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黒の零号〜最強の装殻者〜  作者: 凡仙狼のpeco
第5話:連続励起!? 暴走する零号!
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第15節:赤い花

 ジンの加速に対して。

 驚いた事に、マサトは追従した。


 飛び上がってマサトに向かって放った拳を、両手のブレードを交差させて受ける。


『推測:反応機動(アップライド)知覚極超加速(ブレイクアップ・ハイセンス)並列励起状態」


 補助頭脳が、量子計算による推測をジンに伝える。

 超加速領域内で見るマサトの肉体は、ジンに比べるとゆっくりとした動きだ。

 だが、その目は確実にジンを捉えている。


 おそらくは、マサト自身が補助頭脳であるがゆえの副産物……なのだろう。

 その知覚のみが、ジンの加速に届いている。


/だが、それだけで俺を止められると思うなよ!


 ジンは吼えた。

 極超加速状態は、体への負担が限界機動の比ではない。

 動くだけで軋みを上げる全身を制御しながら、

 マサトに、さらに逆の拳と蹴りを放ち、地面に叩き落とす。


 マサトは受けるだけで精一杯で、それに抗えはしなかった。


 当然だろう。

 むしろ、受ける事が出来ただけでも驚嘆に値する。

 この状態のジンに対しては、あの参式ですら数合打ち合うのが限界だったのだ。


/喰らえ……出力解放(アビリティオーダー)―――!

命令実行(ゲットレディ)


 天に飛び上がった姿勢から、地面に仰向けに倒れたマサト目掛けて。


 ジンは、必殺の蹴りを撃ち放つ。


/《黄の蹴撃(ライトニング・ドライバー)》……ッ!!


 雷撃と電熱を纏う螺旋の蹴りを、スラスターでさらに加速しながらマサトに迫る、ジンの目に。

 マサトの口許が、微かに動くのが映った。


『ジン……』


/ッ……アイリ―――!


 直後、ジンの蹴りが炸裂し。

 マサトの体が螺旋に巻き込まれて吹き飛ばされる。


限界機動終了(ブレイク・オーバー)


 そう告げる補助頭脳の音声と共に。

 地面に刻まれた螺旋のクレーターの真ん中に立つジンの全身から、冷却剤が気化して白煙が吹き上げる。


 外殻の色が黄金から黒に戻ったジンの、背中を。




「やっぱり、お前らは皆、甘いよ」




 空中で姿勢を立て直したマサトの、縦の一撃が引き裂いた。

 内部の人体にまで到達する一撃に、ジンが口から生暖かい血が溢れる。


「ぐぼっ……!」


 膝をついたジンが、マサトを見上げた。

 その外殻に多少の損傷はあるものの、肩の外殻が大きく削れている以外は、ほぼ無傷。


 直撃の寸前で軌道を逸らしたジンの蹴りは、倒れたマサトの肩を掠めて地面を抉っただけだった。


「演技、だよな……そりゃ」

「まぁね」


 普通に考えれば、あの場面でマサトがアイリを表に出すことなどあり得ない。

 しかしそのあり得ない可能性を示す事で、マサトはジンの動揺を誘った。


 これはアイリの体だぞ、と。

 お前は、本当にそれで良いのか、と。


「口では大きな事を言っていても、最後の最後で冷徹になり切れないのが君や花立さんの欠点だ。君たちではアイリの真実を知っていたところで、あの少女から0式コアを抉り出す選択は出来なかっただろう? 悪意のある敵に対しては強く出れても、一度身内に引き入れた相手には一歩怯む。……だから」

「だから、お前が、やった、と?」

「そう。俺にとっては、アイリが一番大切だ。他の何を犠牲にしても、構わない。そう思えるから」


 マサトは、ふり仰ぐジンの喉元にブレードの先端を突き付けた。


「お前、自身を、犠牲にする事すらも、か……?」


 ジンは、苦しい息の下で、なんとか言葉を絞り出す。


「アイリは……お前を、許さねぇだろ、う……」


 マサトは、悲しげに目を伏せた。


「そうだね。それも、仕方のない事だ。……お別れだよ、ジン。君の事は嫌いじゃなかった」


 そして、マサトが刃先に力を込めようとした瞬間。

 乾いた音が周囲に響いて、彼が手を止め。


「ユナーーーーーーッ!」


 遠くで、ミツキの悲鳴が響いた。


※※※


「ち。やってくれますね」


 シープは舌打ちと共に周囲を見回すと、先ほどまで立っていた崖の一部が消滅して白煙を上げていた。

 手元に残していたベアード達に咄嗟に庇わせて避けはしたが、手勢が大きく削がれてしまった。


「全く、これだから《黒の装殻》は油断がならない。もう少し慎重にやるべきでしたかね?」


 ベアード達の正体が襲来体だと気付いた途端にこの有様だ。

 そこで、更なる光と振動が足元から響き渡る。


「仕方がありません。計画には少し早いですが、ちょっと動揺してもらいましょうか。……エータ」

「御意」


 シープと同じく参式の一撃を避けたエータが、長大な狙撃銃を現出させると、それを構えて地に伏せる。


 殻弾長距離狙撃銃(ベイルドスナイパーライフル)


 出力供給により、理論上は地平線に到達する距離を狙撃可能なその銃で、エータが狙いを定めたのは。

 中空に在り、防御球を展開しているミツキ。


「撃て」


 無造作なシープの命令に従って、エータは引き金を絞った。

 音速を優に超える凶弾が。


 マズルフラッシュと共に、音もなく銃弾を解き放つ。

 そして音が空気を震わせる頃には、防御球が破壊されて鮮血が散って、地上に降り注いでいた。


※※※


 手加減した出力解放により、解殻にまでは至らない余力を残した参式が崖上に目をやると。

 そこに、無傷で立つシープとエータが見えた。

 同時に、ジンのコア反応が増大し、爆光が目を射る。


「アクセルだと……マサトはそこまで強いか……!」


 予想以上に敵の戦力が高い。

 光が収まると、崖上で狙撃銃を構える姿勢になったエータが見える。

 狙いを瞬時に察した参式が吼えた。


「避けろミツキッ!!」


 しかし、声が届きミツキが避けるよりも先に、空中に赤い花が散る。


「どこまでも下劣な策を……!」

「守りの機能を付けるなら、姿を消す方法も一緒に考えるべきでしたね。ただの的です」


 鬼気を放ちながら殻弾機関銃を構える参式に、シープが涼しい顔で応じながら眼下を指指した。


「呑気に私たちに構っていて良いのですか? お仲間がやられてしまいますよ?」


 言われて目を向けると、ジンの喉元にマサトが切っ先を突き付けているのが見えた。


「ッ……!」


 戦況の変化が激しすぎる。

 ユナとミツキをケイカらへ一任する、と意識から切り捨てた参式は、全力で、ジンとマサトへ向けて地面を蹴った。

 

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