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黒の零号〜最強の装殻者〜  作者: 凡仙狼のpeco
第4話:覚醒! 零号装殻者!
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第10節:別格の装殻者

「おー、痛ってぇ……」


 ミツキは呻きながら体を起こした。

 落ちたのは、飛行場の外周にある原っぱだ。


 シールドのお陰で死にはしなかったものの、流石に飛行高度から地面に叩きつけられた衝撃までは殺しきれなかった。

 コアエネルギーの残量も残りわずかな上に、《ハニー・コム》は今の墜落で破損していた。


「回復するまで……待っててくれへんよなぁ、そりゃ」


 ガンベイルとラムダは、目前に迫っていた。


「手こずらせてくれたわね」

『まさか出撃する羽目になるとはな』

「そちらさんの装備は、ちっと反則臭い気ぃすんねんけど。どちらさんなん?」


 今の状態では抵抗するだけ無駄だろう、とミツキは話しかけてみた。


『会うのは初めてだな、『青蜂』の装殻者。私はエータ。PL社幹部の一人だ』


 ガンベイルの外部スピーカーから聞こえた声は、律儀に質問に答えてくれた。


 エータ。

 ラムダ同様、名前がこちら側に伝わっているPL社が擁する戦闘部隊の隊長格だ。


「ユナ一人さらうのに、大仰やなぁ。徳島制圧の立役者が全員出張ってるんか」

『それだけの価値が、あの少女にはある。君は知らないだろうが』

「ちょっとエータ。喋りすぎじゃない?」


 ラムダが今にもブレードスラスターをけしかけて来そうな様子で、エータを咎める。


『彼は時間稼ぎがしたいんだろう。そして我々もそれは同じだ』

「バレバレか」

『命は惜しいだろうが、残念ながら見逃せない。 その年齢で冷静な判断が出来るのは素晴らしいが、君には経験と情報が足りないな。君の頼る数人は研究所に、黒い装殻者はパイルが抑えている。肆号(ヨンゴウ)も追いついたところでパイルを先に発見するだろう。ここへの援護は……』


 エータの言葉を遮るように。

 突如、遠く離れたヘリが爆散した。


「なっ!」

『何事だ!?』

「ユナ……!」


 伝わってくる重い衝撃に、三者三様の反応を示すミツキらに。


「援軍が来ない、か? 俺を呼び寄せたのは君たちだったと思ったがな」


 淡々と静かな声が、ミツキの耳朶を打った。


「戦場の経験は、私とて君たちに劣るものではない。後手であったのは認めるがね」


 遠くで火を上げながら吹き飛んで海に破片を撒き散らすヘリを見ながら、その男はミツキを庇うように立った。


「花立……!」

『……トウガ』


 オールバックにきちんと着込んだスーツ、銀縁眼鏡の男は鋭い視線をエータたちに向けた。


「花立さん! ユナが!」

「落ち着け。あのヘリは囮だ。ユナは別経路……おそらく潜水艦を使って輸送されている。こちらから打つ手はないが、今は無事だ」


 ミツキの叫びに、花立はエータらに対峙したまま答えた。


「場所はPL社本社だろう。奴らがユナをさらった目的がこちらの考えている通りなら、今すぐ殺されることはないはずだ」

『……貴様は、研究所に詰めているものと思っていたが』

「君たちばかりが、常に物を考えていると思わない事だ。私たちをあまりナメるなよ」


 花立はネクタイを緩めると、ゆっくりと腕を構えた。


 そして顔の前に右拳を。

 右の脇腹に左の拳を当てる。


 そのまま、体の中心で交差するように両腕を薙ぎ払い、軌跡が太い逆十字(アンチクロス)を描く。


参式(サンシキ)変纏身(ヘンテンシン)!」

実行(レディ)


 男の全身を、限りなく黒に近い紅の外殻が覆う。

 翡翠の両眼が鋭く光り、体幹と腰に現れる太い出力供給線(ホワイトライン)

 そこから全身にさらに細いラインが伸びて、補助頭脳(サポーター)が告げた。


装殻状態(フォルム)対空追加装殻装備(アンチエアジャケット)


