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黒の零号〜最強の装殻者〜  作者: 凡仙狼のpeco
第2話:唸れ必殺! 出力解放!
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第2節:襲撃者

『おったで! あそこや!』


 研究所内に、突如警報が鳴り響いた時。

 丁度、ミツキとコウは研究所の内部にいた。

 ミツキは場内警備、コウはカオリに体づくりの指導を行われていたところだった。


「コウ、私たちも行くぞ! 来い!」


 カオリが駆け出し、コウは慌ててそれに続いた。

 警報の現場に着くと、何人かの黒い制服を身に付けた警備員が倒れている。


 カオリが、彼らの体を慎重に調べた。

 装殻は解除されているが、気絶しているだけで命に別状はなさそうだというので、騒ぎのある方へ向かう。

 そこで、先ほどのミツキの声が聞こえたのだ。


「ミツキ、場所は!?」

『一階の整備室前!』

「敵の数は!?」

『3!』

「ッ。降りる方向を間違えたな……」


 カオリが舌打ちした。

 奥階段から降りていれば、丁度正面からかち合えていた。


「コウ、装殻しろ!」

「はい! ……纏身!」


 漆黒の装殻者となったコウは、同様に軍事仕様装殻(ミリタリークラス・ベイルド)である深紅のキラービィ0606(レイロク)を纏ったカオリと共に敵の背後に出た。

 整備室の前では既に二人の警備員が倒れており、ミツキが押されている。

 彼の装殻もキラービィ0606だが、こちらは薄紅色だ。


「退路をふさげ! 逃がすなよ!?」

「は、はい!」

「おう!」


 コウらの参戦により、再び同数での戦闘になった。


 相手の装殻は蜘蛛型装殻(タランテール)系列のようだが、出回っている物よりも細身に見える。

 代わりに、基本装備である背部の副腕が長くなっているようだ。


「ザコが、たった三人で襲撃してきた事を後悔しろ!」


 カオリが、追加装殻(アームドシェル)を展開した。

 膝より長い振動刃(ブレード)を足の前面に、くるぶし丈の太く短い刃をカカトに備えた、脚部機動補助機構(フット・コンバット・スラスター)、通称『フェトロック』。

 装技研特製、カオリの為の独自兵装である。


「起動!」

命令実行(ゲットレディ)


 振動刃が蜂の羽音のような音を立てて起動し、カオリが敵に蹴り込んで行く。

 タランテールの振るう副腕を一息に破壊し。

 武器を失った相手の体を、容赦なく蹴り刻んだ。


「そらそらそらァ!」


 カオリは、最後にタランテールのどてっ腹に、膝蹴りを放ち、突き出した振動刃の切っ先で貫いた。

 装殻ごと体を貫かれて、敵のタランテールが、びくん、と一度痙攣して動きを止める。

 力なく崩れ落ちる敵から刃を引き抜いて、カオリは、ガン、と床を踏みつけた。


「歯ごたえがないね」


 その次に敵を仕留めたのは、ミツキだった。


「行くで! 出力解放(アビリティオーダー)!」

命令実行(ゲットレディ)


 敵が減って優勢になったミツキは、腕に備え付けの刺突兵装(ビー・ピック)を展開して叫ぶ。


「〈雀蜂刺突(ワスプ・スティング)〉!」


 ミツキが、スラスターによる加速と共に副腕を避けて相手に肉薄する。

 そのまま、ドン、と重い音を立てて、ミツキが相手の肩に極太のピックを突き立てた。


炸裂(バースト)


 補助頭脳が宣言して、タランテールの肩口で爆発が起こって吹き飛ぶ。

 相手は強く壁に叩きつけられてから、ズルズルと床に崩れ落ちた。


 そして、コウは。


「ぐっ……!」


 相手の長い副腕に阻まれて、上手く相手に接近出来ずにいた。

 こちらの攻撃は届かず、逆に相手の攻撃は全身に幾度も突き立てられる。

 幸い、分厚い外殻に阻まれて表面を浅く傷つけられる程度で済んでいるが、全く打つ手がなかった。


「くそ、なら……!」


 コウは拳を腰だめに構えた。

 彼とて、装殻の特性そのものは把握している。

 相手からの攻撃が通らないのであれば、ミツキのように出力解放のスラスター加速で無理やり突撃し、破壊すれば良い。


出力解放(アビリティオーダー)!」


 しかし。


解放失敗(エラー)


