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先日逃げ込んだ図書室で倒れた俺を車で家に届けてくれた雄輔に、礼はしとけよと言わた。
一人暮らしの俺のお目付役である叔父の雄輔は自分にも心当たりがあると笑って、大抵の俺の素行については程々にしとけと笑うくらいで好きにさせてくれている。
だから、こいつがわざわざ口にするようなことは聞いておこうとは思っていて…。
女の子と居るのを邪魔されたのはいつも木曜だったから、木曜日なら居るのだろうと当たりをつけたら案の定、一人でカウンターで本を読んでいる。
俺の楽しみを邪魔した挙句、しれっとした顔で、こんな場所でそんな事している方が悪いと言わんばかりの可愛げのない女。
けれども借りっぱなしは気持ちが悪いから、さっさと返してしまうつもりで
「悪かった…な」
頭を下げたら、呑気な顔で、本棚が心配だったとか言うから、つくづく可愛げが無い。
そして、不思議そうに、何故保健室に直接行かなかったのかと聞かれて、特に隠す必要もなかったからダブルブッキングした女から逃げてたと答えたら、あからさまに眉をひそめる。
いつもあまり表情が変わった様子が見えなかったのに、そんな顔をしたのが少し意外で、調子が戻ればそんなへまは補修可能だと付け加えれば、なにかおかしなものでも見るような顔をして俺を見たと思ったら急に笑い出した。
「なんだよ?」
何だか馬鹿にされてるみたいに感じて睨んでも
「や、もう、感覚超えすぎてて、人間が違うと思うことにした」
なんて言われて、意味が判らない。
「で? オススメは?」
あの日大分意識が戻って、雄輔に車で送ってもらいながら、図書室で看病されていた時の様子を聞かた。
様子と言っても朦朧としていたしと思いつつ、そう言えば夢現に、どうせならお客さんで来て欲しいもんだけどね…、なんて呟いてたのを聞いたと言ったら、雄輔は面白そうに笑った挙句に
「放課後3時間も委員をしつつ看病してくれたんだ、其れくらいやったらどうだ?」
なんて言っていたのも思い出して、まだ笑っている目の前の奴にそう言うと
「何の話?」
怪訝な顔をするから
「どうせなら客になれって言ってただろ?」
って、答えたら
看病中の軽口を聞いてたとは思わなかったらしくて、素直に驚きを顔に出しつつも
すっと、席をたつと一冊の本を持って戻って来て俺に渡した。
…しかし、時代小説って書いてあるんだけど…これ。
今まで付き合った女の子の中には俺に読んで欲しいと本を持ってくる子も居たけれど、大抵はカラフルな表紙の恋愛物が多かった。
中にはこんな男居ねえよって女の子のの妄想みたいな物もあったけれど、それはそれでリサーチネタとしては悪くなかったし、そういうものとして読めばそれなりに興味深くて…、たまにファンタジーとかもあったけれど、流石にこのパターンは初めてて、ついまじまじと表紙を見てしまった。
「試してみて? 読みやすいと思うよ、あと生徒手帳見せて」
そう言われて、手帳を渡して俺の名前と生徒番号を記帳するサラサラとした黒髪を眺めながら、そう言えば俺は彼女の名前さえ知らないことに気がついた。
「そういえば、お前の名は?」
すると、手帳を返しながら真っ直ぐ俺の目を見て
「榎木冬華・・・・冬華は冬の華、らしくないけどね」
なにか言われる前にと思ったのか牽制のような一言を付け加えるのに、そう似合ってなくもないんじゃないかとは思ったけど、口には出さなかった。
しかし、借りた小説は意外にに面白く、読み始めた日は気がついたら外が明るくなっていた
一人暮らしの気楽さで夜更かしすることは多かったけど、本を読んでなんて経験は今までしたことが無くて。
けれど、没頭した時間は思ったよりも気持ちが良くて…結局俺は木曜の放課後になると、榎木のおすすめの本を借りていくようになっていた。
今更ですが、一話目冒頭にほんの少し手を加えました。
2ndだからと油断して、図書館の説明を入れるのをまるっと忘れていました…。
時間があるたびに定期的に読み直して手は入れているのですが、まだまだミスや粗がありお恥ずかしい限りです。
けれど、未熟なりに少しずつでも伝わりやすい文章を頑張って行きたいと思います。
今後ともよろしくお願い致します。