第十八話 @ 勇者2
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「大丈夫だったか?」
リザードマンにとどめを刺して一仕事終えた勇者は、俺に振り向いて話しかけてくれた。
「今、俺の仲間も応援に来ている。そうもしないうちに、この村は助かるだろう。良かったな、君」
勇者は俺の肩に手を置く。
「君は助かったんだ。もう少しの辛抱だよ。……ん?」
遠くから、走ってくる女性の姿がある。
見覚えのある姿だった。
「君の母さんじゃないか?」
俺は顔を上げる。
そこにいたのは、まぎれもなく俺の母だった。
元勇者の母だ。きっとこの騒ぎを聞きつけて飛んで来たんだろう。隣町だし。
「マオ!」
母さんは俺を抱きしめた。
「ねえ、大丈夫だった!?マオ!マオ!」
肩を揺さぶる。
勇者のおじさんが「はは、泣かせるねえ」なんて涙をぬぐう。
母さんは勇者に礼を言って、また俺に向き直る。
「大丈夫だった!?」
母さんが覗き込む。
「何もされなかった?ケガはない?ああ、怖かったでしょう!?」
怖かった?
その瞬間、能吏に先ほどの事が蘇った。
あの時掴まれた手の感触。臭い息。氷のような目。
「もう大丈夫。心配ないから」
母さんは俺に言い聞かせるように言った。
でも、俺は何も言わなかった。
……いや、言えなかったんだ。
「良かったわね。ねえマオ?……マオ?」
俺は俯いて、何も言わなかった。
俺は――――――。
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「思い出した」
俺は衝撃波を解き放った。
衝撃で、ベイルが吹き飛ぶのが見えた。
「違うわやっぱ」
他の勇者も俺に対して飛びかかって来た。
俺は別の魔法を詠唱して、一斉に勇者たちを薙ぎ払う。
「ようやく分かった気がする」
あの雨の中、あいつが言った意味。
――――――お前は本当に人なのか?
「あの時。助かった時。
俺の気持ちを支配していたのは、助かった安堵感でもない。勇者への憧れでもない。
――――――悔しかったんだ。ただ」
粉々になった岩盤。
一日中魔法を詠唱し続けた日々。
魔王に対して命乞いではなく、魔法の教授をせがむ自分自身。
「屈辱だったんだ。あんな奴らに負けたのが。他人の力を借りなければ生きられなかった自分の力が。
―――――全てが俺にとって屈辱だった」
もしあの時勇者が来なかったら?……俺は負けていた。そう思うだけで悔しくてならなかった。
自分の命を他人に握られる感覚。冗談じゃない。
だから必死に修行した。
多分、世界のためとか、平和のためとか、人類のためとか、そんなんじゃない。
――――――ただ、悔しかったんだ。
「そうか……。分かったよ、ようやく。自分が……」
切りかかるヒロに、炎を纏わせた衝撃波を放ち、吹き飛ばす。
遠くで呪文を詠唱するディアに、氷の魔法を放ち、呪文の詠唱を防ぐ。
平和を守る勇者たちを次々と薙ぎ払う状況を見て思った。
……そうか。俺には無理だったのか。
自嘲気味に笑う。
立派な勇者になる。
仲間を作って、世界のために戦う。
誰かのためになりたかった。何かのために戦いたかった。
でも、現実は違ったみたいだ。
回復の魔法さえ使えなくなった俺には、破壊しか出来ない。
でも俺に今剣を向けているこの勇者たちは、いずれ世界にとって必要になるんだろう。少なくとも破壊しか出来ない俺よりは、きっと。
世界を救う勇者と、破壊しかしらない魔王。
この世にどちらが必要かなんて、分かっている。
――――――もしも俺が本当に世界平和を願うんなら、大人しく切られるはずじゃないか?
でも現実、勇者が切りかかってきたら俺は魔法で全力で抵抗してしまっている。
……俺は世界よりも自分を選ぶって事か。
ちぇ。俺は勇者じゃなかったのか。
指先ひとつで、掛かって来る勇者を吹き飛ばす。
途中、ふと思った。あれ?こいつら、この前、校庭で鬼ごっこしてはしゃいでいた奴じゃなかったっけ。他の奴らもそうだ。普段仲間と毎日楽しそうにしてる奴ら。例えそれが下らない事でも。
でも、俺が触れれば、彼らはタッチどころか、こうも簡単にふきとんじまう。
――――――一体、俺と彼らとは何が違ったんだろう?どこで違ったのだろう?
っていかん。どうでもいいことを考えてしまった。今は戦闘中だ。
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『ディアはポイズンアローを放った!』
『マオは毒に侵された!』
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「やった!」
ディアが叫ぶ。
「奴を毒状態にした!これで放っておいてもあいつのHPは削られる!俺たちの勝ちだ!」
ディアが喜び、他の勇者たちも勇ましく叫んだ。
勝利を確信してか、他の勇者たちの士気があがり、全員で攻めを仕掛かけて来た。
――――ちえ。俺も鬼ごっこくらいなら、やってみたかったな。
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『ディアはフローズンショットを放った!』
『マオは闇の力でかき消した!』
『ベイルの攻撃!』
『マオは身をかわした!』
『マオの攻撃!』
『ミス!ヒロには当たらない!』
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「もらっ……!」
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『グランドワームはヒロに飛びかかった!』
『ヒロに207のダメージ!』
『ヒロは死んでしまった!』
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