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むしろ周り全員勇者で俺だけ魔王な件。  作者: ナル
第一章 勇者学園
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第十話 @ 勇者学園の教頭室

 勇者学園の教頭室。


 この学校の創設メンバーであり、かつて世界を『第三の崩壊(ザ・サード・ディケイド)』から救い、新たな世界を構築した勇者の一人、『レイオス』が使用する部屋である。

 校長室は伝説のパーティのリーダー、『アルス』用に存在しているが、実質学校の運営を行っているのは副リーダーのレイオスだったりする。

 そして今、俺の目の前にいるのがそのレイオス……いやレイオスさんである。60近い初老の男で、細身の体に白髪と髭を蓄えた一見どこかの執事みたいな男だ。

 彼は教頭用の椅子に腰かけ、直立不動の俺と状況をいまいちよく分かっていないフレアドラゴンの子供・ミリアを優しい眼差しで見つめている。


「いいだろう」

「え?」


 俺から一通り説明を聞いたレイオスさんは、簡単にそう言った。


「では、ミリア君は一年生に編入という事にしよう。職種はドラゴンでいいかな」


 レイオスさんは横にいる秘書の女性をチラリと見ると、女性もすぐに頭を下げる。


「ええ、承知しました。では手配しておきます」


 そう言って、女性は何やらメモを取る。

 決まったのだろうか?

 あまりにあっさりしているので、俺は一人呆気にとられてしまう。


「あ、ありがとうございます」

「なに、特に問題は無いだろう。過去にも勇者になりたくて、魔物が入学した例もあるからね」

「そ、そうなんですか?」

「ああ。一人は今サルトニア大陸で地域調査の先遣隊に加わっているかな。魔物は元々身体的なポテンシャルが高いからね、適応すれば戦力になる。もちろん闇に飲まれ、生徒によって討伐されてしまった子もいるが」

「…………」

「だが、大丈夫だろう。ドラゴンは強大な力を持つが、純粋な生き物だ。この勇者学園にいれば、彼女が闇に飲まれる前に対処できるだろう」

「はっ、はいっ!」


 俺は嬉しくて、思わず大きな返事をした。

 良かった……何事もなく入学が決まって。

 俺はミリアの方を見た。ミリアは事情が分かっていないものの、俺と目が合うと、二コリを笑みを見せた。


「それに……」


 教頭は続けて言葉を紡いだ。


「変な処分を下したら、少し面倒な事になりそうだからね」

「え?」


 俺はレイオスさんの方を振り返る。


「もし私がその子の入学を拒否していたら……君は私と戦うつもりだったろう?」


 しん、と空気が静まりかえった。

 レイオスさんの目の光芒が、厳しくなった気がした。

 隣の秘書さんもレイオスさんを取り巻く空気が変わったのを感じ、わずかに動揺の色を見せる。


「い、いや、決してそういうわけじゃ……」


 俺は取り繕う。だが。


「隠さなくても分かる。まあ君は、特に私を睨んでいたという訳でもないんだが……、突っ立っているだけのはずの君からは、全く隙が見当たらなかった。恐らく、私がミリアちゃんの入学を拒否し、少しでも手を掛ける素振りを見せたら、迷わず戦う気だったのではないかね」

「は、ははは……いや、そんなつもりは無いのですが」


 俺は必死に笑いを作る。


 だが、図星だった。


 レイオスさんの言葉をごまかそうと、変な苦笑いが浮かんでしまう。

 ミリアは意味が分かっていないのか、キョトンとした顔をこちらに向けている。


 俺はレイオスさんの事を尊敬している。

 世界を救った勇者のパーティの一員であると同時に、後継のために学校を建て指導に当たる。その姿勢は素晴らしいと思うし、中々出来る事ではない。もしかしたら伝説の勇者アルスよりも立派かもしれないと思う。


――――だがもし、ミリアを手に掛けようとしたら。


 その時は戦うつもりだったけどな。

 校長だろうが、教頭だろうが関係ない。

 何も知らない彼女を殺そうというのなら、ちょっとくらい「抗議」してみるつもりだったさ。


「マオ君」

「はっ、はいっ!」


 突然の呼びかけに、慌てて返事をする。

 殺気が漏れたのだろうか。

 というか、さすがにクビだろうか?

 色々懸念をする中、教頭は口を開いた。


「君はそういう子だ」

「?」


 教頭は……何故か優しい眼差しで俺の方を見る。

 顔自体は微笑みはしていないものの、先ほどとは打って変わり、目には慈愛の光が宿っているのが感じられた。それに応じていつの間にか、俺の表情からも変な作り笑顔が消えていた。

 教頭はなおも優しい口調で俺に語り掛けた。


「君は、『誰かのために戦える』そういう事が出来る子だ。そういった事は、中々出来るものじゃない。本当の優しさを持っていないとね」

「……!な、なにを言って……」


 俺は狼狽える。だが教頭の目は真剣なものだった。


「君のその優しさは、君が入学する時には知っていたよ。だから君を採用したんだ。たとえ闇の属性を持っていてもね」

「…………」

「だから、もっと素直に感情を出したらどうかね?君は周囲と自分から壁を作り、感情を抑え込んでいる気がする。……自分の属性を気にしているのだろうけどね。

 だが君は、純粋に自分の魅力に気付いていない気がする。だから今言っておこう。残り短い学校生活を、楽しいものにして欲しいからね。

 ――――笑いたい時は笑えばいい。思うままにしていれば、君がどういう人間かは、そのうちクラスメイトにも伝わるはずだ」

「…………」

「本当の自分をさらけ出さずに終わってしまうのはもったいないだろう?」


 ……これは。

 普段の俺の学校生活に釘を刺している?

