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人気の無い古い図書室。
けれど、普通ならカビ臭かったり埃っぽかったりするはずなのに、そこの空気は何故か清浄で…。
俺を独り占めしたいな、なんて可愛らしく微笑む女の子と二人っきりになるには意外と穴場なんじゃ無いかと腕を引かれて初めて足を踏み入れてそう思った。
柔らかい体を俺に寄せてきて、良い香りのする髪の毛と細い指先、俺には無いそのパーツは触れていると気持ちが良く、触れられると高揚する。
そりゃ、あいつらも必死になるよなとふと思う。
俺が女の子と居ると感じる同姓からの恨めしげな視線、そうだよな、これだけ気持ちが良いものをそうそう触れられないのは気の毒だと思う、でも、それは俺のせいじゃない。
そう思うと、余計に其れは甘く芳しいものに思えて…
長いまつげに縁取られた大きな瞳に誘われるように近づき、その唇に触れようとして…
ガラリ…
扉の開く音に、俺の腕の中の彼女は
「きゃ…」
小さく悲鳴を上げて、俺の腕から逃げ出してしまった…
残されたのは、呆れたように俺を見る妙に背の高い、今時珍しい染めても居ない黒髪に無骨な黒縁眼鏡の可愛げの無い女…
悲鳴も上げずこちらを見る視線。
「あーあ…、君のせいで逃げられちゃったよ」
こいつでは代わりになりそうも無いと思いながら文句を言うと
「邪魔して悪かったけれど、図書室は本を読むところで逢引きするところじゃないんだ
ここを聖域のように思っている人も居るから、女子を連れ込むならここはやめて欲しい」
無粋な闖入者の癖にしらっとそんな風に言われて
「この人の殆ど来ない場所が?」
馬鹿馬鹿しいとと答えれば
「そう、ここが彼女と逢い引きをするのに適したロマンチックな場所に見えるのもいれば、
大事な本が並んだ聖域に見えるという人もいる、別におかしく無いと思うけど?」
眉一つ動かさずそんな風に返してくる
「へんな女…」
大抵の女は俺の素行に眉は潜めても、この顔は大好きで、正面から俺を見ると嬉しそうな顔でもしてみせるのが普通なのに…。
外は雨が降っていて、妙に肌寒い一日。
けれど、腕の中に柔らかな体を抱きしめていると、この寒さも悪くは無い気がしてくる
窓の外を見ながら体を寄せてきて、少し寒いね、何て言ってくるのは触れてもいいよってサイン。
だから、こんな天気の日は却って遠回りせずに腕を回せるってそう思えば、雨も悪くは無い、何て思ってたのに…。
腕の中の彼女が突然体を硬くして
「やだっ…」
そんな事を呟いて走って行くのに振り向けば、いつかと同じあの女の姿…
雨は抱き寄せる口実には良いけれど、その音が人の気配を消してしまうのが難点で、彼女が階段を降りてくる気配に俺は気がつく事が出来なかった。
「またお前かよ…」
ため息を付くも
「悪いね、邪魔するつもりじゃなかったんだけど」
ちっとも悪いとは思ってなさそうな顔でそんなことを言っていて
「つもりじゃなくても、邪魔なんだよ」
文句を言うと
「あのね、プライベートルームの扉開けたとかならともかく、校内でこんな事してたら仕方ないと思わない?」
…本当にこいつは可愛くない、こんなんじゃ一生彼氏とか出来ないに決まってる。
読んで頂いて有り難うございます。
R15なのはつまり彼のせいなんです…。
表現としてはこれくらい…だと思うのですけれど、これってRが必要なのか未だに悩むところです…。