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「夏も、行くんだね」
「うん、っていうか、父は今アメリカに住んで居てね、長い休みは会いに行くんだ…、叔母さんがね、お父さんを忘れちゃうのは、寂しいわって…」
「本当、大事にされてるんだ…」
「そうだね、ただ…」
「ん?」
先日主な第一担当のメンバーと夏休みの図書整理の話をした。
その細部についてカウンター当番をしながら柏木君と話してたら、いつの間にか私の家族の話になって居た。
複雑な家庭と言えそうな状況だけに中々周囲には言いにくいのだけど、柏木君の柔らかい相槌は話しやすくて…
「大学はこっちに来ないかってこの前言われた…」
つい、云うつもりの無かった事迄話してしまったのは、ずっと心にあったからなんだろうか…?
「え? 留学?」
「正直迷ってる、英語得意じゃないし、叔母さん達も好き、友達も居る…、でも、これを逃すと父と暮らすチャンスはもう無いと思う…」
「そっか…、だよね…」
流石に返答に困った様子の柏木君に
「ごめん、変な話して、夏の整理の予定組もう?」
そう言ったら
「あの…さ、どっちに決めるにせよ、英語の勉強は無駄にならないと思うよ? また、新しい構文録音するし、参考書手伝うよ、っていうか、知ってたら続けたのに」
そう言ってくれて
「あはは、なんか悪くて…、勉強は続けてる」
「もっと頼って良いよ」
優しくそんな事を言われて、吃驚して思わず
「柏木君がモテるの始めて判ったかも…」
呟いたら
「どーゆー意味だよ…」
拗ねられてしまった。
「榎木さん、夏の図書整理の予定は決めた?」
突然入ってきた委員長に、私は背筋を伸ばし、柏木くんは軽く膨らましてた頬を元に戻して、体に力をこめるのが判る。
「えっと、少人数で集中的にすることにしたので、三日ほどでやろうと思ってます」
「三日!?」
「はい、七月と八月の最後…その二日間は全面的に私が指揮して、間の一日は前副委員長の工藤先輩が指揮をしてくれます、蔵書そのものの量と現在少しづつ目についた部分はやっているので、それで大丈夫じゃないかと思うんです」
「そんな無理な日程じゃなくても、こっちの人数投入するとか、僕も手伝うし、どうかな? 夏休み中ここの運営についても相談に乗れると思うし…」
「申し訳ないのですけれど、これ、私の日程に先輩方を巻き込んでしまった結果なんです…、申請もしているのでご存知かとは思うのですが、家庭の都合で長期の休みはは殆ど出られないので、お気使い頂いたのに申し訳ないのですが…」
「そうなのかい? 三日で足りる? 人員も…」
「今回は何とかなりそうです、ご心配おかけしてすみません、今回はどうにかなりましたけれど、いざというときは相談乗っていただけますか?」
取り付く島がないほど丁寧に完璧に拒否して、最後に取り付けさす気のない島を一個残す…。
瀬名先輩の助言通りに委員長に受け答えすると、不満気ながらもそう気分を害した様子もなく
「じゃぁ、いつでも相談は来てくれ」
そう言って図書室を出ていくのにほっとする。
「何が日程足りる? かな、前期は愛海先輩一人に全部やらせたくせに…」
一年の頃は、大丈夫と微笑む愛海先輩の苦労にまるで気がつかず、殆どの作業を一人でさせてしまった悔しさもあって思わず呟くと
「ほんと、あの猿…」
柏木くんまでそんな事を言うから思わず吹き出す
「猿って…」
「言い出したのは瀬名先輩だし」
「さすが王子…、あの人に言われたら反論できないだろうね」
完璧と思えるような端正な顔立ち、私に委員長の対処法を教えてくれたクリアな頭脳、実際成績もわが校でもトップクラスで…、私の大好きな愛海先輩の彼氏。
先日私の素顔の写真が出まわり、妙に男子生徒に追い回された時も写真の回収をしてくれて、所持してた生徒に釘まで刺してくれた。
ただ、例の件以来第一図書室とそれを口実に私にも構うようになった委員長はその写真を友人に見せられて知ったらしく、所持してないから釘もさせなかったと瀬名先輩は悔しげに言うと、私にすまないなと謝って、助けてもらった上にそんなふうに言われて焦る私に、対処法を教えてくれたのだった。