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「あぁ、その小説なら第二の方に置いて有るので是非そちらを利用して貰えますか?」
「今日の当番さん? ごめんなさい、今は資料の作成をお願いしているの…、え? お友達なんですか? ん~、じゃぁ、このメモにお名前とクラス書いて貰えますか? 何か急ぎみたいで今、邪魔をを出来ないの…お友達が来たって伝えておきますね、…え? 良いの? 大丈夫かな? お名前聞いておかないで彼女困らない?」
「ごめんなさい、雑誌はここには置いてないんです、第二でしたら何冊か定期的に入れているのも有るので行ってみて下さい」
「カルドニア・ミレニアムですね、えっと、その後ろの棚の右側の下から三段目を見て貰えますか?ごめんなさい、今少しここを離れられなくて…、あ、有りました? 良かったです」
愛海先輩は柏木君と瀬川先輩が図書室を出て行くなり、書棚を足早に見て回り数冊の本を瞬く間に抜き出すと準備室に入って
「冬華ちゃん、この本の修繕お願いして良いかな? 私はカウンターに居るから」
「えぇ? 大丈夫ですか? 今日凄くお客さんが多くて一人では…」
「大丈夫、任せて」
そう言うと、準備室のドアをパタンと閉めて…この部屋をを出て行った。
少し心配で耳を澄ませて居ると、聞こえてくる鮮やかなあしらいに驚く。
きちんと本が目的の生徒には丁寧に場所を教えて、明らかにそうでなさそうな相手にもとても丁寧に、けれど取り付く島の無い完璧さでの柔らかい遮断…
「ふぅ、こんなもんかな、冬華ちゃんお疲れ様、ごめんね? いきなり此処に押し込めちゃって…」
閉館時間間近になり、準備室に入ってきた先輩はそんなことを言うから
「いえ、先輩こそ…、でも、驚きました、何であんなに…」
どう言ったら判らなくて口ごもると
「図書館に興味の無い此処へのお客さんの扱いが出来るかって?」
そう言ってくすりと笑うのに頷くと
「昔ね、そうやって此処に彼を匿って、一人で作業した頃があったんだ」
「瀬名先輩ですか?」
「うん、私も最初はお客さんが増えた! なんて喜んでたんだけれど、目的が本じゃ無いからトラブル続きでね~、此処に彼を押し込んで、一人でカウンターに座るようになったら効果テキメン! だったの」
そう言われて、この所の此処での様子を先輩達が知って、その対処に慣れている先輩が助けに来てくれたのかと思い当たる。
「だから先輩が…? 何だか迷惑掛けて申し訳ないです…、何となく理由は判っているんですが…」
そう言って、思い切って先輩の前で眼鏡を外すと、少し驚いたように目を見開いて…
「隠れの森のクラウディアみたいね」
先輩の大好きなファンタジー小説の精霊の名前を呟いているのが、何ともこの人らしい…
「私はこの顔には余り良い思い出が無くて苦手なんですが…、それに、この顔を見られると昔からおかしな事が起こることが多くて、この前の体育祭で柏木君が私を助けるのに、少しだけ私の眼鏡を外したのを見た人が居たみたいで…」
「成る程ね、だから彼はあんなに必死で冬華ちゃんを守ろうとしているのかな?」
「…やっぱり、そう思いますか? あの時困っていた私を助けてくれただけなのに、何だか気にしちゃっているみたいで…」
「ふふ、本当に変わったよね、彼…、でも、冬華ちゃんも…」
じっと私の目を見る先輩が不思議で、何ですか? って聞いたら
「ううん、でも、冬華ちゃんの素顔もとても素敵だから、いつか、楽しい思い出で塗り替えられると良いんだけどね」
なんて、子供みたいに無邪気な笑顔でそう言われて…そのふわりとした優しい笑顔に、何だか少し私も肩に入っていた力が抜けた気がした。