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れん2nd  作者: 萌葱
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 愛海先輩がサッカー部のお手伝いをすることになって、私は週二回の当番が三回になった。

 当番じゃない日もここに来ることはあるし、何より静かなこの場所は勉強にも最適で…、相変わらず人気のない図書室のカウンターに英会話のテキストを広げる。


 夏に父さんとNYで会った時に、高校を出たらこっちで一緖に暮らさないかと言われた。

 小さい時に両親が離婚した私は父に引き取られたものの、日々仕事に忙しい父には子育てはとても無理だということで、母の妹である幸子叔母さんに育ててもらった。

 

 親権が父にあるのに母の親族に預けられるというのもおかしな話ではあるけれど、父側のの祖父母はすでに他界しており、何よりも母の行動に憤りを表し、残された私の面倒を見てくれただけでなく、全面的に父の味方に回った母の妹である叔母夫婦に、父さんは全幅の信頼を寄せたらしく、私は叔母夫婦の家に預けられることになった。


 子供の居ない叔母夫婦はとても私をかわいがってくれ、何不自由のない生活をさせてもらっている。

 母と別れて以来仕事に打ち込み、とうとう海外に住むようになった父は、長期の休みには私をNYに呼び寄せて、暫く一緒に暮らすということをしていて、物心ついてから長期の休みは渡米していることが多い。


 叔母の家での暮らしには不満などは全く無くて、けれど、物心ついた時から何処か遠い存在だった父と一緖に暮らしてみたいという気持ちも有って、気持ちの整理がつかないままに、準備だけはしておこうと英語の勉強を始めた。

 夏休み明けに幸子叔母さんにも話したら、塾に行く? って聞かれたけれど、そこまでの気持ちもなくて…、ただ、私の今の英語の成績ではアメリカで暮らすことなんてとても出来ないから…。

 心が決まらないまま先日、目についた英会話の本なんて買って来て、時間のある時にはやって見ることにしたのはいいものの…私の気持ちが定まらないのもあって、成果はかんばしくない。


「何やってんの?」

 ふと、目の前のテキストが暗くなったと思い目をあげたら、目の前で柏木くんが不思議そうな顔でテキストを覗き込んでいた。

「英会話…? 英語ダメなの?」

「成績は駄目ってほどじゃないんだけど、会話はホント駄目なんだ…ちょっと旅行で行くかも知れなくてね」

 そう答えるとテキストをひょいと持ち上げて表紙を見て眉をしかめる

「これ、相当初歩のだよ? 本当に英語ダメじゃないの?」

「赤点は取ってない」

 胸をはると

「胸はるとこ、そこ?」

 と苦笑された。

 国語と数学はクラスでもそこそこの位置にいると思うのだけど、休みごとに渡米しているというのに父や叔母夫婦に頼ることが多いせいか、どうも英語は苦手なのは自覚している。

