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悪魔と天使 1

 私はここに、悪魔の存在を仮定する。当たり前ではあるが、悪魔と聞いて良い印象を抱く人はいないだろう。彼らは不吉の象徴である。彼らは時に罪もない人に憑りつき、その人を絶望の淵に貶める。

 とはいったが、悪魔もピンキリである。中にはどういうわけか、現世にある日本という国の、伝統的なスポーツである相撲というものに関心を持ち、現世のその国においてその競技の解説員を務めるまでになった悪魔もいる。とある人間にわけのわからぬノートを与え、それと引き換えにリンゴを貰って、ムシャムシャ食っている・・・ああ、あいつは死神だった。まあ、悪魔も死神も同じようなものである。

 こんな感じで、自分の役割に誇りをもって行動する悪魔もいれば、今言ったようにふとしたきっかけでもって、現世に順応した悪魔もいるわけである。しかし、己の不器用さ故、自らの立場に思い悩み、苦しむ悪魔もいるかもしれない。人間と同じように。


 12月24日、午後7時、渋谷のハチ公前に悪魔が現れる。と言っても、何か悪さをするためにやってきたわけではない。彼は人間と同じ様相をしている。ジーンズを履き、ジャンパーを羽織り、頭に黒いフードを被っている。俗にいう「世を忍ぶ仮の姿」というやつだ。

 悪魔は誰かを待っているようだ。彼は待つ以外に特にやることもないようで、スクランブル交差点を歩く無数の人間たちを、何気なく眺めている。ふとこの悪魔は、道行く人々の中に、男女のカップルが普段より異様に多いことに気がつく。一体どういうことなのだろう。悪魔は、現世にとってこの日が特別な日だということを忘れていた。

「お待たせー」

 駅の改札の方から悪魔に向かって、一人の女が歩いてくる。悪魔は人間の女性の服装にはあまり詳しくなかったが、少なくともその女が、今時の女子大生らしい格好をしているということはわかった。そして悪魔と色違いの、白いフードを被っていた。

 その女も人間ではない。驚く人もいるかもしれないが、彼女は天使である。

 

 ご存じの通り、天使と悪魔は正反対の存在である。天使の世界と悪魔の世界は、ハンバーガーのように、現世を間に挟むようにして成り立っている。ただ、この3つの世界のバランスを保つために、天使と悪魔の間にはそれなりの交流がなされている。つまり、現世の幸福や不幸というものに偏りができないように、両者の間である程度の話し合いが持たれているのである。そしてそんな過程の中で、個人的に懇意になる天使と悪魔も少なくなかった。そしてそのような付き合いも、よほど機密情報を流すとか、まずいことをしなければ、特に罰せられはしなかった。しかし勿論、悪魔は天使の世界には行けないし、天使も悪魔の世界に行くことはできない。よって会うとなると、ハチ公前で待ち合わせた彼らのように現世で、ということになった。


「たいして待ってねえよ。にしてもなんでよりによって女に化けてくるんだよ」悪魔は言う。天使にも悪魔にも、性別というものはない。だから現世では、男女どちらの姿になっても問題なかった。

「なんでって、今日は特別な日じゃない。この世界にとってだけど」天使は言う。

「知らねえな」

「えーっ、知らないの?あなたってホント世間に疎いのね。今日はクリスマスイブよ。イエス・キリストの生まれる前の日」

「そんなのあったな。それじゃあ、おたくのところも関係あるんじゃねえの」

「まあなくはないけど。別に現世みたいに盛大に祝ったりしないわよ」

「ふーん。そいで、そんな素晴らしい日と、街に男女の組み合わせが多いのには、何か関係があるのかよ?」

「よく知らないけど、なんかいつの間にか男と女がイチャイチャする日になっちゃったみたい。で、それにあやかろうってわけ」

「わけわかんねえな。お前もそんなんに便乗してんじゃねよ」

「私はあなたがクリスマスを知らなかったことに吃驚よ。私が何にも考えてないと思ったら大間違いだわ。あなたが男に化けるって想定して、対して私が女になった方が、周りの人間から見て違和感ないでしょ。こんな日にこんな場所で男二人なんて気持ち悪いじゃない」

「クリスマスぐらい知ってらあ。今日がその日だって忘れてただけだよ」

「だから今日はその前の日だって。クリスマスイブ」

「そんな細かいことどうでもいいだろ。ほら、こんなところで立ち話もアレだしさ、そろそろ行こうぜ」

「そう言えば、今日はどこに行くの?」

「どこ行くって、これから空いてる店探すんだよ」

「ああ、そう・・・」天使はため息をつく。

 この悪魔が人間だったら、まあダメな男だろうと、天使は思う。でもこれまでの付き合いから、天使はこの悪魔が見た目よりもいい奴だ、ということを良く知っている。少なくとも悪魔の中では、それなりにまともな部類に入る。もっとずっとたちの悪い悪魔なんて、いくらでもいるのだ。


 天使と悪魔は、スクランブル交差点の人混みに紛れていく。その姿は、傍から見ても、ごくありきたりな、イブの夜を(少し揉めながらも)楽しむカップルにしか思えない。そして「二人」はいつの間にか、人間たちの作り出すうねりに巻き込まれ、その中に溶け込んでしまう。


 これから個人的に忙しい時期になるので、どこまでできるかわかりませんが、なるべくクリスマスまでに書き上げることを目標に書いていきます。

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