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「冬華、有起ちゃん…今回の修学旅行、越乃達の班との行動でいい?」
久々に三人でお弁当を囲んでいると早苗が困ったような顔をして私たちに言う
「越乃君? また何か有ったの? 後の二人は?」
「浦田君と柏木君」
「柏木君? …その二人とそんなに仲よかったんだ、なんか意外」
呟いている有起ちゃんの横で
「私は構わないよ」
そう言うと
「私も良いよ~、っていうか、それ早苗が辛そうなんだけど、大丈夫?」
有起ちゃんが心配そうに言うのに
「だって…部で修学旅行の記事比べすることになっちゃって…公平を期するには一緒に行動するしかないし、何か気がついたら…」
普段威勢のいい早苗ちゃんがため息をつきながらそんなことを言っているのに、苦笑が漏れる。
一年の頃から新聞部で現在副部長の早苗は、同じ副部長の越乃君とは公式には犬猿の仲。
猪突猛進で元気のいい早苗と、一見冷静沈着な越乃君はしょっちゅうぶつかってるみたいで…そんな話を早苗からよく聞いてる。
ただ、私から見ると、越乃君はぶつかりつつも早苗を気に入っているように見えるのだけれど。
今回の対決も一緒に回りたかったから仕込んだ…? そんな風に思うのは私の穿ち過ぎだろうか?
暴走気味な部分はあるけれど、生命力に溢れ、いつでも心の琴線に触れた物には真っ直ぐにのめり込んで夢中になっているような早苗は、私から見ても魅力的だ。
けれど、常に新しいものを探してアンテナを張り巡らしているような彼女を常に側において置くには非常にエネルギーが必要で…、越乃君の何かと早苗に突っかかる好戦的な態度は彼女を引き止めておくための手段なのじゃ無いだろうか…
「って…思うんだけどね、そういう訳で旅行の班は一緒になりそうだね、よろしく」
翌日の放課後のカウンター当番で柏木君にそう言うと
「そこまで鋭いのに何で…」
とか、複雑な顔で何か言っているけれど、よく聞こえなくて、何? と聞くと
「や…えーと…榎木は自分は恋愛に興味とか無いの?」
そう言われて…、すっと体内の血の気が引くのが判った。
「え? 大丈夫?」
多分私の顔色が変わったのに気がついたのか慌てる柏木君に
「大丈夫…あのね…」
心に沸き上がった感情を飲み込みきれなくて、柏木君の柔らかい声に私の恐れを吐き出してしまう…
「母はね、父とお見合いで結婚して私を生んだんだけれど、その後いきなり運命の人を見つけたとか言って、全部捨てて出ていってしまったんだ……、私はまだ小学生で確かに冷たいと子供心にも感じる人だったけれど、その分振り向いて欲しくて必死だったから、突然消えたことが信じられなくて…、だから、私はきっと恋愛は出来ない……っていうかね、怖い、あの人に似ている私は、同じ様になるんじゃないかと…」
痛々しげに私を見る柏木君になんだか、彼にはこんな話ばかりをしていると気がつく。
病気になっても世話をやくのは親戚だという養護教諭位で、一人暮らしをしている彼にも事情はあると思うのに、彼の事情も知らず、女の子に優しくて、一人の女の子に深入りしないという彼を…いや、だからこそ私は……
「ごめん、私、柏木君に甘え過ぎ…、不特定多数と…とか言ってた癖にそれに安心している…?」
「…っ」
気がついた心の動きに呆然としながら、思ったことをそのまま口にしてしまってから、自分の発した言葉の身勝手さにどう思われだろうかと心配になったのと、かすかに聞こえた気がした息を呑むような息遣いが気になって、隣に座る彼を見上げた。
けれど、そこには相変わらずの優しい表情で私を見て居る柏木君が居て
「いいよ、俺でいいなら、いくらでも話して…、女の子に優しくするのは趣味だから気にしないで、それに口に出すことで楽になるってのはあるらしいよ」
そんな事を言ってくれるから、気のせいかとほっとして。
自分だけに向けられたものではないと知りながらも、彼の優しさと明るさは私にとって救いとなっていて、彼の側は気を張らずにに居られるのは自覚していた
あぁ、こうやって人は人に依存するんだな…、そう思ったけれど、私にはまだそれを偽物だと撥ね付ける強さはなくて。
もう少し強くなれる、まで…甘えさせて貰っても良いのだろうか…?




