第6節:《黒の装殻》
黒の一号は。
戦意を漲らせる参式、伍号に目を向けた後に、肆号を見た。
暴威に等しいエネルギーを、ミツキとケイカが完全に制御しているのを見て取り、感慨を内心に秘めながら頷きかける。
「ーーーやるぞ、ケイカ」
『はい!』
しっかりとした声で答え、ケイカがミツキに声のトーンを落として話しかけるのが見える。
黒の一号は、エータ・マザーへと目を戻した。
「我らの力を観察したいと言ったな? マザー。存分に見ると良い。……貴様らを滅ぼし尽くす力の片鱗を」
黒の一号の声に合わせて。
四角に存在する《黒の装殻》が全員、腰だめに両手を構えて大きく胸を張った。
「装殻心核ーーー」
「「「ーーー共鳴励起!!!」」」
肆号と伍号のコアエネルギーが、極大状態で解放される。
異なるエネルギー・ストリームをミツキが統合、増大させ。
その力が、黒の一号と参式へと流れ込んだ。
『接続確認.実行』
身の内に吹き荒れるエネルギーを、補助頭脳が収斂。
最初に動いたのは、参式だった。
通常とは反対の逆十字を両腕で描き。
「強纏身、真・殻装!」
『実行』
その威容をさらに膨れさせ、凶悪な外見の鬼の巨殻形態へ。
次いで、伍号が。
雷撃を迸らせる両腕で、天を衝く逆十字を力強く組む。
「雷殻形成!」
『命令実行』
漆黒の外殻の上に縁取るように黄金の外殻が現出し、両手足の外殻が強固なナックルガードとレッグガードを纏った。
一本角の先端にある二股がさらに伸び、コーカサスオオカブトのようにさらに一対のツノが形成された。
より攻撃的な姿となり、雷神の巨殻形態が雄々しく立つ。
そして。
黒の一号も。
「―――強纏身」
『実行』
黒の一号の声に、補助頭脳が答えた。
彼の両腕が鎧われ、胸郭が開いてスラスターが展開。
さらに、両肩、両手甲、両足首に三対の出力増幅核が現れる。
腰には斬殻大刀、両腰に双頭の銃が出現し。
強襲形態になった黒の一号の両手足に、さらに大型のスラスターが四基、追加形成。
最後に、背部に鋭い両翼とバックパックを背負って。
『装殻状態:第三制限解放』
修羅たる男の、巨殻形態の顕現を以て。
世界最強と呼ばれる《黒の装殻》の内三人が、真の戦闘能力を発揮し始める―――!
「総員、限界機動」
『実行.極限連携機動』
黒の一号の号令に従い、補助頭脳同士がリンクして全員を全く同時に限界機動領域へと突入させた。
肆号コアの大出力に支えられた、限界機動中の連続出力解放。
先陣を切って地面を蹴ったのは、伍号。
「喰らいやがれ! 《裁きの雷》!」
伍号の全身から解き放たれた雷撃が、地面と中空を走って周囲の赤い襲来体の一部を消し炭へと変え。
次いで天から降り注いだ雷光により、宙を舞う襲来体が撃ち落とされる。
「相変わらず雑だな――――《焦熱の獄》」
伍号の撃ち漏らした赤い襲来体を、小規模な《紅の爆撃》を複数展開した参式がさらに焦滅させた。
「次だ――――」
腰の双頭銃を引き抜いた黒の一号が、周囲に残った赤い襲来体に殻弾をばら蒔く。
「―――《黒の銃撃》」
赤い襲来体はその大半を、一瞬にして失った。
同時に、円月輪とナイフを手にした参式が駆け出し、再び雷光を纏った伍号も近くの赤い襲来体を走り抜け様に薙ぎ払っていく。
黒の一号も、斬殻大刀を手にして殺戮に加わった。
そこでようやく。
『反応機動』
エータ、マサト、一号コピーの三体が超知覚領域へと入り込む。
「ははは! 流石だな!」
