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黒の零号〜最強の装殻者〜  作者: 凡仙狼のpeco
第1話:纏身! 黒の零号!
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第1節:コウとミツキ

 上司に対面する、ほんの30分前の事。


 基地内の装殻整備場は、それなりの賑わいを見せていた。

 つい先ほど敵対組織との戦闘を終えたところで、多くの戦闘員が自分の装殻を調整しに来ているのだ。


 使ったらメンテナンス。

 悪の組織のわりに、そのあたりの規律は徹底されている。


 戦闘にはコウも参加していたが、やっぱり後方でこそこそしていたので、ツナギに着替えて他の人のメンテナンスを手伝っていた。

 本職の整備士や戦闘員からも、コウの整備は好評なので結構うれしい。


「どう? ミツキ」


 コウは、整備士区画でのんびりと順番を待っている様子の同僚に声をかけた。

 彼は上下がつながった黒い制服の上着から腕を抜いて、タンクトップ一枚になっている。

 あぐらを掻き、簡易調整機(ピコメンタブル)のホロスクリーンとにらめっこしていた彼は顔を上げて、コウを見た。


「おー、コウ。いや、装殻の右腕がイマイチ調子悪いねん」


 大阪区から来たという彼は、人体改造手術を受けて退院したコウと同じくらいに【黒殻】に入った少年だ。

 聞くところによると、幹部の一人から推薦をもらったらしい。


 髪を染めていて、細身だが引き締まった体つき。

 顔立ちも鼻が丸く、美形ではないが表情豊かで愛嬌がある。


 技術は未熟だがガッツがある、と上司からの評価もそこそこ良い。

 同期という事もあり、一番最初に仲良くなった少年だった。


「どんな感じ?」

「ん。口で説明するよりお前が見た方が早いやろ?」


 コウが訊くと、ミツキは画面を見せてくれた。


 本来の仕事で役に立たないので、こういう部分で還元しているつもりだ。

 最初はコウが人体改造型という事で緊張していた他のみんなも、ミツキのおかげでコウを知るにつれて気安くなってくれていた。

 口には出さないが、わりと感謝している。


「フィッティングが甘くなってて、出力も落ちてるね。三番出力線がヘタッてるんじゃないかな」

「交換出来るん?」

「このタイプは在庫の予備があったし、すぐ直るよ。取ってくるから念のために、今のフィジカルデータを調整機に記録しといて。ついでにフィッティングもやるから」

「おう、助かるわ」


 量産型の装殻は、定期的に、個人ごとに調整をしないとしっかりと装着者になじまない。

 装殻との相性もあるし、【黒殻】は皆自分に合った装殻を使うので、部品もバラつくのだ。


 まるで中古バイクの量販店のような感じだが、元々町の何でも屋だったコウには慣れた話だった。

 しかし、部品を取りに行こうとしたところで、声がかかった。


「おーい。コウ。隊長が呼んでるぜ」


 コウが配属された部隊の一人が、近づいてきて言った。


「呼び出し? 何だろ?」

「また始末書ちゃうん?」


 ミツキがニヤニヤと言うのに、コウは顔をしかめた。


「今日は何もポカしてないと思うけど……」

「いや、だってお前、逃げまくりやし」

「前に出ても、足引っ張るだけだから」

「……お前、本当に人体改造型なん? 俺、一回も装殻してるとこ見てへんねんけど」

「はは……」


 コウは苦笑いした。


「いや、隊長が呼んでるのコウだけじゃねーよ。ミツキもだ」

「は?」


 ミツキが面食らった顔をした。


「今日は、お褒めの言葉もらうような事してへんと思うんやけど」

「呼ばれて褒められる事を期待できる、そのミツキのポジティブさが欲しい」

「んー、別に怒られてもかまへんけど。親父に比べたらちぃとも怖ないしなぁ」


 よ、と軽く声を出して立ち上がったミツキが、ぽん、とコウの肩を叩いた。


「ほんだら、行こか」


 この時、コウもミツキもこの後に自分の身に起こることは、まるっきり予想していなかった。


※※※


 執務室を出たコウ達に、ジンがくっついて来た。


 三人で廊下を歩くと、ミツキは少し緊張しているようだ。

 そんな彼に、ジンは気にした様子もなく話しかけた。


「ミツキってさ、ハジメさんと風間さんに会ったんだろ?」

「風間さん……? ああ、はい」


 少し考えるような顔をしてから、ミツキがうなずいた。


「こないだの大阪区の事件の時ですね」

「敬語じゃなくていーよ」


 最初にコウに会った時と同じことを言うジンに、コウは笑った。


「あー、一応、努力するっす」


 少しくだけた敬語になり、ミツキが続けた。


「で、何で俺までトばされんすか?」

「さぁ。風間さんの指示だって聞いてるけど、俺も詳しくは知らねー」

「マジすか……」

「ジンさん。今度異動になる研究施設ってどんなところなんです?」


 悲痛な顔のミツキは放っておいて、コウもジンに質問した。


「ああ、『装技研(ソウギケン)』の支部だよ」

「装技研って……」

「そこ、装殻開発の老舗じゃないっすか!」


 装殻は現在、一般に広く普及している。

 何度も人類を襲った災害により日本の人口が激減したのを受けて、労働力の補填手段として広まったと学校の授業で習った。


 その装殻を最初に開発して販売したのが、装技研……『装殻技術開発研究所』だ。

 何故そんな大手と【黒殻】に繋がりがあるのか。

 おどろくコウ達に、ジンはあっさりと言う。


「当たり前だろ? 装殻を最初に作ったの、ハジメさんだぜ。あそこ、【黒殻】のフロント企業だよ」


 フロント企業。

 それは暴力団などが資金源や隠れ(みの)として運営する会社のことだ。

 現在、装殻販売の実績こそ他の大手に譲っているが、品質では世界一とも言われている。


「ありえへん……そりゃ潰されへんはずやわ」


 コウは、ミツキのつぶやきに内心深くうなずいた。

 日本の悪の組織の一つでしかない【黒殻】が、組織ごと指名手配食らっていても生き延びている理由の一端を垣間見た気がした。


「支部扱いだけど、実際はあそこがうちでは大元の装殻開発部門になってる。装殻調整士(シェルスミス)としても勉強出来ると思うけど……戦闘訓練もサボんなよ?」


 ジンに内心を見透かされ、コウは首をすくめた。


「ま、あっこの幹部連中はかなりクセあるけど、基本マジメだからな。心配ねーとは思うけど」

「クセ、っすか」


 普段ポジティブなミツキが、不穏な単語に反応する。


「トップが《シェルベイル》の一人だからな。……そんな不安がるなよ。一つ元気になる情報やろうか?」

「何すか?」


 ミツキが食いつくと、ジンがニヤッと笑った。


「あっこの幹部は全員、女だ。しかも、美人揃いだぜ?」

 

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