 腰の左右前面に付いた一対の出力増幅殻(ブーストコア)が輝き。


 紅黒色の外殻を持つ、両腕と膝下(ニーダウン)が特に盛り上がったマッシブな体格の装殻者が現れた。


「黒き修羅の力を右腕に」


 右腕には、ワイヤー制御型遠隔操作円月輪。


「黒き天女の力を左腕に」


 腰にアームでマウントされ、左腕に伸びて接続されているのは対空殻弾機関砲。


「鬼神の決意を胸に、不退転の道を駆けるーーー」


 背部には、追尾弾頭型ミサイルポッドを背負って。


「我こそが《黒の装殻(シェルベイル)》ーーー名を、参式(ザ・サード)


 〝別格〟の男が、名乗りを上げた。


※※※


 風間ジロウ、という《黒の装殻》は、実は存在しない。

 それは、与えられた偽名と仕組まれた戸籍の羅列に過ぎない。


 そもそもは、自分自身があまりにも有名になり過ぎた【黒殻】総帥、本条ハジメが自身らの未来を危惧した事に端を発する。

 いずれ世界と敵対する可能性を、彼は予見していた。


 その為、彼は弐号の消息を、参号の正体を、肆号の特殊性を……故意に秘匿したのだ。


 公式に肆号であると伝えられるのは、井塚ヤヨイ。


 彼女は既に人体改造型としての力を失っている、とされている。

 また、司法局の上層部にいるシノやカヤ、カズキが政府の傘下に入る事を条件として、彼女の自由は保障された。


 そして、参号は。

 その正体を隠したまま、花立トウガとして、堂々と敵対している筈の司法局で働いていたのだ。


「正体を明かして良かったのかしら?」


 どこか緊張しつつもからかうように、ラムダが言う。


「気にするな。君たちは全員拘束し、【黒殻】で丁重にもてなす事が、ついさっき決まった―――」


 参式は、事実を語るように特別な感情もなく言い。


 いきなり、機関砲を乱射した。


 避けるラムダとエータだが、ガンベイルの大きさから右の姿勢制御用機動補助機構が軽く被弾する。


『ぬぅ……』

「不意打ち!? 卑怯よ!」

「ユナをさらった君たちには言われたくないな」


 参式は、ぐ、と足をたわめて跳ねた。

 当然、空に逃れたラムダたちには届かない、が。


「出力解放 The Secondーーー《黒の天蓋(キャノピースフィア)》」


 参式は足元に、空間遮断型の不可視障壁を展開すると、それを足場にしてさらに跳ねる。


「え……?」

「墜ちろ」


 参式は、目前に迫った自分に対応出来ないラムダに、円月輪のワイヤーを巻き付けると、力任せに引っ張った。


「う、あぁ!?」

『ラムダ!』


 ラムダは、元々非力な装殻である。

 為す術もなく地面に引き落とされるラムダに意識を向けるエータに。


「よそ見をしている暇があるのか?」


 投げ落とすラムダを基点に軌道を変更した参式は、背部のミサイルと機関砲を一気呵成に叩き込んだ。


『ぬ、ぐ、うぉお!?』


 ガンベイルは、破格の機動力と火力を有するが、巨体故に細かい動作は苦手としている。

 不意打ちからの攻撃に呆気なく破壊されたガンベイルから、エータが脱出するのが見えた。


「所詮、巨殻(ギガンテス)の出来損ない……優位が崩れれば大した脅威でもない」


 着地した参式は追加装殻を収納し、倒れて動けないラムダとミツキを両手に掴み上げて走り出した。


「は、なせ……!」

「え? 逃げるんすか?」

「コウたちと合流する。あちらにはミカミが向かったが、彼女は事情が事情だけに、暴走する危険がある」


 答えながら参式が後ろを振り向くと。

 着地したエータが、こちらを追いかけて来ようとするのが見えた。


「よし……そのまま来い」


 誰にも聞こえない呟きを漏らしつつ、参式はコウたちがいる場所へと向かった。

 




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