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黒の零号〜最強の装殻者〜  作者: 凡仙狼のpeco
第7話:人格消滅!? 二人の零号の行方
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第35節:お前がいてくれて良かった。

「正戸アイリ」


 駆け寄ってきた《白の装殻(クルセイダー)》の面々は。

 アイリの前に並ぶと、一斉に彼女に向けて十字を切り、そのまま足を揃えて腕を後ろに組む。


「え?」


 面食らうアイリに、ミチナリが代表して告げた。


「我々は、貴女を零式装殻展開を以て〝装殻者〟の使徒として貴下に入ります」

「あ、えーと、……うん」


 狼狽えるアイリに、ミチナリは表情を変える事もなく声を張った。


「我ら、《白の装殻(クルセイダー)》の名の元に!」

『悪に裁きの鉄槌を!』


 完璧な唱和に、アイリは。


 ―――なんか、軍隊みたいなんだけど! マサトー!


 心の中で助けを求めるついでに、自分の中に逃げ込んだ。


「って、おい!」


 代わりに表に押し出されたマサトが思わず突っ込むと。


 ―――皆に別れの挨拶くらいしたほうがいいよ! うん、そーゆー事にしとく!


「そーゆー事にって、お前……」


 それは逃げました、という宣言と同義である。


「……マサキ?」


 様子が変わった事を察したのか、密やかな声で、ルナがマサトに呼び掛けた。 


「ルナ……」


 マサトは、自分の顔が強張るのを理解した。

 潤んだ目でマサトを見る彼女が、自分に対して思慕を抱いているのを、マサトは知っていた。


 しかし、それはただの憧れだと、マサトは自分に言い聞かせ、気付かないふりをしていたのだ。

 何故なら、彼は〝装殻者〟……役目を終えた後は、死ぬ事が定められていたから。


「俺は……お前たちに謝らなきゃならない」


 マサトは目を伏せた。


「真実を告げず、戦いへ巻き込んで。あげくに異界で苦労をかけた」


 誰も、何も言わない。


「俺は忘れていた。全てを。本当に……すまなかった」


 マサトが、深く頭を下げると。

 その頭に、ゴン、と拳骨が降ってきた。


「~~~っ!」


 久しぶりのその痛みに、マサトが頭を抱えながら顔を上げると、拳を握っていたのはミチナリ。


「この馬鹿弟子が。一人で抱え込むなと再三言っただろうが!」


 マサトに異界で格闘術を叩き込んだ師匠の活に、彼は首を竦める。


「ごめん……」

「……まぁ、襲来体に寄生されて利用された俺も、人のことは言えないがな」


 溜息まじりにそういうミチナリに。


「逃げグセは相変わらずでしたね。何か予想外の事があるとすぐに逃げるのは、最後まで変わりませんか」


 ミカミもちくりと文句を言い。


「大体、お前が記憶を失わなきゃここまで苦労する事もなかったんだぞ。このタコめ」


 ケイタが、歯に絹着せぬ罵倒を投げる。


「ほんと、ごめん……」

「アイリとは、逃げずに話した?」


 リリスの問いかけに。


「ああ。……あいつは、俺をきちんと継いでくれるよ。ーーー逃げグセまで継がなくても良かったんだけどな」

「〝装殻者〟は、ヘタレか馬鹿しかいない……嫌いじゃないけど」

「そう言ってくれると助かるよ、リリス」


 リリスはうなずいて、横に目を向けた。

 ルナの表情は固いままだ。


「……これで、最後なの?」

「―――ああ」


 マサトの胸が痛む。


「俺の役目は、もう終わったんだ」

「私は……」


 ルナが、肩を震わせる。


「貴方のために、使徒になったのよ。こんな思いをする為に、貴方を探してた訳じゃないのよ!」

