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むしろ周り全員勇者で俺だけ魔王な件。  作者: ナル
第一章 勇者学園
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プロローグ

 ドン、という、分厚い岩盤が砕け散る轟音に、四人の「勇者たち」は振り返った。

 彼らの目の前に現れたのは、「グランドワーム」。持ち上げた頭から胸までの高さだけで六メートルはある、ワーム種の上級種である。

 四人の勇者のリーダー格である「勇者」バロンは、その姿を見て即座に叫んだ。


「アレンは魔力を溜めろ!メイは回復の準備!ルスカは俺と特攻だ!」

「おお!」


 戦闘慣れした三人は、バロンの号令に瞬時に体制を整える。


 ………………………………………………………………………………………………………………………


 その全容をほとんど知られる事のない未開の地、コルドニア大陸と、人工都市栄えるサイネシア大陸は、一つの大きな砂漠によって隔てられている。


 その名も「マフの砂漠」。


 地平線まで広がるこの広大な砂漠は、横断するだけで十数日は掛かるうえ行く手を多くの魔物が阻み、旅人の横断をほぼ不可能としてきた。

 コルドニアの存在は大昔の文献と、ごく稀に瀕死の状態になってたどり着く冒険者によって確認されているのみである。

 マフの砂漠は長年の間、コルドニア大陸を「未開の地」たらしめてきた。


 だがこのマフの砂漠にはもう一つ大きな特徴として、広大な砂地の中にぽつぽつと、いくつかの岩盤が顔を出している点が挙げられる。

 大きいもので直径数メートルになるこの岩盤は、砂漠地下にある一つの巨大な鉱石の一部が突出して出来たものだ。

 そして岩盤には、大なり小なり「穴」が開いているものがいくつか見受けられた。

 これは時折吹きつける雨風などにさらされて岩盤が削られ、やがて長い年月を経て内部に形成された「天然の洞窟」の入り口たちである。

 この「マフの洞窟」は人間が複数入るのに十分な広さがあり、空気が通っているせいか、たいまつの火が消えることもない。奥行きはとても広く、十分な探索をすればかなりの日数が掛かりそうなほどである。

 そして、その事実は村人からは一つの大きな希望を抱かせた。


「マフの洞窟の空洞は、コルドニアまで通じているのではないか」


 もしもこの洞窟がコルドニアまで繋がっているのであれば、広大な砂漠を魔物や気温変化に怯えながら横断することなく、コルドニアまで行くことが出来る。遠い未開の地から新たな資源を楽に運ぶことが出来たら、サイネシアは今よりはるかに潤うだろう。

 だが、実際そう簡単にはいかない。

 マフの洞窟は、アリの巣のような入り組んだ複雑な作りをしており、また、そこに住みつく強力な魔物によって、旅人達の行く手を阻んでいった。

 旅人達は強力な武力、――――剣技や魔法――――を持って、洞窟に挑む。洞窟を突破出来ない者は次々と魔物たちの餌食となっていき、未だこの洞窟を突破した者はいない。

 よって「マフの洞窟」は、サイネシアからコルドニアへと続く、最初の「ダンジョン」として旅人に立ちはだかっているのである。


………………………………………………………………………………………………………………………


 ――――――いい機会だ。

 バロンは右手に持った「炎竜の剣」に力を込める。

 剣はバロンの魔力に呼応し、その属性能力である「焔」を噴出させ、バロンの右腕全体に纏わせた。

 ワームの上級種、グランドワーム。

 噂に聞く最強レベルのモンスターであるが、これからコルドニアに乗り込む自分たちの実力を図るには丁度いい。だからこそ、通常通りの陣形を広げた。

 俺たちの力を試してやる。

 ルスカの準備が整ったのを見計らって、バロンは一際大きな声で叫んだ。


「いくぞ!ルスカ!」

「おおっ……」


 だが、いつも気勢よく応えるルスカの声は、ゴウ、という突然の突風の音によってかき消された。

 同時にバロンの目の前から、ルスカの姿が一瞬にして、消え失せる。


「――――っ!?」


 バロンはすぐに振り返る。洞窟の反対の壁際にはすでに、グランドワームが大きな体をくねらせて佇んでいた。

 そしてその口には、ルスカの――――上半身のみが咥えられている。

 間もなくバロンは、ルスカがいたはずのそこで、ベシャ、という水気を孕んだ物体の倒れる音を聞いた。人間の下半身だった。恐らくは、ルスカの。


(まずい――――!)


 バロンはとっさに叫ぶ!


「アレン!『リムーブ』の用意だ!一旦脱出するぞ!メイはルスカの体を回収しろ!『リバイブ』は後でかける!」


 急激な作戦変更であるが、場数を踏んでいる二人はすぐに対応する。

 だが。


「回収って、どっちの!?」


 メンバーの紅一点、メイはわずかに錯乱する。回収しろと指示の出たルスカの体は二か所にある。冷たい洞窟の土に倒れた下半身か、獰猛なワームに咥えられている上半身か……。

 人体蘇生の「リバイブ」に必要であるのは生命活動を司る上半身であり、当然メイもそれを知っているはずであるが、桁外れの戦闘力を持つワームからそれを奪い戻すという事実は、彼女にとっては受け入れがたく、冷静な判断力を見失わせた。

 ルスカの体はすでに生気を失い始め、ワームのその長い嘴にただの物体かのようにぶらさがっている。


「くっ!……ルスカは俺が回収する!メイはすぐに脱出できるよう準備をしてくれ!」


 バロンが声を張る。難易度の高い作業をあえて自分が請け負うことで、仲間の不安を和らげようとした。


「分かっ……」


 メイが言いかけた瞬間、再びゴウ、という音が鳴り、今度はバロンの頬を強烈な風圧が通過した。

 またも何かが通過した先の方向を振り返ると、今度はメイがグランドワームの嘴に咥えられているのが見えた。


「が……は……」


 ワームの嘴の万力と、壁に叩きつけられた衝撃。

 すでにメイは、その強大な力の前に、意識を失いかけている。


「くっ!……うおおおおおおおおお!」


 弱気を払う咆哮を上げ、バロンはワームに向かって一気に突進した。

 メイの右腕を代償に、ワームの嘴からメイの体を引きちぎって奪い返し、そのままアレンの方向に走る。


「アレン!『リムーブ』だ!」


 命令を受けたアレンは、すぐに脱出魔法『リムーブ』を用意して二人を待つ。

 一瞬だけ、引きちぎれて洞窟に置き去りのルスカの上半身に目をやった。


(すまん、ルスカ)


 だが、差し迫る状況に、すぐにその考えを捨てた。

 ワームは今も、次の攻撃に備えバネのように身を縮ませている。


『リムーブ!』


 アレンが唱えた瞬間、翠色の光が三人を包み、間もなく洞窟から脱出した。


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