エータの哄笑と共に、マサトと一号コピーが跳んだ。
それぞれに伍号と黒の一号へ向かう。
「やはりな――――模倣したのは外身だけか」
一号コピーの振るう斬殻剣を受けながら、黒の一号は呟いた。
初期型である黒の一号に、反応機動装置はない。
参式らを動揺させる為に外観だけを作ったのだ。
「貴様は、俺ではなく、別の存在の母体複製体だな?」
「だったらどうだと言う?」
落ち着いた女性の声で、一号コピーは言った。
その頭部装殻が形を変えてヘッドギアとなり、素顔が露出する。
それは、黒の一号もよく見知った顔だった。
「スミレか……なるほどな、大阪隕石の襲来体母体をも模倣したのか」
「その通り! 元々は同一の存在だ。情報さえあれば、この通りさ」
一号コピーの背中から、シープのものに似た禍々しい翼が生える。
「《犀角乱打》―――!」
解き放たれた鋭い牙が空気を引き裂いて《黒の装殻》たちを襲う。
全員がそれを避けて、一度戦局が停止した。
「……連携解放」
『実行』
しかし、黒の一号だけが止まらない。
「参式! 大甲!」
仲間たちは、呼び掛けに即応した。
「来い!」
「いつでも!」
黒の一号は、出力解放級のエネルギーを込めた足で、目の前の母体複製体を蹴り上げた。
「ぐっ……!?」
吹き飛んだ母体複製体に向けて、参式が追従した。
「人の女の顔を、何回も何回も、勝手に使ってんじゃねぇぞ! first order―――《紅の乱撃》!」
左の一閃が、母体複製体の腹に突き刺さる。
続いて流れるように右で顎を突き上げ。
「かっ……!」
息を吐くように大きく口を開ける母体複製体。
参式は体を反転、突き上げた相手の体を蹴り落とすように引っ掛けて、地面へと送る。
そこに待ち受けているのは、マサトを吹き飛ばした伍号。
「いくら石コロ相手でも、女を殴るのは趣味じゃねーんだけどなぁ……Second order! 《黄の電流》!」
「ぎゃ……がぁあああッ!」
母体複製体の体を受け止めるように突き出した伍号の両手に触れた途端、その体を電撃がバチバチと走り抜け、周囲に極光を撒き散らす。
「おぉおおおッ! Third order―――《黄の回蹴》ッ!!」
再度突き上げた母体複製体の体に。
伍号の上段回し蹴りが突き刺さり、放物線を描いて舞う。
「やれ……本条!」
「最後だ、ハジメさん!」
二人の合図に、ぐ、と足をたわめてから、黒の一号は背中の大型機動補助機構を爆轟させと自身を空へと打ち出した。
「Forth order―――《黒の衝撃》」
黒の一号の両腕にエネルギーが集束して、灼熱の色を帯びる。
そのまま、天に向かって母体複製体に対して猛烈なラッシュを叩き込んだ。
遂に衝撃に耐えきれなくなった母体複製体は。
外殻を破壊されて細かい欠片を落としながら。
黒の一号の両腕が閃き、ランチャースラスターが爆轟する度にさらに上空へと押し上げられ。
「Last order―――邪悪は、滅ぼす」
黒の一号は、母体複製体を置き去りに上空へと回り込む。
そのまま、全身のスラスターを使用して回転。
その勢いと、貯めに貯めた脚部へのエネルギーを一息に。
「―――《黒の滅殺》」
爆転踵落としを、母体複製体に叩き付けた。
体を真っ二つに断たれた母体複製体を残して、黒の一号は地面に小さなクレーターを刻んで着地する。
『全限界機動解除』
《黒の装殻》全員が、超知覚領域を脱した直後に。
元の形を一欠片すら残さず。
母体複製体が、爆散した。




