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「小さな書店なんだけど、そこ、北森皐月って夭折した作家さんの生家で、彼の遺品を展示しているんだ、北森さんのご両親がやってる処なんだけれど、先輩の話では書店としても細部にまで神経が行き届いてて面白かったらしくて…、私も北森皐月の本には感動したし、どうしてもそこだけは行ってみたいんだ」
「先輩って、工藤先輩?」
「そうそう、なんかね、去年先輩が伺ったのが切っ掛けなのか、閉店話が有ったのに、まだ頑張って開いて居るそうでね」
柏木君に言われて頷くと
「良いね! そこ、いいお話が聞けそう、老夫婦の守る思い出の店…!」
「感傷的だな、けれど作家の遺品というのは興味深い、榎木さんその北森氏の作品は図書室にもあるのかな?」
「感傷的って何よ!」
「そのままの意味だ、まぁ、単純…と言い換えてもいいけどな」
私たちは放課後の教室で修学旅行の自由行動中のルートを決めていた。
各人が要望を述べて行って、あとで纏めようと言う事になり、それぞれが行きたい場所を挙げて行く中、私の希望は高峰書房のみ。
みんなの反応も興味は持ってくれた模様でそれはいいのだけれど、やっかいなのは先ほどから区切りのたびに口論になる二人。
「図書室に本はあるから、興味があるなら取り置いておくし取りに来て、喧嘩は後で纏めて部室でどうぞ」
ため息をつきつつそう言うと、二人揃って
「「喧嘩じゃない」」
なんて…、こんな所だけ息が合う二人に呆れていると
「感傷的だの単純だのって言葉は十分売り言葉になると思うが?」
「早苗も、そこまで怒る言葉でもないでしょう?」
冷静な浦田くんと、進まないじゃないと頬を膨らます有起ちゃんに睨まれて、二人は気まずそうに
「悪い…」
「ごめん…」
私たちを見て謝った。
これからルートの決定までに何度こんなやり取りを繰り返すのかと思うと、少し困ったなと思うけれど、高峰書房は無事ルートに加わりそうで
「良かったね」
隣に座る柏木くんにそう言われて
「ほっとした」
そう答えて、いつの間にか机に乗り出していたのに気がついて、ゆっくりと背もたれに体重を移動させた。
「私はおもかる石に行きたい!」
キラキラと瞳を輝かせ早苗が言い出す。
なんでも伏見稲荷に有るというその石は願いを心で唱えてから持ち上げると、叶う場合は思うより軽く、叶わない場合は思うより重く感じられると言う。
「へぇ~、面白そう!」
そう言う有起ちゃんと対象的に、不満げに好戦的なため息付く越乃君
「何か?」
早苗が早速反応するのを
「はい、ストップ! 兎に角、行きたいところはあげて行こ? 場所の是非は後でね」
二人を見てそう言うと、越乃君は言葉を飲み込んだから、幸い口論は起こらなかった。
そのまま、取り敢えずは平和に進み始めた会議…、くすりと笑う気配に隣を見ると、柏木君と目が合う。
うまいね、とその色素の薄い蜂蜜色の瞳を細めているのに
「でも、少し興味あるかな? 行くとしたら何聞こう?」
そう言うと
「そうだな…、でも、本当に知りたい事は怖くて聞けないかもしれない」
一瞬中空に視線を彷徨わせ、すぐにその視線を伏せると、何処か切なげにそんなことを言う
「え…?」
「なんてね、人って結構そう言うところ有るよね」
一瞬見えたような気がする影を綺麗に消して、打ち消すように笑って先を続けたけれど…。
なんとなくらしくない彼のそんな様子が少し心に引っかかった。