 補助頭脳の告げた言葉は、出力解放が起動しない事を告げた。

 当然、何も起こらない。


 それが、決定的な隙になった。

 相手は自分の仲間が倒された事に気付いて、動きを止めたコウの横をすり抜ける。


「ッ、待て!」


 追うコウに構わず、敵はエントランスまで辿り着くと、その場で跳ねた。

 天窓の枠を副腕で掴み、そのまま体を引き上げて窓を突き破る。


 相手は、コウを振り返りすらせず。

 研究所の上空に現れた、謎の輸送ヘリから降ろされた縄ハシゴに飛び上がって掴まり、逃走した。

 コウは、それを見送る事しか出来なかった。


※※※


「この大馬鹿が!」


 カオリの怒声に、コウは首をすくめた。

 今この場にいるのは、二人とケイカ、ミカミ、そしてミツキだ。


 襲撃の後、片付けを終えたコウたちを、ケイカは呼び出した。

 そしてケイカの執務室に入った途端、待ち受けていたカオリがコウを叱責したのだ。


「誰が相手を倒せと言った!? 出来もしない事をやろうとするな! あのまま身を盾にして抑えていれば、私とミツキで囲めただろうが!」

「……すみません」


 コウは俯いていた。

 彼も自分のしでかした事の重大さを十分に理解しているのだろう、特に反論はしない。


 初めての緊急警報に緊張し、カオリとミツキが敵を倒した事に焦ったのだろう、とケイカは思っていた。

 慣れない人間にはよくある事だ。


 映像を見返すと、確かにカオリは倒せとは言っていなかった。

 逃がすな、抑えろ、という命令に、コウが従わなかったのだ。

 よくある事だからと言って、命令違反を許容は出来ない。


 逃がさない事は、自分で倒す事とは違う。

 そんな当たり前の事も思いつかないほどに、先ほどのコウは取り乱していたのだ。

 コウの少し後ろで呆れ顔を見せながらも、ミツキが口を開く。


「しゃーないですよ、カオリさん。コウは初めて前線に出たんっすから……」

「前線を経験してないのは、コイツ自身の怠慢だろうが! 前までお前らが居た所はどこだ!?」

「いやまぁ……戦闘部署っすけど……」


 カオリは容赦がなかった。

 口にこそ出さないが、ケイカも同感だ。


 出来ない事は無理にやらない、というのは、鉄則だ。

 今までのコウは、前線に出ない事が無理をしない事だった。


 しかし出ざるを得ないなら、次はその中で無理をしない事を考えなくてはいけない。

 この場合は、独走せずにただ相手を引き付けて待つ事が正解だった。


 待てば助けが来る。

 その為に組織があり、人がいるのだという事を、コウは理解しなければならない。


 組織に属した経験が薄い事から、コウは任されたら自分で全てやろうとしてしまう傾向があり。

 ケイカは、彼が教えを仰ぐという行為を苦手としているように見えた。


「どんな事情があっても、ミスはミスよ。今回は何も奪われなかったから、厳しい処分はしない。でも、次の襲撃があればその限りではないわ。それをきちんと理解して。ここは本土ではないし、司法局も存在しないの。自分たちの身は、自分たちで守るしかない」

「……はい」


 コウは素直にうなずいた。

 彼は聞く耳を持たない訳ではないのだ。


「積極性の意味を履き違えてはダメ。あなたの今回の行為は無謀だったの。分からない時は言葉に出して連携する。出来ない事が分かればどうすれば出来るようになるのか、きちんと聞いて、考えなさい。ここは学校ではないし、組織はあなたの考えている事を察してあげる場所ではないのだから」

