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黒の零号〜最強の装殻者〜  作者: 凡仙狼のpeco
第3話:体得せよ! 出力変更!
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第4節:反撃開始

 先日の装技研の襲撃に関する調査が終わり、警備課の尽力によって相手の根城が判明すると、ケイカたちは速やかに動いた。


 繁華街から少し離れた位置にある、入居者のいない多目的オフィス。

 無人街にあるその一階建ての建物が、襲撃者たちを送り出した拠点になっている、という事だった。


 カオリは、現状で動かせる戦力を総動員して周辺への根回しを終え、現在は襲撃の為に警備課が展開している最中だ。

 それを待ちながら、コウが口を開いた。


「何で俺まで、警備の仕事に駆り出されてるんですか?」


 肩書きが装殻開発アドバイザーに変わるのと同時に、彼の所属はケイカの直属になっていた。

 個人の基礎訓練は相変わらずカオリと行っているが、警備の合同訓練からは外れ、代わりに開発に参入している。


 開発側の切羽詰まった状況は変わっていないどころか悪化しているのに、突然の招集。

 コウが自然、ピリピリと刺のある口調で言うと、同じくケイカが棘のある口調で答えた。


「人手が足りないからよ。誰かさんのせいでリリスは手一杯、ミカミは私とカオリがこの場にいる時点で装技研から離せないでしょう」


 ケイカも同じく苛立っている。

 コウが黙ると、ミツキが後ろでこそこそとカオリと言葉を交わすのが聞こえた。


「……今度はどないしたんですか?」

「聞いた話だと、基礎機能(ベース)系と補助形態(フォルムチェンジ)系の操作システムをそれぞれ独立させてブロック化する事で、負荷軽減を計っているらしいんだが、そこでまた揉めているそうだ」


 カオリの言葉に、コウはますます渋面になる。


 現状『青蜂』は、中枢型(セントラル)構造だったシステム面を、分散型(ディスト)型構造へと改築している。


 だが、《ハニー・コム》とフォルムチェンジが切り離せないハード面の特性が、この分散構造への移行を阻害していた。

 分散型のシステムでは、フォルムの切り替えが上手く処理されないのである。


 元々、フォルムチェンジの為に、今までの装殻よりも補助頭脳(サポーター)を増設している『青蜂』だが、サブサポーターの性能では完全分離構造での装殻稼働は無理だ。

 その為、本体側の制御を補助頭脳に任せ、サブ側で形態変化時の《コム》制御を行おうとしているのだが……エラーが頻発した。


 別々の補助頭脳に制御された流動形状記憶媒体(ベイルドマテリアル)をそれぞれの補助頭脳が別個体と認識し、連携が取れないのである。

 理由が分からない。

 しかも最悪の状況では、反発しあった補助頭脳がエラーを起こしてシャットダウンし、装殻展開自体が解除される事まであった。

 そもそも補助頭脳を複数搭載するという事自体が初めての試みゆえに、今まではこうした問題が起こる事がなかったのだ。


 リリスとアヤが改善に取り組んでいるが、糸口すら見えない。

 故に、コウたちは焦りを覚えていた。


 あくまでも《コム》を基礎から切り離す事で、もし最終的にフォルムチェンジの実用化に至らなくても仕方がないと主張するコウと。

 フォルムチェンジを廃するくらいなら、最初の中枢型システムでラストプランを終えると主張するケイカ。


 《コム》実装が行われなければ新商品としての目玉が消え、中枢型を採用するなら重量や負荷の問題が解決されない。

 どちらにしても譲れない面があった。


「全員、装殻を展開しろ」


 カオリが警備課の展開完了報告を受けて指示を出した。


「Veild up!」

「……纏身!」


 コウとミツキがそれぞれに装殻を展開し、カオリを見た。


「あれ? カオリさん、装殻はどないしたんですか?」


 いつもの腕輪型装殻具を身につけていないカオリに、ミツキが首を傾げる。


「今日は本気だからな。私の装殻は……コイツだ」


 と、カオリが指差したのは、ケイカ。

 コウにもよく意味が分からず、質問を続ける前に、ケイカが声を張った。


「ーーー〈外殻憑依(ベイルド・ライディング)〉!」

要請承認(アイ・ハヴ)!」


 カオリが、ケイカの声に応えるのと同時に。

 ケイカの体が、溶け崩れた。


「「ーーー!?」」


 コウとミツキが驚きに固まる前で、流動形状記憶媒体(ベイルドマテリアル)に似た何かと化したケイカが、カオリに向かって絡みつく。


 腕を、足を、体を、頭を。


 グルグルと巻き付くように覆い尽くしたケイカだったモノは、その体色を黒から深紅に変えた。

 一対の触覚に似た器官が頭部に形成され、有機的な複眼が滑らかに結合した表層を割って出現する。


 口元は、牙を剥き出しにした破壊牙顎(クラッシュファング)を形作り。

 両手の爪は長く伸びて硬質化し、剛刃爪(ブレードネイル)が凶悪なエッジラインを描く。


 さらに外殻の表層が、徐々に岩石に似た質感に変わっていった。

 血管のような出力供給線(ブラックライン)を全身に走らせながら、最後に足元が変質を終える。


 膝より長い鋸長刃(カットソー)を足の前面に、くるぶし丈の太く短い大鉈刃(マチェータ)をカカトに備えた、どこか見覚えのある形。

 脚部機動補助機構(フット・コンバット・スラスター)『フェトロック』は、どうやらこの謎の装殻を参考に作られたのだろう。


寄生殻(パラベラム)……?」

襲来体(イミテイト)……?」

「「ん?」」


 コウとミツキは同時につぶやいて、顔を見合わせた。


「どちらでもない。敢えて言うなら……複合装殻体(ベイルド・イミテイト)だ」


 カオリが、体表の胸元を爪先で撫でた。


「生きている装殻。それが《黒の装殻(シェルベイル)》の4番目ーーー肆号(ハイブリッド)の正体だ」


 人に〝纏われる〟シェルベイル。

 それが、(よろず)ケイカなのだと、カオリは言った。


「じゃあ、この間、俺に憑依したのも……」

「能力の応用、という奴だな。自身の因子を相手の細胞と融合し、意識を共鳴させることで操ったんだろう。気をつけろよ、覗きにも使える能力だ」


 そう言った途端、カオリは呻いた。


「何だよ、事実だろ……分かった分かった。お前がそんな事をしないって事は知ってるから、頭の中でわめくな」


 どうやら、同化してもケイカの意識はあるようだ。


「それが、肆号(ヨンゴウ)の装殻形態なんですね」

「少し違うな。ケイカは、憑依する相手によって形を変える装殻だ。この形態は、私の意思を反映した装殻形態さ」


 カオリが全身に力を込めると、彼女の体表が熱を発して炎が吹き出した。


炎撃形態(フレイムライド)、と私たちは呼んでいる」

「炎撃形態……」


 ジッと見つめるコウに、カオリは笑いかけるように顎を開いてから、表情を引き締めた。


「さぁ、無駄話は終わりだ。始めるぞーーー突入!」


 カオリの掛け声と共に。

 コウたちは、一斉にオフィスの出入り口や窓を突き破って、突入した。

 


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