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黒の零号〜最強の装殻者〜  作者: 凡仙狼のpeco
第3話:体得せよ! 出力変更!
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第3節:ケイカの事情/コウの事情

「さて、と」


 コウの短気に慣れていて度胸が座っているミツキが、黙り込んでしまっている周りを見回して軽く笑みを浮かべた。


「どないしますか?」


 彼が指示を仰いだのは、カオリだった。

 もともと上司で、一番冷静に判断できると思ったのだろう。

 面倒だったが、カオリはため息を吐いて指示を出す。


「コウを追いかけろ。アヤは、ユナを連れてもう寝ろ」

「あいさー」

「うん……」


 それぞれに答えて立ち上がるミツキとアヤ。


「ミツキさん。お兄ちゃん、よろしくね?」

「お任せやで。これでもコウの扱いは得意や」


 ミツキは出て行き、アヤはユナの手を取って立たせる。


「さ、行こう、ユナ」

「こーくん、ぷんぷんなのー?」


 心配そうに、立ち尽くすケイカの顔を見上げてためらうユナに、ミカミが優しい笑みを浮かべて答える。


「大丈夫だよ〜。ちょっと二人とも言い方が悪かっただけだから〜。すぐ仲直りするからね〜」

「さ、私とねんねしよう、ユナ」

「うん……おやすみなさーい」

「おやすみ〜」


 まだケイカをちらちら見上げながらも、ユナはアヤに連れられて部屋を出て行った。

 まだ部屋の空気は重いが、傍観者だったカオリとミカミ、そしてどこか不満そうなリリスは冷静だった。


「ケイカ〜。座りなよ〜」


 ミカミの言葉に、大人しく従うケイカ。

 カオリはその様子を眺めながら、再び缶ビールに口をつけた。


「で、なんで反論しなかったの〜?」


 ミカミが笑みを浮かべながら卓に頬杖をつくのに、ケイカは鼻から息を吐いて、淡々と答えた。


「彼が、正しいからよ」

「でも、ケイカにはケイカの事情があるじゃないですか〜?」

「そんなもの、言い訳にすらならないわ。それに、さっきのは失言だった。私もすぐに熱くなる」

「それに関してはフォロー出来ないな」


 カオリたちは、ケイカの事情を知っている。

 だが、確かにそれは言い訳にはならない。


 建前上、製品として『青蜂』を開発している以上は、コウの言に利があるのだ。


「あの装殻は、ただ一人、求めた装殻者の為に開発したものだと言って、彼が納得すると思う? それに私は、まだ彼を《黒の装殻(シェルベイル)》とは認めていないわ。私の事情まで、説明する気はない」


 そういうケイカの顔は、何かに耐えるように引き締まっていた。

 彼女は総帥から、装殻の開発権を与えられている。


 巨額の費用を投じて装殻を開発する為には、周囲を納得させなければならない。

 【黒殻(アンチボディ)】が世間的に悪の組織であり、カリスマである黒の一号が率いていても、そこは組織だ。

 まして、表向きの企業である装技研で立ち働く者全員に【黒殻】の息が掛かっている訳ではない。


「もう少しなのよ。『青蜂』の完成で、私は目的を達成出来る。でも、私たちだけじゃもう限界なのよ。ハジメさんだって暇じゃない。アヤだって、ハジメさんの研究と二足草鞋で、こちらにばかり拘ってはいられない。……時間もない。彼の力が、私たちにはない目と技術が、どうしても必要なの」

「お眼鏡には適った、って訳ですねぇ〜。なら打診しますか〜?」


 ミカミの言葉に、ケイカはうなずいた。


「ええ。彼を『青蜂』の開発スタッフに加えるわ。彼の作り直したクルアンとキラービィ……認めるのは業腹だけど、間違いなく優秀だもの。私の可愛い子たちを、好き勝手イジり回してくれて……!」

