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黒の零号〜最強の装殻者〜  作者: 凡仙狼のpeco
第5話:連続励起!? 暴走する零号!
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第8節:祝福は成る。

 

「手術は成功したわ」


 手術着のまま現れたラムダは、近くのテラスベンチで結果を待っていたパイルの前に現れて、どこか得意そうにそう言った。


「流石だな」


 素直にそう答えるパイルは、自分でも声が硬ばっていると感じた。

 そのパイルの手に握られている十字架を見て、ラムダが呆れた顔をする。


「また? いつも何に祈ってるの?」

「何って訳でもない。人の運命とか、結局は確率の問題だろ。俺にはこれが気休めになるんだよ」

「その確率を上げるのは私の実力よ。祈るなら私に祈りなさい」

「ああもう、それでいーよ。俺はお前に祈ってたんだ」

「投げやり~。良いけどね」


 パイルは十字架を仕舞い、ベンチから腰を上げた。

 テラスには、陽光が降り注いでいる。


 祝福はもたらされた、とパイルは思った。


 パイルは、犠牲を容認する。

 必要なら容赦もしない。

 しかし、なるべくなら少ないほうがいい。


 それが彼の、偽りない心情だった。


「なぁ、ラムダ」

「何?」

「アレ、もらっていくぞ」


 パイルの言葉に、彼の望むものを正確に理解したらしいラムダは、顔に浮かべた呆れを深くした。

 そして次に、苦笑しながらとんとん、と指先で自分の胸の中央を叩く。


「甘いわね、ケイタは。私たちの中で一番苛烈で容赦がないのに、一番、甘い」


 パイルは、ラムダから目を逸らした。


「俺が恨んでるのは、黒の一号だけだ。巻き込まれた女の子まで恨むつもりはねぇ。……あの子は、戻す」


 パイルは、後ろをを振り向いた。


「構わねぇだろ?」


 そこには、音もなく現れていたマサトが居た。

 彼は頷いた。


「そこまで口を挟む気はない。俺は、コアさえ得られればそれでいい」

「ニヒルがそう言うなら、私にも異論はない」


 マサトと同じように姿を見せたエータが言う。


「放り出す気はないんだろう? 引き渡しには、全員で行く。その場で戦闘になる可能性もあるからな」

「それで良い」


 パイルは頷いた。


 そして彼自身は、自分にとってしか意味のない覚悟を決めた。

 祝福はもたらされた。

 もたらされて、しまった。


 故に、彼は自分が願に掛けた事を成す為に。

 人知れず、深く一度呼吸をして決意を固めた。


※※※


 ユナを奪還する。

 目的を掲げて策を練っていたが有効な手だてを考え付かずにいた所に、信じられない話がコウたちの元へと舞い込んできた。


 手術は成功した。少女を返したい―――。


 そう、一方的に連絡が入ったのだという。

 日時、場所まで指定されたその連絡に対して、コウらは集まってミーティングを開いた。


 集まった面々は、花立、ケイカ、ジン、カオリ、ヤヨイ、ミツキ、そしてコウ。

 花立とケイカが相談の上で決めたメンバーにアヤとミカミがいない理由は、非戦闘員である事と、退院許可が降りないからだ。

 リリスはミカミについている。


「十中八九、罠だろうな」


 口切ったのは、所長席の脇に立つ花立だった。


「こちらとしては呑むしかない要求を突き付けられた」


 重い口調で言う花立に、ドアの横の壁にもたれて腕を組んだジンが笑みを浮かべ、どこか皮肉な口調で言う。


「ユナを見捨てた場合、連中はこちらの悪評を街に流すだろうな。人が離れて、奴等は攻めやすくなる。そして応じた場合は一網打尽、って訳だ」


 そんなジンを、所長席に座ったケイカが鋭く睨んだ。


「見捨てる選択肢があると思うの? ジン」

「いんや。向こうさんが想定するだろう、可能性の話だよ」


 そんな二人のやり取りに、本来ミカミの席である秘書席の椅子に座ったヤヨイが口を挟む。


「勝算は?」

「負けるつもりがあると思うか?」


 花立に言われて、ヤヨイは肩を竦めた。


「実際の戦力差の話」

「【黒殻】はあくまでも日本国内の少数勢力で、《黒の装殻》を中心とした協力者の集まりに過ぎん。相手は新鋭とはいえ、世界的な企業国家『トリプルクローバー』の中核企業だ。比べるのも馬鹿馬鹿しい」


 花立が言い、ジンが頭を掻く。


「それがこっちが即座に向こうを攻められなかった理由でもあるしな」


 あまりにも大きすぎる戦力差。

 部屋の中央付近に立つコウは、疑問を口にした。


「何故そんな戦力差がありながら、何で相手はあんな回りくどい方法を使ったんですか?」


 答えたのは、ケイカだった。


「それはね、旧高知エリアがあくまでも〝日本国〟だからよ。行政や司法は機能していないけれど」

「そうなんですか? でも、政府は【黒殻】を追っているんじゃ?」

「私たちの肩書きは、あくまでも【黒殻】の構成員ではなく装技研の職員なのよ」

「でも、なら何で装技研がエリアラインに警備を派遣しとるんすか?」


 コウの横にいるミツキが重ねた質問に、ケイカは視線を移す。


「それは、日本政府から〝装技研〟が業務を委託されてるからよ。彼らは大っぴらにこちらを攻めれない。もし大軍でラインを越えれば、私たちを潰すのは容易い。普段はここにはケイカしかいないから。ただ、それを行えば次に出てくるのは日本政府軍。戦争になるのよ」


 戦争。

 四国を舞台にした日米装殻争乱は、まだ記憶に新しい話だ。


「ミツキ。言わば、ここはLタウンなんだ。大阪隕石が落ちた天王寺エリア付近と同じ扱いだと思えばいい」


 日本国内にある無法地帯。

 保護がない代わりに、基本的には咎め立てもない区域だ。

 それこそ、相手が国家でない限りは。


 やり取りを引き継いだのはカオリだった。

 彼女は感情を浮かべない顔で現状を説明する。


「だが、敵が我々のみを排除しようと思うなら話は変わってくる。奴等は我々が【黒殻】だと知っている。仮に特務中隊規模の軍勢がエリアを侵しても、参式らが装殻して抵抗する様子や死体の写真を一枚出せば済む。《黒の装殻》は世界的な指名手配犯だ。日本政府も強くは非難出来ん」

「《黒の装殻》は」


 にやにやとジンが言う。


「一個大隊を単機で殲滅する化け物揃いだと思われているからな。主にどっかの総帥と三番手のせいで」

「不敬だな」


 ジンの言葉に思わず吹き出すカオリに、花立とケイカが苦い顔をする。


「普段は仲が悪いくせに、こういう時は息ぴったりじゃないか、カオリ」


 真面目な二人に変わって揶揄するヤヨイに軽く指摘されて、カオリはむすっと押し黙った。


「まぁ、罠なら罠で良いでしょう」


 そんなやり取りを横目に、コウは静かに言った。


「相手にユナを返す気があってもなくても、それごと叩き潰せば良い。違いますか?」


 コウの過激な言葉に、ミツキが顔を強ばらせ、花立とジンがじっとコウを見つめるのを感じた。

 ケイカとカオリも、驚いたようにコウを見る。


 何だ?

 俺はそんなにおかしな事を言ったか?


 一人冷静なヤヨイが、コウに問いかける。


「もし、ユナを人質に取られたらどうするんだい?」

「それについては、私に案があります、ヤヨイさん」


 コウが答えるより先に。

 ケイカは、自信に満ちた笑みを浮かべた。


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