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れん2nd  作者: 萌葱
18/30

18

「ネガと名簿出せ」

 そのまま写真部へと乗り込み、そこで一人で写真の整理をしていた男子生徒につかつかと歩み寄り瀬川先輩はそいつに声をかけた

「な…何のことだよ?」 

 すると慌てたように扉に向かって逃げようとするのを篠原先輩が扉を塞ぎ、慌てて俺ももう一つの扉の前に立つ。

 その様子を見て瀬名先輩は満足気に口の端で笑うと

「さて、ゆっくり話そうか、桂?」

 そう迫力満点の美貌で正面からその男子生徒を睨んだ。


「ほ…本当に王子の写真なんて撮ってないよ」

「違うんだな、今回はわが校の隠れ美少女? だと?」

 途端判りやすいほどビクリと桂と呼ばれた男子生徒は反応して

「お前、また写真撮って金取ってるだろう? 俺の時は次やったら学校に言うって言ったよな?」

「あ…あの時はっ、俺をまた撮ったらって…だいたいあの子は関係無いだろ? 彼女でもないし」

「お前、都合いい耳してるな…そういう意味に取ったのか? 生憎、俺はそういうつもりじゃなかったんだ、それも今度は女生徒の隠し撮り…停学で済むといいがな?」

「そんなっ…」

 段々この桂という男が何をしたのかがわかり怒りがこみ上げる。

 つまり、あの体育祭の一瞬を写真に取り、隠れ美少女などといって写真を売りさばいていたわけで…。


「ネガと名簿、それで今回は許してやる、いいか? 今度こそ間違うなよ? 今度隠し撮りをして商売をしたら、本気で学校に訴えてお前を退学に追い込む」

 冷静にゆっくりと艶のある低音でおどしつけるように交渉をすすめる瀬名先輩にすっかりのまれたその男子生徒は、おとなしくネガと名簿を瀬名先輩に渡していて

「返金して返還要求するから売上もだ」

 そう言うと泣きそうな顔をしつつ、封筒を出してくる。

 先輩はネガを確認して5枚か…と呟くと、慌てたように

「売ったのは二枚だけだ、他は写りが悪くて…」

 一緒に入ってた写真を確認してなるほどと呟いて、どうやら彼女が写っているらしい5枚を抜き取りネガの部分をはさみで切り取る。

「何人位だ?」

「まだ、50人行かない程度だと……」

「お前の上得意のみってとこか? 口コミを広げる前で助かったな?…大抵の奴は二枚ともか?」

 そう言うと観念したように頷くのを確かめて

「俺の言葉覚えておけよ?」

 そう言って瀬名先輩は写真部の部室を出ていき、慌てて俺たちも付いていく。


「まずは第一段階だな」

 篠原先輩がそう言うと、瀬名先輩はパラパラと名簿をめくっている

「あいつが几帳面で助かるな、後はこれ見ながら回収だな」

「二年はお前に任せていいか? 20人程度ってとこか」

 そう聞かれて、回収のことだと判る、その作業に否やはなかったが

「待ってください、多分これ、明後日も俺たち当番なんですがその時図書室来る奴捕まえたら一気に出来そうじゃないですか?」

「お、頭いいね柏木君」


そうして数日で写真はすべて回収出来た

隠し撮り写真であることを強調してそれを購入したと知られたくなければ、今後彼女の迷惑になるような接し方はするなとそれとなく釘を刺すと、後ろめたさのせいかわりと素直にわかったと頷くの殆どだった。


「終わったな…」

 全てを回収し終わり、先輩のクラスで、先輩達と俺+一名で名簿の確認をする。

「思ったより、ごねるのが居なくて助かったね」

 瀬名先輩の言葉に、篠原先輩はそう言って笑っている。

 

 回収作業に一人は危険だと言われ、渡米する前からの幼なじみである浦田に同行を頼んだら、快諾してくれて、今日も一緒に確認作業をしてくれている。

 小さい頃はよく一緒に遊んだものの、アメリカから帰って来た後は中学も違い余り会うことは無くなっていて、だから、同じ高校に進学し、また顔を合わせるようになった時は少し驚いた。

 もっとも、一年の時は色々忙しかったし、付き合う友達のタイプも違ったから殆ど話すことも無かったのが、二年になって同じクラスになったのを切っ掛けに、最近は少しづつ話すことも増えて居た。

 それでも、親しいと迄言えるほどには付き合っていなかった浦田を結局選んだのは、信頼出来る人間でないとまた榎木をやっかいごとに晒す可能性が有ったから…。

 浦田以外の俺の友達は悪い奴ではないものの、榎木の素顔を晒すにはどうにも躊躇われるようなのが多くて…。

 先輩に誰か居ないのかと言われて、少し迷ったけれど結局こいつに声をかけた。


 俺の隣で黙々と大きな体を屈めて名簿を確認している浦田を見て

「しかし、柏木君と浦田君が友達ってのは面白いねぇ…」

 篠原先輩にしみじみ言われて苦笑する

「幼なじみなんですよ、昔はちっこかったのに今じゃこんなおっきくなって、柔道部とか」

 笑いながらそう言うと

「俺は、お前が先輩達と知り合いなのに驚いたがな」

「あー、確かに?」

 そう答えると

「ま、落ち着いたようでほっとした、こういう先輩と付き合えるようになったなら安心だ」

 なんて、母親のようなことを言われて

「お…まっ、何言い出すの?」

「いい友達が居たんだな」

 瀬名先輩に迄、妙に優しく笑われてなんだか凄く恥ずかしかった


「そんな事になってたんだ…、迷惑かけたね、ありがとう…ごめん」

 本当は何もなかったことにしようと思ったのだけど、回収した写真の行き先の相談と、広まった素顔に対しては知らせておくべきだろうと、回収が終わった次の日の放課後榎木を近くの公園へと誘った。

 彼女の身の回りで起こっていた事と、その切っ掛けである写真部の事などを話し終えると、そう言って頭をさげるのを慌てて止めた。


「元はといえば俺のせいだからそんな風に思わないで? それよりもこれ、どうしよう?」

 回収した写真とネガの入った封筒を差し出すと、榎木は困ったような顔をした。

「もう、気がついていると思うけど、私自分の顔苦手なんだよね…、私、母に小さい頃捨てられてね、父は忙しい人で、叔母夫婦に育ててもらっているの、優しい人達で本当の娘のように育ててもらって…、大好きだし、感謝している……でもね、駄目なの、母をまだ許せない…私の顔ってね、すごいあの人に似ているの…特に年々似てきて…ね」


言いにくそうにポツポツと自分のことを話す榎木は普段のしっかりした様子は無くて、心細げに小さな声で言葉を連ねるのを黙って聞くことしかできないでいたら

「でも、これじゃ駄目だね、私ももう少し向き合わないと…こんな情けない顔しているなんて思わなかった」

 封筒から出した写真を睨みつけるような目で見てそういった

「あのね…頼んでいいかな?」

「ん?」

「これ、預かってくれない…かな? 手元に置くのは…まだちょっときつくて…でも、こんな枚数の自分の写真燃やしたり捨てたりってのも…なんか…ねぇ? 私がもうちょっとしっかりするまで、受け取れるようになるように私も頑張る、だから…駄目かな?」

「いいの? 俺で」

 そんな事を言い出すと思ってなかったから驚いて、封筒を見て、榎木を見るとまっすぐ俺を見て

「もうちょっと強くなれるまで、お願いします」

 眼鏡の奥の涼しげな瞳は少し潤んでいて、俺は思わず抱きしめてしまいたいと思う気持ちを両手を強く握りしめることでなんとか堪えることが出来た。


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