第10節:得られたもの。
コウがベイルダーの少年の足を直して、後日の事。
研究所の入り口前でコウがミツキと共にそわそわと待っていると、研究所の横にある研修所から緑髪が出て来た。
「タカヤ! どうだった?」
「仕事、貰ったよ。期待してたような感じじゃねーけど」
「そっか……とりあえず、飯食おや」
研究所から出て来た緑髪……タカヤをミツキが誘って、三人はファミレスに向かった。
ファミレスの中はさほど混んでおらず、腕を晒したままのタカヤと共に、コウたちは壁の隅にある席に陣取った。
彼を連れていても、特に目を向けられる事もない。
四国では、ベイルダーに対する差別が少ない。
一度壊滅し、復興の過程で他の土地で迫害されたベイルダーたちが流入して残った人たちと共に再建したかららしい。
今の四国では、街を歩けば道で幾人かのベイルダーとすれ違うくらいに、その数が多いのだ。
「どんな仕事やったん?」
「街の巡回。とりあえず仲間内で組を作って、警備の人らの手伝いをする仕事だってよ。元の給料はかなり安いけど、真面目に危ねー感じの揉め事見つけて報告したら、歩合で給料上がるって」
運ばれてきたチーズハンバーグを頬張りながら、タカヤが言う。
あの後、少年のついでにタカヤたち全員の不調を応急処置ながら治しに行く前に事情を説明すると、ケイカに、今日のあの時間に来るように伝えて、と伝言されたのだ。
どんな仕事なのか気になったコウは、面談が終わるのに合わせてタカヤと待ち合わせをした。
「そういえばカオリさんたち、警備の人員足りないって言ってたね」
「せやな。まぁ、タカヤンたちには向いた仕事ちゃうか? 自由に行動出来るし、話聞いてりゃ街の人らにも顔を覚えて貰えるやろ」
タカヤはミツキの言葉にうなずいた。
「前まで、どこ行っても白い目で見られたからさ……あの日、俺らも四国に着いたばっかだったんだ。だから、しばらく街で過ごして、状況に驚いた」
四国内でも、旧高知と旧香川の辺りは特にベイルダー差別が少ない地域だ。
ケイカたちが説明してくれた事によると、旧香川辺りは【アパッチ】と呼ばれるベイルダー組織が仕切っており、実質【黒殻】の勢力圏である旧高知エリアは積極的にベイルダーたちを受け入れてきた事がその理由らしい。
「きっちり仕事してりゃ警備に取り立ててくれる可能性もあるらしいから、なんとか頑張ってみる。この仕事が嫌だったら、つって他の就職やバイトの紹介状も書いてくれたしな……お前らには悪い事したけど、俺、ラッキーだった」
タカヤは、改まってコウに頭を下げた。
「コウがさ、俺らを全員調整してくれてから体の調子がすげぇ良いんだ。最初は皆で家でも借りて、これからどうするか決めるわ。マジでありがとな」
「そんな大した事したわけじゃ……」
感謝されるほどの事は出来ていない、とコウ自身は思っていた。
彼らが職を手にしたのはケイカのおかげで、コウは装殻の整備はしたが、彼らの装殻化を解除出来たわけでもない。
しかしそんなコウの頭を、ミツキがはたいた。
「素直に受け取らんかい、アホタレ。こいつらにしてみたら、お前のした事は大した事やねん。自分に絡んできたヤツをタダで整備したる調整士なんて、お前以外おらんわ」
「そう聞くと、マジでお人好しだよな、コウって」
苦笑するタカヤに、コウは同じ顔で笑い返した。
「休みだったら、連絡くれれば軽い調整くらいならいつでもやるよ。痛みや麻痺が出たら、また言ってよ」
三人は連れ立ってファミレスを出た。
「コウは、もう少し自分に自信持てよ!」
タカヤはそう言って、手を振りながら去っていった。




