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黒の零号〜最強の装殻者〜  作者: 凡仙狼のpeco
第1話:纏身! 黒の零号!
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第4節:次世代型装殻、そして。

 装殻技術研究所の四国支部は、海の近くにある施設だった。


 高い壁と自前の港を備えた研究所は、政府の機能していないこの辺りでは住民の支持を得ているらしい。

 壁の外には木造の民家などが軒を連ね、施設の前には商店街があった。


 コウはそんな感じの景色をどこかで見たことがある気がして、記憶を辿った。


「なんか、中世くらいの領主の城っぽい感じに見えますね。印象的に」

「あながち間違ってないんじゃないかな。基本的に今の旧高知、香川の辺りは無法地帯だし、治安維持に警備や港を貸す代わりに、生活必需品をまとめて納品してもらったりするから」


 助け合いだよ~、とケイカがのほほんと言う間に物々しい門が開いて、車は中に入った。

 荷物は、後で寮まで送ってくれてから下ろすという事で、手ぶらで施設に入る。


 ケイカが案内パネルの前に立ち、大まかに施設内を説明してくれた。


「一階のこの辺りが君たちの所属する警備課の部屋。こっちが装殻部品庫と装殻整備室。二階には室内訓練所と開発室。三階が私の執務室、装殻設計室、総務課、会計課。施設の中には他にも倉庫だったり屋外訓練場があるよ」

「私は設計室と開発室のソフト側で働いてるんだよー♪」


 アヤが得意気に言うのに、コウは素直にうなずいた。


「アヤ、情報処理に強いもんな」

「もう少し驚こうよお兄ちゃん! 妹が装技研の開発室で活躍してるんだよ!?」

「昔から、アヤならそのくらい出来ると思ってたよ」


 ぽんぽんと頭を叩くと、アヤが照れたように頬に手を当てた。


「ユナもー!」


 だいぶ慣れてくれたらしいユナが、同じようにしろとねだるので、コウは彼女の頭も撫でた。

 その様子を見て、ミツキがおののく。


「……コウ、お前」

「何?」

「なんか、手慣れとるなぁ」

「そう? まぁ妹だし。義理だけど」

「いや、そーゆーんじゃなくてな……まぁ、えーわ」


 俺、同年代の女の子に素であんなセリフ吐かれへんわ……とか、意味不明な供述をする不審なミツキに首をかしげながら、コウは目を前に戻した。


 ケイカが向かった先は開発室だった。

 強化ガラスで仕切られた向こう側に、二機の同型装殻が展開状態で置かれている。

 片方の装殻は、出力源である心核(コア)が今は抜かれているようだ。


「おー」

「綺麗な装殻(ベイルド)だね……」


 ミツキとコウは、それぞれに声を上げる。

 装殻調整器の中にあるそれらの装殻は、素晴らしく美しいものだった。


「キラービィ3030(サンマル)の次世代にあたる性能検証試作機(フルスペック・ベイルド)……〈ククールス・ベスパP04(プロトレイヨン)〉だよ。私たちは単に『青蜂(アオバチ)』とか『04(レイヨン)』って呼んでるけどね」


 装殻を見てまぶしそうに目を細めるケイカと、おそらくは同じ気持ちで、コウとミツキも見つめた。


 金属質な艶のある、鮮やかな蒼い外殻。

 グローブ部分や外殻の隙間を埋めるのは、ゴムのようなのっぺりとした出力供給線(ブラックライン)


 鋭い印象の頭部装殻(フルフェイス)には補助頭脳(サポーター)が頭蓋に接するような形状で内蔵されていて、顔に当たる部分には双眼(ツインアイ)ではなく騎士兜のような視覚線(スリット)が刻まれている。


 心核(コア)を摘出された方の胸元から覗く内部は、神経系作動装置(パルスアクチュエータ)応力変換機(パッシブデバイス)、装殻の内側に張り付けるように配された強化筋肉(パワードライブ)などが有機体のごとく精密に配されている。


