第二章 村へ(記憶喪失編)
「は?」
今日何度出したかわからない素っ頓狂な声を、俺は再度出していた。
ワープホールをくぐった。俺の目の前には、生い茂る密林が広がっていた。ピィピィと謎の鳥の鳴き声が聞こえる。何やら不可思議なエキゾチックな花の香りがする。ギャップが凄い。先ほどまで石くれ作りのダンジョンに居たのだから、当然のギャップだ。
いや、そうではない。
外に出たのだ《・・・・・・》。
全く変化はなかった。
生きて帰ってきたことを喜ぶゴブリンたちを尻目に、俺は愕然としていた。ダンジョンから出ると、記憶は戻ってくるのではなかったのか。どういうことだこれは。
「どうがざれまじだが」
ノイズ混じりの聞き取りにくい声。ゴブリンリーダーのものだ。
……待て。苛つくんじゃない俺。情報が、何もないんだ。こいつらから聞き出すしかない。少しでも、少しでも情報が必要だ。
「なあ、忘却の罠でなくした記憶は、ダンジョンから出たら戻ってくるんだよな?」
「左様でず」
「実は忘却の罠で記憶をなくしてたんだけどさ、戻らないのはどういう場合かわかるか?」
ド直球で聞いてみた。駆け引きするような脳は持ち合わせてない。多分これでピンチになったら、そのときはきっとオート発動の魔法が何とかするのだろう。
「なら、忘却の罠以外の理由で記憶を失っでじまっでいるのでじょう」
「マジか」
「ぞもぞもあなだほど熟達じだ方にば忘却の罠ば効がないでじょう」
フィンも似たようなことを言っていたのを思い出す。魔法抵抗値とかで判定になるのかな。フィンのことを思い出し、背筋が寒くなる。ただ純粋な疑問が俺に突き刺さる。『どうして』と。どうして私を殺すのかと。そんなこと……俺が聞きたい。手が震える。俺は、ローブのポケットに手を突っ込んだ。
「俺は……一刻も早く記憶を取り戻さないといけないんだ。何か方法を知らないか?」
「……我らが長老ならご存じやもじれませぬな」
聞けば、彼らの村に長老が居るらしい。長命に加え、個人で諜報部隊を飼っており、そのせいで滅茶苦茶に物知りらしい。完璧にチートじゃん。
俺は長老に会わせて欲しいと頼んだ。身をかがめ彼らゴブリンに目線を合わせてお願いした。悲しいかな、これが俺の最大限の礼節である。
彼らは快く引き受けてくれた。何と優しいゴブリンなのだろう。リーダー以外のゴブリンも、俺が来るのが嬉しいだろう……喜びの舞を舞っている。多分。俺はゴブリンの今までのイメージを変えざるを得なかった。見た目は負け組だが彼らは確かに妖精だった。
なんかもう、この世界で醜悪なのって俺だけだな。
1000字でもいいから毎日更新ということで。