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黒の零号〜最強の装殻者〜  作者: 凡仙狼のpeco
第1話:纏身! 黒の零号!
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第2節:アヤとの再会

 旧四国エリアにある、新高知第七飛行場。

 民間のエアラインを使って無事にエントランスまでたどり着いたコウは、大きく背筋を伸ばした。


 エコノミークラスは狭いが、本島からほんの数十分で着くのでコウには文句はなかった。

 しかし横では、疲れた顔のミツキが自分の肩を手で揉んでいる。


「ちゅーか、仕事のための移動やねんからビジネスクラスくらい用意しよや……」

「一時間かからないんだから、贅沢言うなよ」

「くそ、やっぱ納得いかんわ。いくら美人が待ってるからって、何で俺がこんな目に……」

「まだ言ってるんだ…… ミツキって結構、往生際が悪いよね」

「やかましいわ」


 そんな声にも元気がない。

 たった数十分の空旅で、こんなに元気がなくなるものだろうかと訊いてみたら、高いところが苦手らしい。

 窓ぎわだったのがダメだったみたいだが、言えよ、とコウは思った。


「じゃあ、船にしとけば良かったね。多分俺がお金だけ貰ってたら、船使ったのに」

「船!? お前、どんだけ金ケチんねん」

「ケチれるだけケチるよ。当たり前だろ」

「さよけ。でも船はあかん」


 何故かと訊くと、ミツキは船酔いもひどいそうだ。虚弱か。

 そんなミツキは放っておいて、コウは荷物をまとめたキャリーバッグに手を置きながら周りを見回した。

 それなりに人がいるかと思っていた飛行場は閑散としている。


 しかしよくよく考えたら、当然の事かも知れない。

 今の四国に向かう民間の利用者は、少ないのだ。

 四国を目指す人は一度入れば基本的には外に出ないし、逆も同じだからだ。


 だからこそ、【黒殻】はこんなところに研究所を構えているに違いない。

 なんせ、四国はほとんど政府の手が届かない……というか、機能していない土地なのだ。


 日本は現在、沖縄は台湾と統合され、北海道は独立自治権を持っている。

 そして四国は『日米装殻紛争』と呼ばれる武力紛争により一度壊滅した。


 その後、旧愛媛エリアは米国駐留軍に占拠され、旧徳島エリアは大手グローバル企業国家である『トリプルクローバー』の拠点となった。

 残りの旧香川エリアは無法地帯、そして旧高知エリアは『不良装殻結合者(ベイルダー)』と呼ばれる人々がコミュニティを形成している。


 現在、旧来からの『日本』と呼ばれる場所は日本列島本島のみとなっているのだ。


「おにーちゃーん!」


 突然、可愛らしい声がエントランスに響きわたり、コウは目を見開いた。


「あ、アヤ!?」

「何や、知り合いか?」


 声を上げて手を振っているのは、装技研の制服らしき服装に白衣を纏った、10代中頃の少女だ。

 黒髪のサイドテール、年齢よりも幼く見える可愛らしい顔立ち。


 彼女は二人の同行者を連れていた。


「ええと……妹だよ」

「妹? 自分ら兄妹で【黒殻】に入ったん?」

「色々事情があってね……ここにいるとは知らなかったけど」

「ふーん」


 あまり話したくない事なので、コウは言葉を濁した。

 ミツキもそれを察してくれたのか、深くは突っ込まなかった。


 待ち合わせについて、ジンは着いたら分かると言っていたが、そういう事だったらしい。

 同行者も、ジンの言葉に違わず女性だ。

 一人はショートへアの二十代くらいの女性で、カーディガンにショートパンツという服装。

 ニコニコと微笑みを浮かべている。


 もう一人は十代にもなっていなさそうな女の子だった。

 ストレートロングの髪にノースリーブの服を着て、女性と手をつないでいる。

 親子だろうか。


「久しぶり」

「うん。元気そうだね、お兄ちゃん」

「アヤも。大丈夫だった?」

「ここの人たち、みんないい人だから」

「なら、良かった」


 本当は、少しも良いことなんてない。

 それでも目の前で嬉しそうに笑う義理の妹に、コウも少しだけ笑った。

 二人の再会が落ち着くのを待ってくれていた女性が、口を開く。


「はじめまして。北野コウくんに、井塚ミツキくん?」

「はい」

「お、お世話になります」


 相当な美人に微笑みかけられて、ミツキの顔が赤い。


「私は、(よろず)ケイカです。ほら、あなたもご挨拶は?」


 少し人見知りをしているのか、もじもじしていた少女は、ぎこちなく笑って自己紹介した。


「み、皆上ユナです……五歳です」

「はい。はじめまして。北野コウです」

「可愛えーなぁ。井塚ミツキです」