「……分かりました」


 言葉にして即座に理解出来る類いの事柄でもないだろう。

 しかし考える力はきちんと持っているのだから、後はコウ自身の問題だ。

 ケイカはあえて淡々と告げた。


「コウくんはしばらく戦闘への参加は禁止。後で始末書を提出してね。もし次に同様の事があれば、謹慎の上減俸よ。下がって良いわ。ミツキくんも」

「うぃっす」

「……失礼します」


 二人が退出すると、ミカミが口を開いた。


「しかし、慣れない人間を前線に出したあなたにも責任がありますよ、森家警備課長」

「分かってるよ。でもな、仕方ないだろうが」


 カオリが剣呑な目のまま、ミカミにも噛み付いた。


「あいつを使えるようにしたいなら、いつまでも経験不足を言い訳にしてられないんだ」


 コウたちがこの支部に来て、既に一ヶ月が経っていた。

 ミツキは順調だが、コウの成果は芳しくない。


「頭で考えて動き過ぎなんだよ、あいつは。なまじ知識が邪魔して、自分の限界を勝手に決めちまってる。自分の持つ装殻が、自分に扱える力じゃないとでも思ってるんだろうさ」

「実際の感触としてはどうなの?」


 指導を担当しているカオリは、もどかしさを覚えているようだった。

 ケイカの問いかけに、カオリは少し黙ってから答えた。


「体力や技術的な面で見れば、まだまだだ。今までほとんど体を鍛える事すらしてこなかったんだろう。すぐへばるし、教える事が多すぎる。だが、根性はある。それに成長率だけ見ればそこまで悪くはないんだ。熱心だし、欠点は次の指導までに改善してくる。同じミスをする事もない。……足りないのは、自信だ」

「最近では、装殻への適合率まで下がりだしていますね。装殻自体の能力まで総合的に見れば、そこまでミツキくんに劣る訳ではない。装殻を使いこなせれば、現状でも森家警備課長を圧倒出来るくらいの潜在能力はあるのです」


 手元のデータに目を落としながら、ミカミがカオリの言葉を補足した。


「自信、か……」


 装殻者として優れた者たちを間近に見過ぎた弊害なのかもしれない。

 自分がそうなれる、という確信が持てないのだろう。


 装殻者は、精神(メンタル)的な不安定さが即座に身体(フィジカル)的な面に直結する。

 強い意志を持つ者が、データ的な限界を超える力を引き出せるのだ。


 【黒殻】の総帥ーーー黒の一号のように。


「自信を付けさせるっていうのは、難しいよね。私も苦労したし」


 ケイカは自嘲する。

 彼女は、他人の力を借りなければその力を振るえない……《黒の装殻》の中でも異質な存在だ。


「なぁ、やっぱりカリキュラムを組み直さないか? 奴を育てたいなら、やはりもう少し時間を掛けるべきだ。今の性急さは、そもそもコウ自身の気質に合ってないだろう」


 カオリが眉をしかめるのに、ミカミがケイカを見た。


「それは所長に言ってください。期限を切っているのは、私ではありません」

「ケイカ。奴は努力型だ。コツコツ成果を積み上げる事が自信に繋がるタイプだろう。元々野心のあるような人間じゃないのに、必要な事だけを無理矢理詰め込んでどうにかなるとは思えない」


 コウに対する時は厳しいが、一番彼自身の事を案じているのはカオリだ。

 共に暮らし始めて数日でコウの性格を見抜いたカオリは、同じ事を何度もケイカに提言していた。

 それに対する答えも一緒だ。


「何回も言ったでしょう。今からの計画変更は出来ないよ。彼には、何が何でも成長して貰わないといけない。これはね、カオリ。《黒の装殻(シェルベイル)》の総意なんだ」

「何故、そこまで急ぐ?」


 カオリの問いかけに、ケイカは曖昧に笑った。

 意味合いは違うが、コウもケイカと同じように異質。

 それを、カオリもミカミも知らない。


 〝真なる装殻者(オリジナル・ベイルドマン)〟の生まれ変わり、北野コウ。


 彼に掛ける他の《黒の装殻》たちの期待は大きい。

 特にジンなど、彼個人を気に入っている事もあいまって、彼を認めないケイカの異議に一番反発していた上に、今回の提案をした。

 直接見れば、あいつが《黒の装殻》にふさわしい事が分かる、と。


 ケイカたちにも、事情がある。

 彼抜きではなし得ない【黒殻(アンチボディ)】としての大きな計画が。


 ケイカが、もし彼を零号(レイゴウ)に相応しくないと判断すれば―――ケイカらは、彼を殺さなければならない。

 そうした事情が、あるのだ。


「……時間がないんだよ。さ、この話はおしまい。仕事に戻ろう」


 カオリが納得していないのはありありと理解出来たが、彼女は反論せずに退出した。



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