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緑のマフラー  作者:
3/3

緑のマフラー(下)

「おばあちゃーん」

「おや……また来たのかい?」


 9月の少し寒くなって来た頃。

 縁側で太陽に当たりながらゆっくりしていると、私を呼ぶ元気な声が聞こえた。


「また遊びに来たの!」

「そうかそうか」


 近所の女の子。

 孫がいない私にとっては、本物の孫のような子。


「あ、おばあちゃん。マフラーしてる!」

「もう……寒いからねぇ」


 マフラーに手をかけながら、ゆっくりと話す。


「綺麗な緑……あっ!おばあちゃんの名前と同じだね!」

「そうだよ……私達(・・)と同じ緑色なんだよ」

「私達?」


 私は笑いながら、ゆっくりと女の子の頭を撫でる。


「そう……私達」

「うーん?」


 庭の木を見ると、所々葉が落ちてるが綺麗な葉を付けていた。


「ちょうど……このぐらいの時期だったのかなぁ」

「おばあちゃんの好きな人?」

「おや、良く分かったねぇ」

「私にも好きな人がいるんだよ!」

「おやおや、そうなのかい?」


 女の子の顔は、その好きな男の子の事を思い出しているのか、寒さ以外の理由で赤くなっていた。


「どんな所が好きなんだい?」

「あのね!優しくて、面白くて!それでね!」

「そうかそうか」


 私にも、こんな時期があったなぁ……。


「あ、でもね!」

「うん?どうしたんだい?」


 女の子の顔は今度は少し、不機嫌になった。


「私に、たまに『太った?』とか聞いてくるの!酷いよね!」


 あぁ、私も言われたなぁ……そんな事。



(みどり)、少し太ったか?』

『口に出すな!』

『お、おい。叩くなよ』

『翠が悪い』

『たかが、体重じゃねーかよ』

『女の子にとっては、大事なの!』


 私は必死に昔を思い出しながら、女の子に同意する。


「……あぁ、そうだね。本当……女の子に体重の事を言うなんて……酷いねぇ……」

「おばあちゃん?……泣いてるの?」


 女の子に言われ、目元に手を持って行くと確かに濡れていた。


「大丈夫?おばあちゃん」

「あぁ……ちょっと、目にゴミが入ってしまっただけだよ」

「本当?」

「本当だよ」


 女の子を安心させるために、また頭を撫でる。

 それと同時に、午後5時を知らせる音楽が流れ始めた。


「あ、私、もう帰らないと!」

「そうかい?」

「うん!また明日来るね!」

「じゃあ、明日はお菓子を用意しとかなきゃねぇ」

「やった!お菓子だ!」


 笑顔でこちらに手を振る女の子に手を振り返しながら、私は女の子が見えなくなるまで見送った。




『はい、翠です。只今電話に出る事が出来ません……』


 私はゆっくりと携帯を置く。


「……翠」


 唯一、翠の声を聞ける物。

 それが、この携帯の翠の留守番メッセージ。


「もう……私もおばあちゃんだよ……」


 翠の写っている写真は、もうない。

 正確には翠だけがいない。


「ここに……翠がいたんだよね」


 壁に貼ってある写真。

 優しくその写真に触れる。私の隣にあるスペースに。


「ごめんね……私も……翠の彼女の私も、もう翠の顔を思い出せないの」


 年を取り、記憶力が低下して行く度に私の中で翠の顔が薄れていった。

 それと同時に、写真の中の翠も消えていった。


「とんな……顔だったのかな……」


 周りの人の中には、完全に翠の存在はない。もちろん……翠の家族も例外じゃない。

 それでも……その中でも、私が覚えているのは、この携帯の中で聞く翠の声と……そして、この緑のマフラー(・・・・・)


「あ……また、ほつれて来ちゃった。直さないと」


 翠がいなくなった日に渡し損ねたこのマフラー。

 このマフラーのおかけで、翠を覚えていられる。


「皮肉よね……渡し損ねたおかけで、覚えてられるなんて」


 それでも、翠を覚えていられるなら構わない。

 私はあの日より上達した編み物の腕で、早々(はやばや)にほつれを直し、また縁側へと向かった。


「もう……外が暗くなるのが早いなぁ……」


 空は黒の部分が多く、沈みかけている太陽の方が少しオレンジ色をしていた。


「綺麗な夕日……ねぇ、そう思わない?翠」


 私は夕日が沈むまで1人、縁側でその綺麗な空を見続けていた──。


3話を一気に投稿させていただきました。


感想、批評などお待ちしております。

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