 片手を広げる女の子に、コウはうなずき、ミツキは頭を撫でた。

 ユナは、へへ、と笑ってケイカを見上げる。


「はい、よく出来ました」

「私は北野アヤです。ミツキさん、よろしくお願いします」

「あ、うん。よろしく」

「とりあえず、職場に向かいますね。詳しい説明は後になると思うけど、大雑把に施設の説明をするから」


 言いながら、ケイカは歩き出した。

 コウが移動手段を訊くと、車で来たらしい。


 キャリーバッグを持ったまま電車とかでなくて良かったと思う。

 しかし、そんな和やかな時間は長く続かなかった。


「おー、女連れで金持ってそうなのがいるぜ」


 飛行場を出た途端に、バカにしたような物言いが投げられ、コウ達は一斉にそちらを見た。

 ガラの悪そうな連中が、ニヤニヤとこちらを見ている。


「なー、金恵んでくれや。ついでにオネーサン達は、俺らと遊ぼうぜ?」

「ヤベ……俺装殻持ってへんで」


 支給品であるミツキの装殻は、所属が変わるという事で返上している。

 コウは緊張を感じた。


 相手は、すでに装殻を身にまとっている。

 みんな、不思議な事に体の一部分……腕や足などの部位だけに装殻していた。

 しかし部分的にでも装殻状態になっている人間の身体能力は、生身で太刀打ち出来るものではない。


 女性陣に目を向けると、ユナは不安そうだがケイカとアヤは落ち着いていた。

 ケイカがアヤに問いかける。


「アヤ。装殻は?」

「すみません。戦闘用じゃないです」


 装殻には種類があり、大まかに労働用、情報処理用、戦闘用に分けられる。

 戦闘用にも競技用と軍事用などの区分けがあるが、とりあえず今役に立つ装殻をミツキもアヤも持っていないらしい。


「コウくんはあるよね?」


 ケイカの問いかけに、コウは首を横に振った。


「装殻はありますが……俺、展開出来ないんです」


 それは戦闘員になってから、はじめて分かった事だった。

 装殻自体の欠陥ではない事は、何度も調べた。

 しかし、コウの体に内蔵された装殻は、何度(キー)となる言葉を口にしても、展開される事はなかったのだ。


「おにーちゃんは、元々非適合者なの。多分、コツが分かってないんじゃないかな」

「そうなの?」

「はい」


 装殻の装着適性がない者を、非適合者と言う。

 人体改造だけがコウが装殻者になれる唯一の手段だったが、それは違法だった。


 コウが整備士になった最大の理由は、元を辿れば装殻を装着出来なかったからだ。

 しかし、人体改造を行っても、最強の装殻を手にいれても、コウはいまだに装殻者になれない。


 そんな言い訳をしても、今の危機が打開出来ない事に変わりはないのだが……何故俺だけが、と何とも知れないものを恨む気持ちも湧いてくる。


「まぁ、装殻があるなら何でもいいよー」


 しかしそんなコウの後ろ向きな思考を遮るように、あっけらかんとケイカが言い。

 少し不安そうに、ユナが彼女の顔を見上げる。


「ケイちゃん……」


 ケイカは彼女を安心させるように、にっこりと笑った。


「大丈夫だよー。コウくん、ちょっと体借りるね」

「え?」

「アヤ、お願いね」

「はい」


 アヤがうなずいたのを見て、ケイカはコウの肩に手を置いた。


「……〈精神憑依(ブレインハック)〉」


 ケイカがつぶやき、彼女がふらっと倒れた。

 アヤがその体を支え。


 同時に、コウの体が全く動かなくなる。


 ―――え?


 肉体感覚がなくなり、声が出せないどころか目線すら動かせない。


「装殻展開!」


 コウの口と体が、勝手に動いた。


 左手を高く、右手を低く構え。

 両腕が、斜めの逆十字(アンチクロス)を描く。


要請実行(オールレディ)


 それまで、何度コウが呼びかけても応えなかった装殻の補助頭脳(サポーター)が。

 女性の声で応え、命令を実行した。


「この声って……」


 アヤが驚いたように目を見開く。


 そして、コウの装殻が展開する―――。


 全身から、装殻を形成する粘土の高い黒色の液体……『流動形状記憶媒体(ベイルドマテリアル)』が染み出して、体表を覆った。


 粘液はそのまま、瞬時に硬化して漆黒の外殻を形成する。


 頭部を、飾り気のない形状のフルフェイスが覆い。


 コウの視界の隅に、装殻状態をモニターする為の立体ドールが現れた。


 紅い両眼に、どこかずんぐりとしたフォルムの装殻者。


 それが、コウが装殻を展開した姿だった。


装殻形態(スタイル)全能力制限(フルリミット)


 補助頭脳が再び言葉を発し、展開完了を告げた。

 

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