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ガラッ…。
図書室の扉が開いてお客さんかと思い期待して振り向けば、見覚えのある茶髪の長身、加えて耳元を見れば以前早苗から聞いたピアスが光っているのにため息を付く。
「えっと、柏木君だっけ? ここを逢引現場にするのは止めて欲しいといったはずだけど?」
すると
「本読みに来る分には良いんだろ」
そう言って本棚の間に入ってく
吃驚して思わず目で追うと、何だかふらふらしているし、妙に呼吸が荒い、顔も赤みが強いように見えて…
不思議に思ってみていると、ふらりと本棚に倒れかかりそうになり慌てて席を立つ
大丈夫とは思うけれど、人が一人倒れたら本棚が連鎖で倒れかねない…
「熱っ…」
側に近寄り体に触れて驚く
「なに、俺に興味あるの? 今日はちょっと勘弁して欲しいんだけど?」
馬鹿な事を言う彼の額に手をやれば驚くほど熱くて、そのままカウンターまで引っ張っ行って椅子に座らせる。
「乱暴だな…」
不満気にこちらを見る姿に
「自覚ないの? 結構な熱だよ? 本棚の所で倒れられたら下手すればドミノ倒しが起こる」
そう言うと
「あー、だから、今日は体おかしいのか」
呟いて自覚したせいか体の力が抜けていくのが判る
「保健室行ける?」
そう言うと、ちょっと無理…と言いながらカウンターにもたれかかる姿に、仕方ないなと、柏木君を残して保健室に向かった。
なんで、私がこんな事を…。
呟きつつ図書準備室のソファーに横になる柏木君のおでこのタオルを取り上げつつ、ため息を付く。
あれから保健室に駆け込み、図書室に発熱した生徒が居ると話すと驚いて立ち上がった先生は生徒の名前を聞いて困った顔をした。
だから不摂生するなといったのにと苦い顔をして、そうだ、君、拓巳の彼女? と聞かれて驚いてぶんぶんと首を振る。
「ま、いいや、図書委員なら当番中ちょっと面倒見ててくれない? 拓巳の家は連絡しても迎えとか無理だし、このあと会議なんだ、終わったら家に送って行くから、あそこなら奥にソファー有ったよね」
そんなことを言いながら、薬と洗面器、タオルなどを取り出すのに
「ちょ、ちょっと待ってください、何で私が!」
そう言うと
「ここまであの長身運ぶのはキツいし、其の様子だと何度も動かすのは無理でしょう? 今日の会議は俺出ない訳行かないし」
私の中の保健室の先生という概念を覆す存在に何だか押され気味になってしまい、確かに、当番終了までタオルを取り替えるくらいならいいかもしれないと思ってしまったのは不覚だった。
でも、あまりの胡散臭さに強く反対も出来なかったんだよなぁ…と、準備室の小さな冷蔵庫の冷凍室から氷を出して洗面器の水を冷やしてタオルを浸けて固く絞る。
保健室の先生の言うとおり、準備室にはソファーがあって、先生と図書室に戻るとぐったりとカウンターにもたれかかる柏木くんを準備室のソファーに移した。
風邪だね…、とため息をつく保健の先生に、このまま会議が終わるまでお願いと言われて二十分に一度ほどタオルを替えて今に至っていた。
「全く、どうせ図書室に来るなら本を借りるお客さんが来て欲しいけどね…」
呟きつつタオルを変えるとぱちりと目を開けてうつろな目で私を見る
「誰…?」
かすれた声でいうのに、図書委員だよ、そう言って、意識が戻ったならと薬と水を渡す。
薬を飲んで、もう一度横たわると
「何で…?」
不思議そうに言われて
「保健の先生に押し付けられた、会議が終わったら車で送ってくれるって」
そう答えたら、納得したように薄く笑って
「そか…」
そう言ってまた目を閉じた
「悪かった…な」
図書室で看病してから一週間後、当番をしてたら、柏木くんが来てピョコリと頭を下げた。
「ま、元気になったならいいよ、倒れたら本棚が危険だったし」
そう答えたら、心配なのは本棚なのかよなんて呟いているのに
「でも、なんであの日此処に来たの? あんな調子悪かったなら直接保健室行けばよかったのに」
ずっと不思議だった事を聞いてみる
「自覚なかったんだよな…何か熱でボケてたのか、女の子ダブルブッキングしちゃって、いつもなら幾らでも誤魔化せるのに、頭回らなくて、逃げるのに精一杯で、気がついたら人が少なそうな此処来てた」
けろりとそんな答えを言うのに、思わず助けなければよかったと思った私は悪く無いと思う。
でも、続けて体調治ったらどうにでも丸め込めたんだけどね…なんて言うから、笑ってしまって
「なんだよ?」
不満気な柏木くんに
「や、もう、感覚超えすぎてて、人間が違うと思うことにした」
そう言うと、何だそれと呟いた後
「で?お勧めは?」
と聞かれた。
先日からの用事が取りあえず終わったので、少し整理が出来ました。
ので、もう少しいつものペースで続きをup出来そうです。
どうも自分のペースがうまく掴めず緩まったり早まったりで申し訳ないです。