第6節:ジンとの対話
「いやー、参った参った」
カプセルから出てきてへらへらと笑うパイルに、ラムダは冷たい目を向けてきた。
「参った、じゃないでしょ。だからさっさとあの場所から撤退しろって言ったじゃない。何を遊んでるのかな?」
「仕方ねーだろ? あのままじゃ奴ら、Ex.gと俺らの繋がり見つけんのに時間掛かるし。手っ取り早く色々説明しといたんだよ」
言い訳か、と言わんばかりにじっと見つめるラムダに、パイルは表情を変えなかった。
すると諦めたのか、ため息を吐いてラムダが口を開く。
「案を出したのは私だから、それなら良いけど……本当におびき寄せれるんでしょうね?」
「大丈夫だって。奴らは放置をしねーんだ。何でもかんでも問題が起こりゃ自分の手で解決しようとするからな」
「効率が悪いわね」
「人を数字として見ちゃいないんだ。お前と一緒だよ」
「不愉快な事言わないでくれる?」
ラムダが、つん、とその場を後にするのに、やれやれ、とパイルは首を横に振った。
「奴らに恨みがあるのは俺も一緒だが……奴らと俺らは本質的に〝同じ〟なんだから何でもかんでも反発したって仕方ねぇだろーに」
その独り言は、誰に聞かれる事もなく宙に溶けた。
※※※
コウは、こちらに来てから初めてジンに連絡を取った。
ちょうど時間が空いていたようで、部屋から連絡を入れたコウに応じてくれる。
色々と雑談した後に、ジンが笑った。
『お前が行ってから、問題が噴き出してるな。もしかしてトラブルメーカーか?』
「俺のせいじゃないですよ……」
問題の中でも特に頭を痛めているのは、『青蜂』とEx.gだ。
あれから改案は幾つか試みたが、どれもそれぞれに問題が出る。
先の見えなさに、誰かに相談したかったのだ。
こちらの人間は全員が煮詰まっている。
「特にケイカさんが……」
『どうした?』
「ラストプランを落とすわけにはいかないから、チームを二つに分けるって言うんですよ」
二機ある『青蜂』を一台ずつ使用し、それぞれで中枢型と分散型のシステムプランを進める、と言い出していた。
ここでさらに人手を減らす選択肢は悪手だとコウが言っても、聞く耳を持たない。
原因は、最悪の場合は《コム》と出力変更の搭載を諦める事を検討するようにコウが告げた事だった。
『ケイカさんは、一度決めると頑固だからなぁ』
「笑い事じゃないですよ……あれのせいで規程重量オーバーの問題が解消されないんですから、検討しなきゃ仕方ないじゃないですか」
『お前の腕でもキツいのか?』
「せめて後一ヶ月時間があれば違うかも知れませんが。分散型が実用レベルにならない事には……」
『ふ~ん。その分散型ってのはどんなもんなんだ?』
ジンの質問に、コウは内容と問題点を大雑把に説明した。
彼はそれを聞いて何か考え込んでいたが、不意に向こうで誰かと話してから話題を逸らす。。
『あ、そうだ。俺、近々そっちに行くわ』
「え?」
『多分2、3日くらいで着くから、それまでお前、ちょっとシステムが改善された時の案、練っといて』
「は?」
『じゃ、よろしくー』
そう言って、ジンは一方的に通信を切ってしまった。
もしかしたら、忙しいのを隠して話に付き合ってくれたのかもしれない。
コウは、ジンが最後に言った言葉が引っかかっていた。
「システム改善後……ジンさんに何か考えがあるのかな?」
今言ってくれた方が良かったのに、と思いながらも、もう一度通信を入れるのも躊躇われて、結局コウはメールを送るだけに留めた。
それに対する返答は、いくら待っても来なかったが。