「認めるか悔しがるか、どっちかにして下さいね〜」


 ようやく空気が緩み、そこでリリスがぽつりと言った。


「コウの話……もっと聞きたかった……ケイカ、嫌い」

「これから幾らでも聞けるでしょ? 《ハニー・コム》なしで、『青蜂』は完成しないわ。これから、好きなだけ話し合いなさい」


 そう答えたケイカは、もう、いつものケイカだった。


※※※


「ほい」


 コンクリで固められた岸に座って、膝を抱えて海を見ていると、後ろから近づいてきたミツキが炭酸飲料を差し出した。

 見上げると、同じものを彼も手に持っている。


「また、今回は派手にキレたなぁ。短気は損気やで?」

「……分かってる」


 カッとなったのは、自分の一番深いところに達した言葉だったからだ。

 コウは缶飲料を受け取った。


「だけど、あの発言は俺には我慢出来なかった」

「ま、せやろなぁ。お前は、いっつも弱い奴の味方やからな。整備課長に噛み付いた時もそうや」


 ミツキが言っている事件は、調整が上手くいかずに実力を発揮出来なかった戦闘員に、整備課長が怒った時の事だ。


『毎度毎度、装殻を傷つけて帰って来やがって!』と。


 それにコウが反撃した。


 自分の腕のなさを棚に上げて、装殻者のせいにするな、と。

 それがコウが基地で装殻整備に手を付けた始まりであり、後に整備課長が自分の非を認めて謝罪したから、コウは基地で認められたのだ。


「弱い奴の気持ちが分かるんはお前のええとこや。でもな、コウ。言い方は悪いけど、強者には強者の言い分があるで。扱いが難しくても、より性能の良いものを求める理由や」

「……どういう理由?」

「より高いところを目指す為。そして、弱者を守る為、や」


 言われて、コウは考える。


 性能の良い装殻を、優秀な装殻者が纏う。

 そうする事で、弱者を守る事が出来る。


 その考えそのものは、間違っていない。

 しかし。


「それでもハジメさんは、弱い奴を切り捨てるような事は言わない」

「あんな人はそうそう居らんよ。皆、自分のことで手一杯で、周りの事なんか見えてへんねや。俺には、ケイカさんの気持ちも分かるで。そりゃ行き過ぎな部分もあるけどな。俺は、キラービィは気に入っとる」


 ミツキが、コウの横に腰を下ろした。

 彼が缶のプルトップを引くのに合わせて、コウも自分が渡された缶の口を開ける。

 吸い口に口を付けてから、ミツキが続けた。


「あれほど、装殻者自身の技量が問われる装殻はなかなかないで。使いこなしてみたくなる。より高いところを目指したくなるんや。そんで、努力が実った時は、両手を上げて吼えたくなるほど、嬉しい」


 そう言って拳を握るミツキの横顔は、本当に生き生きとしていた。

 逆に、コウは表情をさらに暗くする。


 装殻に人が合わせるようなやり方は認められない、とコウは言った。

 だがミツキは、それは違う、という。


「一緒に成長するんや。装殻と装殻者が。お互いのクセを把握して、より深く、お互いの能力を引き出す。……きっと、ケイカさんが目指してるんは、そういう装殻なんやろ。やから、努力って言葉が出てきたんや。弱い奴は装殻者になるな、っちゅー話とは、またちゃうと思うで」

「だけど、今のコンセプトを突き詰めれば『青蜂』は結局、弱い奴を切り捨てる装殻になる」


 その装殻を扱えるものだけが、手に出来る力。

 価値はあるだろう。

 ミツキが言うような人々には、特にウケる筈だ。


「ねぇ、ミツキ」

「ん?」


 手の中の飲料を飲み干し、缶を握り潰して。

 海風にそよぐ前髪の向こうに広がる暗い海を見据えながら、コウは言った。


「そんな装殻を世に広めるのは、ハジメさんの目指した装殻の在り方じゃないと、俺は思うんだ」


 ミツキは、立てた膝に缶を持った右腕を乗せ、顎を上げて風の心地よさに目を細める。

 そして、笑みを浮かべたままで言った。


「なら、お前が変えたらええやん」


 なんでもない事のように言われて、コウは首をかしげる。


「俺が?」

「せや。ケイカさんの言い分も、お前の言い分も分かる。なら、両方の要望を満たす装殻を協力して作ったらええねん。誰でも無難に扱えて、より上を目指す奴には高いポテンシャルで応えるような装殻や。作りがいあるんちゃうん?」

「……きっと、頼んでも参加させてくれないよ。そんな甘い話じゃないだろ? 新型装殻の開発なんて、一介の調整士程度が手を付ける許可を貰える訳ない」

「いや、さっき意見求められとったやん。喧嘩の原因忘れたんか?」

「あれは……あくまでも参考として、だろ?」

「俺は最終確認やと思ってたけどな。ちょっと前に、ケイカさんとミカミさんが話しとったんをチラッと聞いたんやけど。お前にその意思があるなら『青蜂』開発のアドバイザーとして正式に参入させる、てな」

「……嘘だ」


 信じられる話ではなかった。

 コウは、自分にそこまでの価値があるとは思っていなかった。


「本人らに確認したら分かる事やろ。さ、気が済んだなら、どうするか決めぇや。やる気、あんの?」


 ミツキの言葉は、奇しくも、この間のケイカの問いかけと同じだった。


 ーーーやる気をね、見せて欲しかったんだよ。


「やる気なら……ある」


 一人でエレフ・パラベラムを倒したあの時から、もう、腐る程持っている。


 チャンスをくれると言うのなら。

 コウに、断る理由なんか少しもなかった。


「もし装殻開発に参加出来るなら、人を助ける、最高の装殻を作ってやる」

「その意気や」


 コウの様子に、ミツキが満足そうに親指を立てた。

 

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