「……本当に、悪かった」


 しかし、マサトにはどうする事も出来ない話だ。

 それこそ、謝る事くらいしか出来ない。


 ルナと共に過ごす時間は、もう、遥か昔に終わってしまった。


「ルナ……アイリを助けてやってくれ。あいつは、俺以上に手がかかる」

「そうでしょうとも。聞いたわよ。貴方が保護者になれるほどの間抜けだって事も、さっき理解したわ」

「なら、頼むよ」


 マサトは淡く微笑んだ。


「俺には、もう、無理だから。ルナに頼む」

「……酷いヤツ」


 それは。

 ルナの気持ちを無視していた事だろうか。

 それとも、そんな気持ちを知りながら、他の女の世話を頼む事に対してか。


 両方かも知れない。


「皆。向こうにアナザーは残っていない。こちらであいつを殺せば、向こうの輪廻も閉じる」


 マサトの言葉に、全員が驚いた。


「分かるんだ、それくらいは。俺は、こんな事になったけど。……皆と過ごせて、幸せだったよ」


 ルナが、堪え切れなくなったように泣き出し、リリスがその頭を抱く。


「それは、嘘じゃない」

「俺はお前に、隠し事が出来るとは思ってなかった」


 ケイタは真剣な目でマサトを見ている。


「任せろよ。頼りになるぜ? 俺たちはよ」


 なぁ、とケイタがミカミを見ると、ミカミは笑顔でうなずいた。


「見ていて下さい、マサキ。私たちは、きちんとやりますよ」

「弟子に迷惑を掛けた償いくらいはする。安心しろ」


 ミチナリは静かに言い。


「妹が一人増える。……可愛い子は好き」

「妹はあんたでしょ!」


 リリスの肩から頭を起こしたルナが、彼女に噛み付いた。

 そのいつもの光景に、マサトは笑う。


 それは転生以来、彼が初めて笑い声を発した瞬間だった。


「面倒くらい、幾らでも見てやるわ! 覚えてなさい、マサキ! 勝手に死んだことを後悔するくらい、皆で幸せになってやるんだから!」


 ルナの言葉に、マサトは笑顔のまま頷いて。


「なら、よろしく」


 そう言って、《白の装殻》の前から消えた。


※※※


「コウ」


 ミツキに呼び掛けられたコウは、内心緊張しながら応えた。


「ミツキ……ごめん」


 コウが謝ると、ミツキはいつもと変わらない笑顔で言った。


「お前、トロいねん。戻ってくんの遅すぎじゃ」

「……そうだね」


 彼は素直にうなずいた。


「本当に、そうだと思うよ」

「……なんかちょっと、感じ変わったなぁ。吹っ切れたんか?」


 片眉を上げたミツキに、コウはうなずく。


「ゴウキさんと話したからね」


 彼女が女性だった事は、あえて伏せる。

 ハジメには知られたくないんだろう、と思ったからだ。


「覚悟と気骨の塊みたいな人、だったから」

「我儘、の間違いじゃないの?」

「そりゃケイカさんが、あの人に良いようにやり込められてたからそう思うんだろ」


 好意的なコウの言葉にケイカが突っかかり、ジンが揶揄する。


「ジンだって似たようなものだったでしょ!?」

「お前らは寄ると触ると喧嘩ばかりだな。少しは落ち着け」


 ケイカの頭に手を乗せて、花立が言う。


「……覚悟は出来たのか?」


 そのまま、言葉は素っ気ないが、コウを気遣う様子の花立に。


「……分かりません」


 コウは素直に答えた。

 実際、よく分からない。


 死ぬ覚悟、などとというものを、一体どうやってすれば良いのか。


「でも、ゴウキさんが守ろうとしたものを……そして、ハジメさんが守ろうとしているものを」


 コウは、あの飛行場の夜以来、ようやく真正面から向き合えた相手の顔を見た。

 黙ってコウを見つめるハジメを。


「一緒に守りたいと、そう思います」