けれど、指摘されるとちょっと悔しくて

「じゃ、柏木君はどうなのよ?」

 そう言うと、成績の掲示見て無い訳ね…なんて、呟いて

「中間は総合3位、英語は98点」

「うわ、意外」

 思わずそう言ったら、あのね…と肩を落とされた。

「兎に角、勉強するなら、こんなテキストは止めた方がいい、時間の無駄だよ」

「へぇ…、じゃぁ、お勧めは?」

 そう聞くと、少し考えるような顔をした後、ふわりと笑って

「じゃさ、デートしよ?」

「はぁ?」


「これと、あとは…これだな、学校の授業にそくしたやつだとこんなもんか? 会話は…まずは耳慣れからなんだよなぁ…」

 参考書を選び終わるとそう言って、突然すごい勢いで英語で話しだして、吃驚して固まる私に

「聞き取れた?」

 なんて言うから、ぶんぶんと首を振ると困ったような顔をして、そりゃ、まずは耳から作らないと…、何て言っている。

「なんで、そんなに英語上手なの?」

 あまりに滑らかな発音に驚いてそう言うと、

「ん? 俺、帰国子女だし、中二でこっち帰ってきたの」 

 そう言われて、納得する

「それは大変だったねぇ…」

 呟くと

「へ? 普通、良いなとか、ずるいとか言われるんだけど?」

「ん? だって、環境替わるってのは大変なことだよ、英語だって引っ越した当時は苦労して覚えたわけでしょ?」

 若しかしたら、私もこれからそうなるかも知れないと思うと、とても羨ましいとばかりは思えなくて、そう言ったら少し戸惑ったような顔をして

「ま、まぁ、子供ガキの頃だから吸収力はあったし、俺、頭良いから…」

 そんな風に言って顔をそむけた。

 

 デートなんて言うから驚いたけど、つまりは一緒に本屋さんでテキスト選ぶのに出かけようって事だと解って、私が選んだテキストを見て本気で眉をしかめて居るのも有り、其れも良いかと思った。

「えっ…」

 折角本屋さんに来たのだからと、テキストを購入した後もぐるっと店内を回り、お気に入りの時代小説のコーナーで一冊の本が目に留まる

 正確にはその帯。

 ー川原庄之助 その仕事のすべてー

 人気時代小説作家川原氏の全作品とその資料、映像化された作品の衣装等を展示…

「京武デパート8F 催物場にて開催?」

「京武って駅向こうのデパートじゃない? 行く?」

 足を止めて帯を見つめて動かない私の横でさらりという柏木君に

「いや、柏木君は退屈だと思うけど? 私一人でこのあと行こうかな…」

 そう言うと、少し眉をしかめて

「冷たいな、折角のデートじゃん? それに川原なら俺も読んだことあるし、付き合う」

 言うなり、

「行こ?」

 そう言って本屋さんを出ていく彼を私は慌てて追った


「気がついて良かったー、付き合ってくれて、ありがとう 」

「いや、結構楽しめた、榎木の解説詳しいし…、しかし、本当好きなんだね」

 本の帯でたまたま見つけた作品展は、流石に来場者は年配の人が多かったけれど、高校生の私でも入り易い雰囲気で、陳列物も充実したもので、楽しかった。

 付き合わせてしまった、柏木君が退屈なんじゃないかと気になったけど、口先だけとも思えないその態度にホッとする。

流石に立ちっぱなしで疲れたねなんて言って、目に付いた喫茶店に入ってそんな話をしていると

「シフォンケーキのお客様は…?」

 言葉ではそういいつつ、明らかに私の前に置かれようとするケーキのお皿に、向かいの席を手のひらで示すと、慌ててお皿の軌道を変えて柏木君の前に置くと、続けてココアは…などいうのも、同じ動作を繰り返す。

 私の前に漸くポット入りのダージリンが置かれて、カップに紅茶を注いで居ると

「逆だよね?普通…」

 柏木くんがココアを飲みながら眉をしかめる

「洋菓子苦手なんだよね…」

 そう言うと、驚いた様な顔をして

「そんな女の子居るんだ…」

 なんて言っている

「まぁ、大抵驚かれるけどね、遠足のオヤツとか?」

「定番は?」

「甘納豆…とか?」

「ぶっ…」

「ちょっ…!」

途端ココアを吹き出しそうになって慌てて口元を手で抑えている。

 ハンカチを差し出す私を手で制して、上を向いてごくんと液体を飲み込み

「やめてよ、吹き出すかと思った」

 軽くむせながら恨みがましげにこちらを見るから、ごめんと笑ったら、反省してないしとますます膨れてしまい…そうすると意外と子供っぽくなる顔にますますおかしくなってしまった。


 報告の方にも書いたのですが、週末から用事があり出かけます。

 その為、少しの間更新停止します。

 火曜日か水曜日には再開出来ると思うのですが…。

 戻り次第、up予定ではありますが、また多少忙しくなるので連日の更新は難しいかもしれません。

 ともあれ、戻りましたら引き続き頑張りたいと思うのでよろしくお願い致します。

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