第十一話 @平和っぽい一時
「ごしゅじんさまー!」
「あっはは、どうした、ミリア」
「がっこうですよ!がっこう!みりあ、がっこうに行けるんです!」
自分の胸に飛び込んできたミリアを受け止め、マオはミリアの頭を撫でた。
「よかったなー、ミリア」
「はいっ!ごしゅじんさま!ありがとうございますー」
わしわし、わしわしとミリアを撫でる俺の横で、レアは一人冷めた視線を送っていた。
「ミリアの入学が決まってよかったですね。ロリコン様」
「『ご主人様』みたいなニュアンスで言うなよ!……まあ、でもよかったよ。ホント」
自分の胸に抱き付いているミリアは、こちらを無垢な視線で見つめている。
「えへへ、ごしゅじんさまー」
「よーしよしよし」
「……ええ。よかったですよね」
ちなみにこのドラゴンの子には、俺の事を「ご主人様」と呼ばせることにした。というのも、レアが俺の事をそう呼ぶ以上、ミリアにもそう呼ばせた方がいいと思ったからだ。
一方のレアは相変わらず憮然とした態度でこちらを見ている。何か冷たい視線のような気がするけど、まあいいや。
「それにしても、これで卒業することが出来ますね。マオ様」
「おお、そうか!そういえば」
「そういえば、って、全く自覚が無かったのですか?」
「あ、いや、まあな」
「まあいいです」
レアが呆れたように言う。
まあ、何にしてもこれでメンバーが揃ったわけだ。
よって、俺のパーティは……。
マオ (魔王) lv.216 HP11999709
レア (ネクロマンサー) lv.42 HP1800
ミリア (ドラゴン) lv.1 HP898
「……なんか魔王の一軍みたい」
「というか、魔王ですからね」
「あ、なんですかー?これ、もじ?」
『ビジュアル』の魔法で空中に浮かんだウィンドウを、ミリアは不思議そうに見ている。
「っていうか、ミリアHP898もあるんだな」
「ええ。ドラゴンのポテンシャルがここまであるとは思いませんでした」
「普段見る事ないもんなー……」
「ええ、貴重な戦力ですね」
「……でもいいのか?」
「何がです?」
「彼女を連れて行ってさ」
ウィンドウを触ってみようと試み始めたミリアを尻目に、俺達は話し始めた。
「いや……なんていうか、俺は、こんなんだしさ。もし勇者学園にいたらもっと別の道もあるんじゃないかな、って思ったり」
「……それは本心から言っていますか?」
「……いや」
ふと考えてみた。彼女を他の奴に預ける?冗談じゃない。
「だが、せっかく学校にはいれたんだし、もうちょっと楽しんでもいいんじゃないか、って。それから選んでも遅くは無いんじゃないかって、少し考えてみただけさ」
「……そうですか」
レアは少しあきれた感じで言った。
「お前も、別にいいんだぞ?」
「この話、何度目ですか?」
「……それもそうだな」
俺はパチン、と指を鳴らすと、『ビジュアル』の魔法で浮かんでいたウィンドウが消えた。ミリアは驚いた目で中空を見ている。
「ま、何にしてもこれで卒業出来るわけだな!」
俺は背筋を伸ばしながら言った。
「いえ、まだですよ?」
「え?」
レアからの一言に、俺は振り返る。
レアは顔色一つ変えずに言った。
「『校内武闘大会』。まさか、忘れた訳ではないですよね?」
「あ」
「あ、って……。忘れていたのですか?」
「い、いや」
忘れていた訳ではないんだけど。
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『校内武闘大会』
学園の生徒全員がでトーナメント式にぶつかっていて、純粋に個人の戦闘力が一番強いのは誰かを決める大会だ。
まあ、純粋に個人の戦闘力を計る目的もあるが、全校生徒総出のイベントだけに校内中が盛り上がるお祭り的な要素もある。
スタートから決勝戦まで三か月を掛けて行われ、優勝者にはこの勇者学園で一年に一個のみ創られる名誉ある『勇者の兜』(と賞金)が贈られるイベントだ。
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「生徒は卒業までに最低三回は勝たないといけないんですよね」
「……そういえばそうなんだっけ」
「ご主人様は今まで何回勝ち上がりましたか?」
「……二回」
ミリアがきょとん、とした顔でこっちを見ている。
何を深刻な話をしているんだろう?ごしゅじんさま、って感じの目だ。
「正気ですか?」
「ああ、……もちろんやらなきゃ、だよな」
とはいっても、人前で戦うのってどうしても納得しかねてだな。
戦いって見世物ではない気がするし……っていうか、俺が戦うと凄惨な結果になったりするし。
まあどちらにしてもむやみやたらと人に対して、それも同じ勇者に対して向ける力ではない気がしているから、今までさっさと棄権していた訳だが。
だが最終学年である今年、さすがに勝たなきゃいけないから今のところ三回戦まで勝ち上がっていたわけだ。まあ全校生徒が多いから試合の間隔があいているけどな。
「試合は確か明日あったはず。まさか本当に忘れていたのですか?」
「いや、そういうわけじゃなくてだな……もちろん出るのは分かっているけどさ。一旦仲間が来た喜びをだな」
「……そうですか。安心しました」
レアがほっと一息つく。
「……ご主人様は、優しすぎますからね」
「え?」
「なんでもありません。……試合は明日でしたね。勝ってください。絶対に」
「あ、ああ」
そう言ってレアは、部室の扉に向かう。
「……あまり私のいない所でいちゃつかないでくださいね」
「え?ああ、うん」
「それでは」
ガラリ、という音を残して、レアは扉を閉めた。




