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緑のマフラー  作者:
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緑のマフラー(上)

あなたは、大切な人を待てますか?

「ふぅ……今日は絶対に渡さなきゃ」


 誰もいなくなった教室で、1人そう呟く。

 スクールバックの中には緑色のマフラー。

 大好きな彼の為に1ヶ月間、慣れない手つきで友達に教えてもらいながら編んだ世界でただ一つのマフラー。


「おーい、みどりー、かえろうぜー」


 廊下から、彼の声が聞こえる。


(あきら)!大声で名前呼ばないでよ!恥ずかしい!」

「あー、すまん」


 廊下に出て、大声で喚いていた翠に文句を言う。


「そんな事より、早く帰ろうぜ。寒い」

「そ、そんな事って!……あーのーね!」

「怒るとシワが増えるぞ」

「余計なお世話よ!」


 私は翠を追い掛け、静かな廊下を走った。翠も私から逃げる。

 2人で楽しく……高校生生活最後の年。





「……ちょ、ちょっと待って!」


 閑静(かんせい)な住宅街。

 私は前を走っていた翠に声をかける。


「はぁ……はぁ……」

「部活を引退して、なまったんじゃないのか?」

「翠の……体力が……おかしいの!」


 肩で息をしながら、翠の腕を掴む。

 翠の言うとおり、部活を引退してから体力も落ちたとは思うけど、それ以前に翠の体力が無尽蔵過ぎるのだ。


「ったく、しょーがねーな」

「え?」


 翠は私に背を向けながら、腰を下ろした。


「ほら、早く」

「え?何が?」

「何がじゃねーよ。おんぶしてやるって言ってるんだよ」

「い、いやいや!」


 お、おんぶって!

 もう18になる私には、なかなかハードルが高いんですけど……。


「嫌か?」

「嫌とかじゃないけど……」


 部活を引退して、少し太ったし……学校からここまで走って来て汗も少しかいたし……。


「お姫様抱っこの方がいいか?」

「絶対にやだ!」

「なら、ほら。早く」

「うっ……うぅぅぅ」


 私は諦め、翠の背中に身を委ねた。


「恥ずかしい……」

(みどり)、少し太ったか?」

「口に出すな!」


 私は無防備になっている、翠の頭を叩く。


「お、おい。叩くなよ」

「翠が悪い」

「たかが、体重じゃねーかよ」

「女の子にとっては、大事なの!」


 やっぱり、ダイエットとかした方がいいのかな……。


「別に気にすんな」

「うん?」

「緑は緑だよ。体重ぐらいじゃ、俺の気持ちは変わらないって」

「な、なっ!?」


 顔が赤くなってるのが自分でよく分かる。

 翠の言葉は嬉しいけど……それ以上に恥ずかし過ぎるよ……。


「ばーか」

「馬鹿なのはお互いさまだよ」


 私は翠の背中に顔をうずめながら、ゆっくりと目を閉じた。





「──どり。おい、起きろよ緑」

「……う、ん」


 目を開けると、そこには翠の顔が……って!


「って、おい!背中で暴れるなよ」


 あぁ、そうだった。

 翠におんぶされて……それで……私、寝てたのか。


「途中から静かになったと思ったら……」

「ご、ごめん。つい、翠の背中が心地良くって」


 あの、一定に揺れる感じがどうも心地良かった。


「はぁ……家、着いたぞ」


 顔を上げると、私の家が。


「っしょっと。流石に疲れたな」

「痩せればいいんでしょ!」


 何かにつけて、私をからかうのは辞めて欲しいものだ。


「さてと。俺も帰るわ」

「うん……じゃあね」

「おう、明日な」

「ばいばい」


 私は翠に手を振りながら、翠の背中をみおく……って!


「翠!ストップ!」

「うぉ!きゅ、急になんだよ!?大声出すなよ」


 私は翠に駆け寄り、バックの中を漁る。


「翠、今日、誕生日だよね!」

「うん?誕生日……あぁ、そうだった。完全に忘れてた」


 私はお目当ての物をバックから取り出す。


「コレ……私が編んだんだよ」


 翠に緑色のマフラーを渡す。


「お、凄いな。それに、俺達の色の緑か」

「うん!私達の色の緑!」


 私の名前は緑。そして、翠。

 二つとも『緑』を表す言葉。だから、私達の色。


「ありがとな、緑」

「どう致しまして」


 そして、また気付く。


「あ……あぁぁあ!」

「だから、大声を出すなって!」


 だって……だって。


「ほつれてる……」

「うん?あぁ……このぐらい、大丈夫だろ」

「ちょっと貸して!直してくるから!」


 翠からマフラーを奪い、家の中へと向かう。


「はぁ……終わったら持って来いよ。家の前で待ってるから」


 翠の声を聞きながら、玄関で大急ぎでマフラーを直した。


 10分。

 自分の中では頑張った方だとおもう。

 慣れない手つきでほつれを直して……まぁ、10分もこの寒い中待たせていた翠には悪いけど。


「ごめん、翠!今、終わった……よ」


 外に出てみると、翠の姿が無い。

 もしかして、帰った?飲み物を買いに行った?


「うーん……電話してみるか」


 携帯を開き、電話帳の大事な人のフォルダで翠の名前を探す。


「……」


 耳元で電話のコール音を聞きながら、翠が出るのを待つ。


「……あれ?出ないな」


 コール音が今だに鳴っている携帯を耳から離す。

 耳元近くで鳴っていた音が無くなると、家の前から同じようなコール音が聞こえて来た。


「って……これ、翠のバック……」


 家の前に行くと、そこには翠のバックだけがあった。もちろん、携帯はバックの中。


「翠……どこに行ったんだろう」


 私は翠のバックと緑のマフラーを抱え、家の前で翠が戻って来るのを待ち続けた。

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