 その装殻駆動系を、無数に散りばめられた粒子が星空のように輝かせていた。

 粒子の正体は、装殻を流動形状記憶媒体(ベイルドマテリアル)に変化させる人工希少鉱物粉(オリジンズパウダー)

 人体細胞と流動形状記憶媒体を融和させる媒介にもなる、万能物質だ。


「次世代型って事は、今までと違う点があるんですか?」

「うん。一番は今まで人体改造型でしか実現出来なかった、出力変更(フォルムチェンジ)の実装だね」


出力変更とは、状況に合わせて自身の装殻や追加装殻(アームドシェル)の形状を変化させる能力の事だ。


「その為に、補助頭脳の容量を大幅に増やしてある。頭だけじゃなくて、両肩にも副補助頭脳(サブサポーター)が内蔵してあって、パルスアクチュエータも通常の倍くらい搭載してあるよ。その分、今までのキラービィ系統よりも総重量が増して機動性が落ちちゃってるのが課題だね」


 言われて、コウが改めて『青蜂』を眺めると、本体部分の細身な特徴は変わっていないが、胸周りや腰周りがだいぶ膨れている。


「あの両肩の兵装は固定ですか?」

「良いところに気づくね。あれが『青蜂』のもう一つの目玉、反応外殻型多機能兵装(リアクト・マイティアームド)《ハニー・コム》だよ」


 両肩を覆う半球状の両肩の兵装は背中側で多節連結されていて、そこから四枚の薄い棒状のものが垂れ下がっている。

 さらに肩部装甲の緩やかに伸びた先端が、肘の辺りまでを覆っていた。


 兵装の構造から装殻の本体まで、何もかもが最先端。


 中身が知りたい、と。


 コウは切実に思い、足を一歩前に踏み出した。

 ガラスに隔てられた向こうを、食い入るように見つめていると。


「データも見る?」

「良いんですか!?」

「おお、今までで一番イイ食いつきっぷりだねぇ」


 ケイカは、全力で振り返ったコウを見て、クスクスと笑いながら、クギを刺す。


「データの持ち出しは厳禁。見るならこの部屋で見ること。それさえ守れるなら、許可をあげる」

「是非! 是非お願いします!すぐ見せて下さい!」


 手を握らんばかりにケイカに詰め寄るコウの頭を、ミツキが、すぱん、とはたいた。


「ちっと落ち着かかい、アホタレが!」

「お兄ちゃん……相変わらず装殻の事になると視野が狭くなるんだね」


 アヤが、変わってないなぁ、と笑う。

 ケイカはさりげなくコウから離れて、ミツキに水を向けた。


「ミツキくんは『青蜂』をどう思う?」

「あー……そうっすね。キレイだけど使いにくそうやなぁ、って感じっすかね」


 何か、試すような目をしているケイカには気付かず、ミツキは『青蜂』に目を向けたまま軽く答えた。


「例えばどんな面で?」

「そっすね……まず足回り。なんせデカいっすからね」

「足回り……」

「足のスラスターのつき方なんすけど。多分全体的に見たと、踏み込みにくそうに見えたんすよね。なんとなく」

「大きい、ていうのは?」

「元はキラービィなんすよね? それだと戦闘の立ち回りがどうしたって近接よりなんで、よっぽど工夫して離れるようにせんと、あの体格じゃやられてまいますね。幾ら神経系が繋がっとる言うても取り回すんは中の人間っすから、余計なモンがくっついてたら、どうしたって体の感覚ズレますしね」


 先をうながすケイカに、なんでもない事のようにミツキが答え、コウも改めて『青蜂』を見た。

 足回りのスラスターは、理論的に間違った位置にはない。

 人間の足の構造上、股を外に開く動きよりも、内に絞る動きの方が姿勢は安定する。その論理に従って基本的に装殻の脚部スラスターは外が多く、内が少なく配置されているのだ。