 説教しても無駄だろうから、やんわり俺を懐柔しようとしている?

 というかもう、懐柔の手を使わないと俺は改善の施しようがないと思われている?

 それとも他に何か裏がある?

 ……それとも、もっと素直にこの言葉を受け取った方がいいのだろうか?

 

俺は、教頭の表情を見た。

体のいい言葉を並べている様子は無い。偽りの無い笑顔。裏は無いように見える。


「まあ、私が言いたいのはそういう事だ」


 一転、教頭の顔がいつものとっつきやすい笑顔になった。


「まあ、堅い話はとにかく、要は残り少ない学園生活を楽しみたまえ!って事だ。

これが私たちが君に送る言葉だよ」

「……はい。ありがとうございます」


 俺は一礼をし、ミリアを連れて教頭室を出た。


………………………………………………………………………………………………………………………


「笑顔、か……」


 さっきの教頭の言葉を思い出してみる。

 たまには素直に受け取ってみるのも、いいかもしれないな。

教頭室を出た俺は、なんとなく笑ってみた。

気付いたら、ミリアも横でいつもより嬉しそうに笑っていた。


………………………………………………………………………………………………………………………


「しかし、教頭を手に掛けようとしていたとは思いませんでした」


 女性秘書はズレたメガネを直し、レイオスに語り掛ける。

 レイオスは変わらない仏の表情で、語り掛ける。


「ふっ。まあ、私がミリアちゃんを手に掛けようとしたら、の事だろうけどね」 

「彼は貴方が伝説の勇者、アルスの仲間であるということを、知っているのでしょうか?」


 大人しいレイオスに「喧嘩を売った」学生に秘書は腹を立てていた。少し腕が立つとはいえ、あまりに無礼が過ぎる。


「メア君。君は大きな勘違いをしている」

「勘違い、とは」

「恐らく、差しで戦っていたら、私は苦戦しているだろうね。……いや、今や限りなく勝ちの可能性は低いかもしれないな」

「……まさか」


 秘書「メア」は目を見開いた。


「まさかではないよ。私たちだって、かつて『魔王』を仲間皆で力を合わせて倒したんだ。

 『神』の魔力に『竜』の力、そして『人間』の知恵を持つ魔王には人間一人が立ち向かってかなう相手ではないよ。私の力も通常の勇者を遥かに凌駕しているが、それでも彼に勝てるかどうか分からない」

「……彼は、放置していていい存在なのでしょうか?」


 メアがレイオスに質問を投げかける。


「恐らく、それは彼自身が一番感じている事ではないかな。私の目には、彼はなるべく人を遠ざけているように見えるよ。実際、色々トラブルは起こすが、彼から仕掛けたような事は一度もないようだし」

「そうですか」

「きっと思っているんだろうね。『自分はここにいていい存在なのか』とね。……ふふ、かくいう私にもそういう時期はあったのがね。まあ、アルスがそんなもの全部ブチ壊したけど」

「はあ……」


 終始穏やかな様子のレイオスに、メアはため息を吐いた。


「まあ、彼は彼なりに勇者業も頑張っているではないか。この前の『マフの洞窟』の遺留品回収などに至っては、五十年ぶりに戻ってきた依頼品もあったらしいじゃないか」

「そうですね。報酬が安い上に最初の依頼から時間も経っていて、さらに難易度が高いので、誰も手を付けなかったので……」

「まあよく回収してくれたよ。……しかし、『マフの洞窟』か、懐かしいな」

「レイオスさんら『伝説の勇者』のパーティが最初に制覇したんでしたね」

「ああ。魔物が強くて探索にはかなり苦戦したよ。まあ探索の結果、結局コルドニアに繋がっていなかったんだがね、あの洞窟」

「たしか当時は噂されていたんですよね。あの洞窟が、コルドニアに繋がっていると」

「あれ?君も探索に行ったんじゃなかったか?あの洞窟」

「母の話です!母が仲間と行ったと言っていました!」

「まあ世代的にそうか。『メイ』ちゃんだったっけ」

「ええ。今は隠居して、魔法教室を地元で開いています」

「魔法少女『メイ』ちゃんねえ」

「……もうこの話はいいんじゃないですか?」


 メアが恥ずかしそうに、話を打ち切る。

 そろそろ次の仕事が入っている。その準備のために、いそいそと用意を始めた。

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