第13節:与えられた疑問
コウらがパイルを追っていると、ブレードスラスターが降り注いでコウとミカミは左右へと跳んだ。
「パイルはやらせないわよ!」
「よそ見は悪手……私としては良い」
「ふん、この程度……!」
意識をこちらに振った為に、ラムダは劣勢に立たされるが。
「〈迅雷貫渦〉……ッ!」
コウたちから距離を取ったパイルが、グレイヴを空中のリリスに向けて撃ち放ち、リリスを牽制した。
それぞれの位置取りは、二手に分かれていた。
リリス、ミカミ、コウの三方向でラムダとパイルを囲い、リリスの背後にはミツキ。
崖近くには、崖の上に立つエータ、シープとベアードを相手取る参式と、マサト、そしてジン。
「……ラムダ」
「ちょっと、酷い損傷じゃない!」
電磁浮遊でラムダの横に浮き上がったパイルが話しかけると、彼女は驚いた声を上げる。
「ミスった。でも、それは良い。……俺が、今から下の奴らを潰す。お前は、リリスのブレードスラスターを出来るだけ潰せ」
「どうするの?」
「逃げるんだよ。決まってんだろうが。……エータの野郎が何を考えてるのか知らねーが、俺らが付き合う必要はねぇ。作戦通り撤退だ」
「……厳しいわよ? 正直」
ラムダの声に、パイルは笑い声を立てる。
その間にもリリスは攻撃の手を緩めておらず、コウとミカミも彼らの隙を伺っていた。
しかし、流石に手練れだ。
話しながらも、不意を打たせてくれるような隙は見せなかった。
「なら、大人しくやられんのか?」
「そうね……それは、あり得ないわね」
「だろ。やるぜ」
パイルが、宣言とともに雰囲気を変える。
「来るぞ! ミカミさん!」
「分かってますよぉ〜!」
パイルは両腕を広げて、眼下のコウらを見下ろした。
「出力解放!」
『承認』
彼の腹にある、フリードコントローラーが輝く。
「《轟水落天》……!」
『限界機動開始』
パイルが全身液化した装殻体にエネルギーの燐光を纏いながら、天より滑落を始めた。
宙に大きく広がり、超加速状態のまま無数の螺旋水槍と化してコウたちを襲う。
「出力解放ーーー限界機動開始!」
『要請承認』
コウも、超加速しつつそれを迎え撃った。
視界に迫る無数の水槍に向けて、拳を握り。
「《黒の迅雷》ッ!」
限界機動状態で、さらに加速する出力解放。
雷光を纏う両手足で、体を貫く軌道の水槍を脇から叩いて散らしていく。
「おおおおおおッ!!」
相手の手加減抜きの攻撃は、極超加速をもってしても速い。
コウのラッシュに、途切れない水槍の攻撃。
時間にすれば一瞬だが、コウにしてみれば脳の神経が焼き切れるほどの攻防の末に。
コウは、それに打ち勝った。
『限界機動解除』
宙に静止したように留まっていた歪んだ水槍が、パァン、と一斉に音を立てて弾ける。
だが、それらは地面に落ちることなく少し離れた一点に収束し、パイルの姿を形作った。
見ると、ミカミも多少の損傷はあるものの、どうにか致命傷は防ぎ切ったようだ。
そして、リリスとラムダの攻防が始まる。
お互いに飛ばしたブレードスラスターの損耗を厭わないラムダの相殺攻撃に、リリスが応じて消耗戦を行う。
遠隔兵器の破壊された破片がバラバラと落ち来る中、これも生き残ったのはリリスの二条のブレードスラスター。
「う、あああああッ!」
ラムダの全身を切り裂くブレードスラスターに、ラムダが浮遊から意識を離して落ちる。
肩で息をしながらも、そのラムダを受け止めたパイルが、グレイヴを構えた。
「しくったぜ……まさか、あれを防ぎ切るとは、な……」
驚きとも賞賛ともつかない声を上げるパイルに、コウは静かに答える。
「限界機動中の加速、は、理論上は可能だった。それなりに訓練はしたけどね」
元々は、ジンの持つ技術だ。
彼の奥の手だというそれは、扱いが難しい代わりに手にすれば強力無比な技術だ。
「これで終わりだ。……出力変更、崩撃形態」
『変更』
破殻鎚砲を扱うスタイルに変化したコウが、砲身をパイルらに向けて構えた。
『コウくん! それはやり過ぎよ!』
ケイカの静止に、応じたのはリリスだった。
「敵は潰せる時に潰しておく……とても大切な事」
『それで良いの!? あの人たちは、貴女の!』
「それを選んだのは、あの人たち自身」
ミカミも、コウに顔を向けていた。
「コウくん……」
「一応訊いておくが」
コウは、構えた鎚砲を動かさずに訊いた。
「投降する気はあるか?」
「……命の保証は?」
「パイル、ダメよ!」
こちらもグレイヴを構えたまま、パイルが問い返すのに、腕の中で傷ついたラムダが身をよじる。
「あいつらは……憎むべき敵よ! 忘れたの!?」
「ルナ……」
コウの耳に、ユナを守っているミツキのやるせなさそうな声が聞こえた。
しかしそれが聞こえなかったのか、ラムダは絶叫する。
「あいつらは! 〝私たちの世界〟から私たちを奪ったのよ!?」
「私たちの世界……?」
どういう意味だろうか、とコウは疑問を覚えた。
「皆がどうなったかも分からない! 襲来体母体はきちんと滅したの!? 全部、全部黒の一号が! ただの人間のくせに0号の力を得ようとしたから起こった事じゃない!」
「ラムダ……」
「貴方だって、そう思ったから黒の一号を憎んだんでしょう!? 元の世界を見捨てたあいつらだって!」
ラムダは、ミカミとリリスに指を突き付ける。
二人は、押し黙っていた。
「そんな奴等の慈悲にすがるなんて、冗談じゃないわ!」
ラムダの心からの叫びは、場に沈黙をもたらし。
その直後。
コウの背後で、白光が弾けた。




