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「や…、えーと、…榎木は自分は恋愛に興味とか無いの?」
あの日、越乃の気持ちに対して、あまりに鋭い所を突きつつも、それでいて俺の気持ちにはまるで気が付かない榎木が不思議で、思い切って聞いてみたら、顔色を変えて、恋愛が怖いと言った彼女……。
彼女の母親に対する傷は深くて、いつも凛とした彼女がその人に触れるときだけ頼りなげになるのが痛々しかった。
けれど、本当に俺がショックだったののは、その後の言葉…。
「ごめん、私、柏木君に甘え過ぎ…、不特定多数と…とか言ってた癖にそれに安心している…?」
思わず零れたように呟いた言葉が、俺の胸を貫くのが判った。
いつもはクールで隙のない彼女が、少しずつ俺にだけ見せるようになってきた弱さ。
それは彼女が俺に心を開いてくれて来ているから…そう思っていたんだけれど。
榎木は俺が彼女に惚れてないから、惚れることがないと思っているから安心して弱みを見せてくれている…?
恋愛対象にはならないから、恋愛が怖い彼女には最適の……友達。
今まで彼女の前で、散々不特定多数との女の子との交友を見せつけていた俺。
けれど、あのピアスを渡された日に自分の気持に気がついて、工藤先輩と付き合いはじめたた瀬名先輩を見て…俺は変わろうと思った。
偽物王子と呼ばれたまま、偽物の恋愛だけしていくのでは満たされないと気がついてしまったから。
それからは、女の子とは友達として集団で遊びに行くことはあっても、デートやお付き合いというのは断ることにしたし、ピアスも彼女に貰ったものか、自分で選んだものだけしか付けなくなって…、少しでも側に居たいから同じ委員を選んで…。
そんな俺の涙ぐましい努力が実ったのか、彼女は少しずつ俺が近くに居ることに慣れて、受け入れてくれるようになったと思っていた。
このままの関係が続けば、その心を俺に向けてくれないかと、少しでも傾く様子があれば、きっと好きだと告げられる。
そんな事さえ思っていたのに…。
バチが当たった…のかな?
まさか、俺の不誠実だった過去が彼女を安心させていたなんて…。
其れを聞いた時はショックで…でも、心を隠して微笑んだ。
とっさに君だけが特別じゃ無いって思えるような言葉を選んで、だからその心を閉ざさないでって…、言葉を繋げた。
榎木は言葉を発した後焦ったように俺を見たけど、そんな俺の偽りの表情と言葉に安心したみたいで、ショックを受けたことを隠し切れたのが判った。
友達のままでずっと側になんて……、本当は自信が無い、だったら俺の気持ちが君を傷つけてしまう前に側を離れるべきかとも思った。
だけど、榎木の側は居心地が良くて…。
彼女に教わった読書の楽しみ、ここに通うようになってから交流を持つようになった、先輩との関わり。
距離があった幼なじみとの旧交の復活も思えば彼女が切っ掛けで…。
委員の当番の空き時間にやっている英語のレッスンも、時々呟くように吐き出す彼女の心の傷を聞く事も…、他の誰かにその位置を取って代わられたらと思うと、とても手放すことはできなくて…。
何より、例え友達としてだとしても、真っ直ぐに俺を見る君の視線を失いたく無かった…。




