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れん2nd  作者: 萌葱
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「なんなんですか、一体? 俺、今あいつのそばに居ないとヤバイんですよ」

 突然図書室から連れだされて、俺を引きずっていく瀬名先輩にそう言うと

「判ってる、例の体育祭のせいだろ? だから来たんだ、いいから来い」

 そう言われて、そのまま先輩たちのクラスまで連れていかれた

「お、来たねぇ~レプリカ王子君だっけ?」

 そこに王子と並んで、我が校の有名人であるサッカー部部長の篠原先輩が待っていて俺を見て、最近は呼ばれることは少なくなってきた(と思いたい)昔のあだ名を言われて思わず絶句する。


「からかうな、篠原」

「はいはい、えっと柏木くんだよね? 単刀直入に言うけど、今君の図書委員の相方の彼女かなり困ったことになってない?」

 いきなりここ最近の懸案を言い出された

「何でそれを…」

「この間の体育祭? あの後地味に広がってるんだよね、男の間だけで、発見! わが校の隠れ美少女って」

「なっ…」

「どんな状況だ? 今」

 瀬名先輩に言われて、改めてここ最近の図書室の状況と、今日あった委員長の来襲、彼女が最近感じるという視線の話をした。

 大抵の話は確認を取るだけという感じで頷いていたのが、委員長の名前を出した時だけ

「あの、猿が生意気に色気づいてるのか、面倒だな…」

「猿って…」

 確かに柳委員長は猿顔系ではあると思うけれど、わりと整った部類の顔で女子の人気も高かったと思う、成績も悪くないし、人当たりも良いので委員の中では人望もあったはずなのだけれど…。

 まぁ、榎木に副委員長を頼んでいた経緯で含むところがあるのは何と無く気がついては居たけれど、俺は接する機会の少なさ故に人となりを余り知らないのもあって

「猿で十分だ、表面だけの外面人間で、自分の価値しか認めない狭量な奴だしな」

 確かに、その柳先輩よりはるかに整った顔立ちで、頭の回転も校内の知名度も不動のトップである王子はこともなく切り捨てていて

 その小気味よさにすっきりはするものの何故そこまで嫌うのか不思議に思っていると

「あいつの采配のせいで、いつも愛海は一人で図書整理してたんだ…もっと怒ればいいのに…あの、馬鹿…」

 苛立たしげな表情を工藤先輩の名前を出した瞬間和らげて、最後の馬鹿は聞いたこともないほど優しげに呟いていて…漸く思いが届いて、その気持ちを隠すこと無く表出させている先輩が少し羨ましい。

 けれど、その内容は確かに瀬名先輩が毛嫌いする理由には十分に思えた。


「あー…、王子? 惚気はいいから続けるよ?」

「そんなつもりはないが?」

 篠原先輩に言われてしらっと答えている瀬名先輩。

「えー、十分惚気だよねぇ…?」

 不満気にこちらに話題を飛ばすのにそうだとも違うとも言い難くて、無難な笑いでごまかすと

「本題行くぞ」

 王子がきつい顔をして、ポケットから一枚の写真を出した

「これっ……」

「多分これが今回の騒動の原因だ」

 あの日、俺が眼鏡を外したせいで素顔を晒した榎木の写真がそこにあった。


「騒がれるのも判るよなぁ…人形みたいだ、眼鏡外しただけでここまでって漫画みたいだねぇ」

「俺も驚いた、作りが整っているとは思っていたがここまでとは…まさか、一番合わないタイプの眼鏡を選んでるなんて思わなかったしな」

 写真を挟んでそんなことをいう先輩の声は聞こえていたけれど、内容はあまり耳に入ら無くて。

 あの日俺は手を引いて先を走っていたから、彼女の素顔を見たのは眼鏡を返すまでのほんの一瞬、それでも驚いたけれど、こうして再度見ていると本当に榎木なのかと驚いてしまう。


 昔の俺ならきっと、コンタクトに変えるとか似合いそうなメガネを探すとかそう考えたと思うのに。

 なんとなく彼女が自分の顔を嫌だと思っている様子に気がついていた俺は、彼女の鎧を無理に剥いでしまった気がして胸が痛い…。

 それに、眼鏡のない無防備な彼女はどこか心もとなげで…、風情があるとは思うけれど、俺はやっぱりあの無骨な眼鏡の奥で、涼しげな目をしてぽんぽんと言葉が出てくる榎木が好きで…。


「見とれるのはわかるが、行くぞ?」

「え?」

「聞いてなかったのか? この騒動の原因作った馬鹿を締めに行く、俺達だけでも問題はないが、今後も榎木の側に居るつもりなら知っといたほうが良いだろ?」

 あまりの手回しの良さに驚いて、

「すっごい助かりますけれど、何でそこまで…」

 考えたら俺も彼女も先輩からしたら単なる図書委員の後輩でしかないのに…そう思っていると

「お前には恩があるし、榎木は愛海が大切にしている後輩だ、迷惑もかけたしな」

「恩…?」

「お前があの日愛海の背中を押して、図書室の番をしてくれなければ、今の俺達は無かったかもしれない…感謝してるんだ…行くぞ?」

 ぼそりとそんなことを呟いてさっさと教室を出ていく先輩に

「耳まで赤い~」

 篠原先輩がうれしそうにそんな事を言って出ていくのを慌てて追いかける。

 自分のしてしまった事で彼女を面倒に巻き込んでしまい塞ぎがちだった気持ちが、この頼もしい先輩たちの優しさに救われて少し心が軽くなったような気がした。


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