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緑のマフラー  作者:
2/3

緑のマフラー(中)

「みどりー!おきなさーい!」

「うぅ……はーい」


 寒い時期は、どうも布団から出るのが億劫だなぁ……。


「はぁ……今日も寒いな」


 家の中でこんなに寒いんじゃ、外はもっと寒いんだろうな……窓の外を見ようと、首を動かす。


「って、あれ?」


 視線の先には私の机。

 その上には何故かマフラーが。


「お母さんが買ってくれたのかな?って、何でこの色なの……」


 私は机に置いてあった緑のマフラー(・・・・・)を手に取る。


「私の名前と同じ緑って……まぁ、好きな色だけどさ」


 理由は分からないけど、私は緑が好きだ。

 まぁ、1番身近な色だからかな。自分の名前だし。


「うん?……なに、この写真」


 壁に画鋲(がびょう)でとめられている写真に自然と目が行った。

 そこには、家族写真や友達との写真。その中に一つ、私1人だけが写った写真があった。


「何で私だけ?しかも、このスペース的に1人いる感じ……怖いんだけど」


 1人でピースをする私。

 その隣は何も無い。でも……まるで、そこに誰かがいるようなスペース。


「怖いから、捨てちゃおうかな……」


 私はその気味の悪い写真に手をかけた。



『おい、緑。撮るぞ』

『早く早く』

『はい、チーズ』


「え……何、今の」


 写真に手をかけた瞬間、脳裏によぎったこの記憶……私は写真に視線を戻す。


「え……」


 今まで誰もいないと思っていた、写真のスペースには人の姿が。


「これ(あきら)?え……翠ってだ……れ?」


 頭痛がして来た。

 でも、何故だろう……ここで痛みに負けて思考を止めたら後悔する気がする。


「うっ……翠……翠」


 口に出た『翠』と言う名前を連呼する。

 私は頭を抱えながら、机に目を向ける。そこには、緑のマフラー。


「緑の……マフラー」


『翠、今日、誕生日だよね!』

『うん?誕生日……あぁ、そうだった。完全に忘れてた』

『コレ……私が編んだんだよ』

『お、凄いな。それに、俺達の色の緑か』

『うん!私達の色の緑!』


「私達の色……」


 覚えてる……翠の事、マフラーの事。


「私……今、忘れてた?」


 私の彼氏の翠。

 そして……2週間前に姿を消した。


「うそ……何で……何で私、翠の事を忘れて……」


 涙が溢れてきた。

 私は何故、今翠の事を忘れていたのだろう。大事な人の事を……。


「みどりー、いい加減におきなさーい……って、緑!?どうしたの!」

「お母さん……」


 私を起こしに来てくれたお母さんが、私の顔を見て驚いていた。


「お母さん!お母さん!」

「どうしたの、緑?」


 私はお母さんに抱き着きながら、理由を言う。


「私……私。翠の事を忘れてたの……何でかな」


 涙が止まらないなか、私は必死にお母さんに伝えた。

 そして、お母さんから返って来た言葉は。


「ねぇ……緑。……その、翠って誰?」

「えっ……」


 翠は何度も家に来たことがある。

 お母さんも何度も話した事があるのに……何で……。


「緑?」

「何で……」


 私はお母さんを部屋から追い出し、制服に着替え、朝食を取らずに学校へと向かった。





「あ、緑。今日は早いのね」

「ね、ねぇ!」

「な、何よ」


 私は教室に入るなり、学校でも特に仲の良い友達に詰め寄る。


「あのさ」

「う、うん」


 もし……もし、この子も翠の事を覚えて無かったら……いや、あり得ない。

 この子とだって、翠は仲良く話してた。


「私の彼氏の……翠なんだけど」

「うん?」


 この反応……何を言ってるの?とでも言うかの様な反応。

 私は言葉を続ける。


「知ってるよね……翠の事」

「そんな事より、緑……彼氏いたんだ」


 私はもう、涙を堪える事が出来なかった。




 HR(ホームルーム)が終わり、私は最後の希望にすがった。


「あの……先生」

「お、大丈夫か?朝から泣いてたって聞いたぞ」

「大丈夫です……それより……」

「うん?」


 私は翠が座っていた席を指差しながら先生に聞く。


「あの席、空いてますけど欠席取らないんですか?」


 先生は私の指の先の席を見て、首を傾げる。


「本当だな……いや、でも、先生が見た限りだと全員いたと思ったんだけどな。疲れてるのかな……っと、欠席欠席っと」


 先生は名簿を開きながら、私に尋ねる。


「で、誰がいないんだ」

「翠です」

「翠?」


 私は横から名簿を取り、翠の名前に指をさそう……として、固まった。

 翠の名前が無くなっていた。


「で、どいつが休みなんだ?」


 私は先生の言葉など、既に耳に入っていなかった。


「何で……何でよ……」


 私は家から持って来ていた、緑のマフラーを片手に教室から飛び出した──。

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