 ハジメは、軽く目を細める。


「それは、本心からか?」

「ええ。だから、謝らないで下さい」

「……」

「死ぬ、というのなら」


 コウは自分の胸に拳を当てる。


「俺は本当なら、あの夜に死んでいた」

「……俺に会わなければ、そうなる事もなかっただろう」

「いいえ。俺は、自分でこの道を選んだんです。そして、貴方の騙る正義の意味を理解して……今、ここに居ます」

「……そうか」


 ハジメは、一度、目を閉じてから。

 多くの人々の想いを背負う、修羅の顔で言った。


「お前を、正式に《黒の装殻(シェルベイル)》の六番目、黒の零号(レイゴウ)として迎える」


 誰も、異論を挟まなかった。

 そしてハジメは、今度はミツキに顔を向ける。


「そして、ミツキをケイカの相棒として」

「はい」


 しっかりとうなずいたミツキに、ハジメは軽く笑みを見せた。

 その後、ちらりと《白の装殻》に目を向け。


「向こうに対抗しようか。我ら、【黒殻(アンチボディ)】を率いる者ーーー」


 彼は、茶目っ気を覗かせた。


「従うものは、己の心」


 即座に応えたのは、ミツキだった。


「律に背き」

「権を拒み!」


 ケイカが生真面目に続き、ジンがノリノリで声を上げる。


「力を以て、望みを通す」


 花立も、不敵に笑いながら。


「〝装殻者〟に継ぐ、修羅の群れ……」


 コウが最後に言って。


『我らの名は―――《黒の装殻(シェルベイル)》』


 全員の唱和に合わせて、コウはゴウキを引きずり出した。


 ―――あ、てめぇ!

 ―――最後に挨拶くらいどうぞ。


「……あの野郎」

「ゴウキさん?」


 ゴウキがイライラと頭を掻くと、その立ち振舞いで、入れ替わった事を察したミツキが呼び掛けた。


「ったく、こっ恥ずかしい事してんじゃねーよ! ガキどもが」


 ゴウキは悪態を吐き捨てたが、その口元は緩んでいた。


「声を出して気合いを入れる事を俺に教えたのは、あなたです、ゴウキさん」


 ハジメが言うと、ゴウキは真面目な顔で彼に向き直った。


「……お前の今の状況は、俺の責任だ」


 短く漏らし、ゴウキは続ける。


「全部、俺のせいにしとけ。お前の前でカッコつけてても、結局俺は半人前だった」

「そんな事は、ないですよ。ゴウキさんは俺に、きちんと人の生き方を示してくれました。……俺は、あなたに憧れたんです。その意志を継ぎたいと思った。その気持ちは、決して嘘ではない」


 ゴウキは、一人前の男としてそこに立つ、かつての相棒の姿を目に焼き付けた。


 仲間に囲まれ。

 過酷な運命を背負いながら、なお幸せそうに笑う本条ハジメを。


 ―――ハジメ。お前はきちんと、自分の居場所を見つけたんだな。


 心の中で、そうつぶやいて。


「期待してるぜ、ハジメちゃん。俺を超えろよ?」

「永劫無理、じゃなかったんですか?」

「男なら、誰かの為に強くならなくちゃいけねぇ。そうだろ?」


 ゴウキの言葉に、ハジメはうなずいた。


「あなたの無茶振りには、これでも慣れてます。ゴウキさん。……俺を振り回した女性は、あなたが初めてです」


 ゴウキは、驚きに目を見開いた。


「……お前」

「一瞬だけなら、時空改変を使えるようになったのは、見たでしょう? 〝装殻者〟と母体に直接働きかける時空改変は、無効化されるんです。迂闊でしたね」

「言うようになったじゃねぇか」


 ゴウキはニヤリと笑い、片手を上げる。


「じゃあな、ハジメ。―――お前が居てくれて、良かった」


 そして、マサト同様、ゴウキも消えた。



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