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「貴方が、好きなんだ…」
柏木君の蜂蜜色の瞳が苦しそうに、けれどどこか甘く私を見つめて呟くように囁かれて、胸の奥がドクンと波打つのが判る
慌てて瞳を反らせて私は森の奥へと逃げていく、自分の気持ちに怯えるように
「良いね、ミレディその呼吸忘れないで」
最上先輩が機嫌よくいう言葉に、はいと答えるけれど、私はこの気持が演技じゃないことを自覚していた。
いつからだろう?
最初の頃は、ユートリアスにどんなに甘いセリフを言われても、それは私の心を通過して演技として振る舞うことができていた。
けれど、特にどこが違うとも言えないのだけど、最上先輩が柏木くんの演技を絶賛するようになってから、彼の言葉は私の胸に留まるようになってきていて、時に私の胸を跳ね上がらせたり、妙に締め付けたりしていて、演技として受け流すことが出来なくなっていた……。
私達の練習はセリフ合わせは最後まで通しているけれど、演出は最初から少しずつ進んでいて…、基本的にミレディは無表情に立ちすくみ彼の言葉を跳ねつけるだけ。
ただ、後半になると少しユートリアスへの感情を見せるようになって行く…、その後半の演出にに最近は差し掛かっているんだけれど、私はなぜか柏木君の演技に引きずられるように心までミレディみたいに動揺して動いてしまう。
二回目以降ははそのとおりに動けば、多少のぎこちなさはそれが精霊っぽくていいと言われ、なんだか表面的には順調、けれど、私の心は……。
いつの間にかミレディと私の気持ちが混ざって来てしまっているような気がしていて。 普段は明るくて優しい彼の苦しげな顔、恋をしているような熱を持った瞳、切なげに言葉を囁く声……、そんなものにドキドキとして、胸が締め付けられて、鼓動が跳ね上がったりする自分の心を、私ははなにか不思議なものでも見るような気持ちで眺めていた。
この芝居が終われば、柏木君がユートリアスになる事は無い。
そしたら私の中のミレディはは消えて、私の中のこの気持も消えるのだろうか……?
本番一週間前、今日は本格的な衣装合わせ、一度すべてを作り上げて後は微調整をするらしい。
私の条件である、榎木冬華であると判らないメイクというのと、最上先輩のとにかく精霊! という言葉に従い用意されたのは、プラチナブロンドの長いかつらにシルバーグレイのカラーコンタクト、メイクは色はあまり使わずに、顔の皮膚を均一に陶器のように整えて、後は少し瞳を強調するアイメイクと唇の色味を落として血色を悪くするくらい。
衣装は広げると6メートルにもなるという軽くて薄い羽のような生地を体にまといつかせて、大ぶりのブローチで留めたもの。
どう? と、満足気な衣装係の生徒に鏡を見せられるとそこには、眼鏡は外しているけれど母にも似ない、先日の金髪のメイクの時とも違う、どこか人間離れした生き物がそこにいた。
「うわ~! 冬華ちゃん本当に精霊みたい……綺麗、なんだか怖いくらい」
「悪くないな、隣で柏木も出来上がる頃だろ、見に行ってくればどうだ?」
私を知るスタッフは極力少なくという私の希望に答えてくれたのは感謝しているけれど、いつの間にか身の回りの雑用などに愛海先輩と瀬名先輩が関わってくれていて、私としては非常に申し訳ない。
「私が巻き込んだんだからこれくらい」
「ま、いろいろ興味深いし楽しむさ」
恐縮する私に、そう言って手伝ってくれる先輩たちに軽く頭を下げて、ユートリアスに会いに行くのに扉を開けると
すらりとした長身に濃い目の蜂蜜のような茶色の髪と瞳、耳にはいつか私があげたピアスをして、ひと目で生地の良さが分かる艶やかなシルクのフリルシャツに、長い足を包むベルベットのパンツ、一瞬黒にも見える深い赤いマントを私と対のデザインのブローチで止めた彼が立っていた。
「綺麗すぎて息が止まりそう」
そう言って笑ってくれる柏木くんに、トクンと胸を波立たせながら
「柏木くんも本物の王子みたいだ」
そう返すと
「じゃぁ、王の謁見に一緒に参りましょう? 姫」
そう言ってすっと手を差し出してくれたから、確かにこれから私たちの衣装チェックする最上先輩は、ここでは王様みたいだよなと思うと、少しおかしくて、くすりと笑って彼の手に私の手を預けた。
戻りました。
このままラストまで頑張って行こうと思いますので
よろしくお願い致します。




