるんだからね!』と叱る。

 そうすると、どんな悪戯っ子も『申し訳ありませんでした』と静かに涙を流しながら土下座するという。



 ある日、帰り支度をしていたトメ子に、王子が話しかけた。



「トメ子、話がある。どうかこの世界に残っ…」

「今までお世話に…なってません! 寧ろお世話しました!」

「トメ子、私はそなたを愛し…」

「聞こえない聞こえない! あーあーもう行かなくちゃ!」

「トメ子、せめて最後にもう一度踏んでく…!」

「さようなら、永遠に! どさくさに何踏まれようとしてんだ! 邪魔! 退け!」

「ありがとうございます!!!」



 こうして平和な世界を見届け、聖女トメ子は異世界を去った。


 あの手の輩に構うと、期待した目でどこまでも付け回されることをトメ子はよく知っていた。―――よく、知っていた。




 そして、現在―――。


「おい、誰か聖剣もってこい! あの浮気男、叩っ斬ってやる!」


「トメ子、私の元へ戻って来てくれたのか!」(※美形王子)

「トメ子殿! お待ちしておりました!」(※美形神官長)

「トメ子様、相変わらず何て雄々しいお姿なのか!」(※美形騎士団長)

「トメ子! トメ子がいないと僕は怖くて外に出られない…!」(※美形魔術師)

「トメ子、貴女がいない世界など正義はどこにあるのか…!」(※美形魔法剣士)

「トメ子ー、余な余な、逆上がりが出来るようになったのだ! 自分で頑張ったから、褒めてくれ!」(※美形魔王)


「いいから、聖剣もってこいや!!!」(※聖女)


 トメ子は異世界と元の世界を行き来しながら、平凡な事務員と破天荒な聖女の二足の草鞋で日々忙しく過ごしている。

 平凡な人生を謳歌しつつ、何かにつけて召喚してくる異世界で大暴れ。




 山田トメ子は二流会社の事務員。そして、パートタイマー聖女である。



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― 新着の感想 ―
[一言] トメこさんもう異世界でトメ子っていう唯一無二の存在に誇りを持って幸せになって仕舞えば良いのに。魔王とか今からなら教育して好きな感じに育てられそう。
[一言] トメ子の行動にふきました!本当に面白かったです。
[一言] 聖…剣…? とめ子様には皇帝の拳(リ○グか○ろ参照)の方がお似合いかと存じますが? あ、星ポチっときます。 これからの活動も期待してますね。
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