彼の知らぬ間に起きた出来事 二 戦いは続く
何がどうなったのかは分からないけど、あの人が敵に攫われてしまったのだという事だけは分かった……。
◇
ミツキを傷付けた忌まわしい竜。
その竜の一撃を受け吹き飛ばされた私は、幾つもの樹木をへし折りようやく停止した。
即座に体が上げる悲鳴を無視して走りました。
私が最後に見たあれ、あれが幻覚で無ければ、私達がやられた直後飛び込んで来たのはミツキの筈。
もしそれが本当なら私は急がなければならない。
ミツキは今、魔力の流れが異常に乱れている。
幸いな事に一番大きな流れは無事だったけど、小さい流れはぐちゃぐちゃに乱れていた。
そんな、体を常に切り刻まれている様な状態で魔力を動かせば、たちまち乱れが悪化して今度こそ取り返しのつかない事態になってしまう。
◇
急ぎに急ぎ辿り着いた時、全てが終わった後でした……。
氷漬けにされた大樹の賢者。
遠い山へ飛び去る氷の竜。
そして、その竜が鷲掴みにしているボロボロの彼。
◇
ふと、目を覚ますと、私は娘達に囲まれていました。
場所は何時もの家の中。
時刻は早朝。どうやら私を治療していた様です。
追いかけようと魔力を込めた所までは覚えているのですが……その先が思い出せません。
娘達に話を聞くと、私はあの後気を失って倒れてしまったのだとか。
自分の魔力の流れを確かめてみると、ミツキ程では無いですが、多少の乱れがあります。
ですが、これぐらいならどうとでもなる範疇です。
話は続き、山の竜達が森を破壊しに来る事、他の皆はそれに備えている事を教えてくれました。
私はすぐにでもミツキを助けに行きたかったのですが……どうやらその時間はない様です。
強い気配が二つ、近付いて来ている。
◇
地上に出て、空を見上げると、遠くに二体の竜がいるのが分かりました。
一匹は炎を吐いて森を燃やしながら迫る赤い竜。
もう一匹は茶色の年老いた竜。
娘達に火を消してくれる用に頼みます。
あの子は生きていましたが、あの子の命を奪い掛けたのは炎。
娘達を本体に近付ける訳には行きません。
赤い竜は私に気付いた様子で私の方へと向かって来ます。
私は魔力を足に込め飛び上がると、赤い竜へ渾身の力を込めて殴りつけました。
『ぐぇ!? ちょ!? こんなのがいるなんて聞いてないっすよ!』
本調子では無いせいか、その鱗や甲殻を砕く事こそ出来ましたが、撃ち落とす事は出来ませんでした。
茶色い竜が来る前に赤い竜を倒してしまいたいですが、そううまくはいかないでしょう、少しでもダメージを蓄積させる事を目的に攻撃を重ねます。
『がっ、ぐっ、この! 調子にのるなっす!』
赤い竜へ攻撃を続けていると、大きく暴れる事で私を振り落そうとして来ました。
蔦を巻き付けて抵抗しましたがーー
「ーーきゃ!」
何処かから飛んで来た石塊に弾き飛ばされてしまいました。
蔦に吊り下げられる形となった私に二回三回と石塊が飛んで来て、私はそれを砕き払います。
『助かったっすよ!』
『まだ油断するで無い』
厄介ですが、やらねばなりません。
ミツキを取り戻す為に、誰も失わない為に。