「もう少し詳しく良い? 足回りは基本の配置なんだけど」


 ケイカが、コウが考えていたのと同じ事を言うが、ミツキが注目していたのはそこではないようだ。


「腰が動きにくそうじゃないっすか、後、肩周りも。さっきデカいって言いましたけど、人体に本来ない部分って、要はウェイトなんすよ。形が人体から外れるほどバランスがおかしくなるんは、当然ちゃいますか? 他のスラスター配置で装殻自体のバランスは良さそうっすけど、例えばですよ。こう……」


 と、ミツキは両肩の上にボーリングの球を抱えるように腕を丸めた。


「人間が肩の上にものを乗せたら、もし相手に殴られて避ける時、体を開くんすよ、多分」


 と、左肩をその場の残したまま、ミツキは右足を引いて体を下げた。

 次に、足を戻して腕を下げ、両手を構えた状態にする。


「でも、実際の戦闘では、引くとヤバいんす。だから、こう……」


 と、今度は同じ軌道の攻撃を想定したまま、左足を前に出す事で肩を前に突き出し、同じように半身の姿勢を取った。

 似たような姿に見えるが、先程は上半身が反っていたのに対し、今度は上半身は前のめりになっている。


「普通は、前に出ながら避けます。じゃないと、次の動きが制限されてまうからっす。でも今のままじゃ、肩と腰が大きすぎてそれが出来ひんのっすよ」


 ケイカは顎に指を当てて、ミツキの言葉にうなずいた。


「そうかもね。じゃ、改善するとしたら?」

「腰の膨れた部分、いっそ全部足の外側とか、もう少し腰の後ろにズラしたほうがやりやすいと思うっす。出来るならっすけど」


 ミツキは体を動かしながらモノを考えるタイプらしい。

 装殻の動きを見ながら自分に当てはめているのか、手や足を軽く動かしながら言葉を口にする。


「後は、足のスラスターの位置を変えるとか。今のままじゃ前に踏み込んで避けるモーションが一番生かせる形になってるんで。あの肩って盾みたいなモンっすよね?」

「そうだね。自分に向いてない表層は全面、反応装殻だよ」

「最初から相手の攻撃を受ける事を想定してるんやったら、まっすぐ突っ込めるように、左右じゃなくて後ろにスラスター付ける形で突撃に特化するか、体を開いた後の動きを滑らかにする為に足のスラスター比率を平らにするか……肩の後ろのスラスターを増設した方が良いっす。それでもやっぱ、ウェイトが心配っすけど」


 装殻にも重量基準値がある。

 それに合わせるとするなら、ミツキの提案を入れ込むのは難題だ。

 しかしミツキの返答に、ケイカが満足そうにうなずいた。


「うん、合格」

「へ?」

「さすが風間さんの見立てだねー。人選に間違いがなくて嬉しいよ」

「……なんの話っすか?」

「本部にね、専門知識はなくて良いから、キラービィ系の装殻を扱う感覚に優れた装殻者が欲しい、って要望したんだよー。『青蜂』の試験装殻者として」


 ケイカの言葉に、ミツキが目を丸くする。


「えーと……つまり、俺が?」

「そういう事。そろそろ装殻性能のデータを採らないといけないけど、こんな土地だから他の優秀な人たちは仕事が多くてねー。メインでやってくれる人が欲しかったんだー」

「良かったね、ミツキ。左遷じゃなかったみたいで」


 コウは嬉しくなってミツキの肩を叩いた。

 本当にコウのとばっちりでトばされたのかと少しだけ負い目を感じていたのだ。

 ミツキは信じられない、と言わんばかりの表情で、静かに佇む『青蜂』をもう一度眺める。


「この装殻を……俺が」

「仮の動作試験は一応終わってるから、なんだったら今から使ってみる? 警備のシフトに組み込まれるまで、まだ三日あるし、今日くらい少し時間使ってもいいでしょう」


 ケイカの言葉に、ミツキは困ったようにコウを見た。


「……どないしよ」

「やってみたら?」


 コウは軽く言ったが、この後、それに自分が巻き込まれるとはまるで予想していなかった。

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