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「何でまた…?」
新学期の最初のHRで行われる委員決め。
第一希望の結果が並び、休み時間を挟んでの重複した委員の調整となった。
元々地味な図書委員は幸い希望者は男女共に一人しか居らず、すんなりいったのは良いのだけど…、何故か男子の希望者は今学期から、クラスメイトになった柏木君。
戸惑う私に
「馴染みの有る場所だし、知り合いも居るし楽しそうかなって、宜しく」
出席番号順の席次故に隣の席に座っている彼に目をやると、そう言って明るく笑われて…、私は何処か違和感を感じながら了解と答えた。
「ごめん…冬華ちゃん…お願い」
「すまないな、榎木、協力はするから…」
新学期最初の委員会で、先輩二人に入室早々手招きをされて、委員会の副委員長職を頼まれてしまった。
てっきり前期の副委員長だった愛海先輩が委員長か副委員長だと思っていたので、そう言って驚いて居ると
「私もそのつもりだったんだけど、志望校のランク上げることになっちゃって…、そうすると、前ほど時間取れなくて…、でも、私が出ないと今度の委員長は榊君だと思うのよね…」
榊先輩は前年度のもう一人の副部長。
図書室への愛情は認めるもののそれは殆ど第二のみに注がれていて、前期委員長も第一に愛着のあるタイプじゃなかったから、愛海先輩が居なかったら第一図書室はどうなっていたかと思うのは確かで…。
「工藤先輩、瀬名先輩の志望校に合わせるんですか? それは大変…」
「え?」
そんなことを考えていると、隣で柏木くんが突然そんなことを言い出して、みるみる顔が赤くなる愛海先輩に私もやっと事情が飲み込めた。
「そうなんですか!?」
思わず、少し大きな声が出てしまって
「ふ…冬華ちゃんっ」」
「面倒かけてすまない、フォローはするから…」
更に赤くなる先輩と、申し訳なさげにこちらを見る瀬名先輩をみて、二人の関係が変わったこと悟った。
瀬名先輩の気持ちはなんとなく見ていて気がついていたけれど、いつの間にか愛海先輩がそれを受け入れていたことにはまるで気が付かなかった…、でも、二人が付き合うことになったからこそ、成績もトップクラスの瀬名先輩の志望校に工藤先輩も合わせることにした様子で…。
大事そうに愛海先輩を見つめる瀬名先輩と、その愛情を受けて幸せそうに笑う愛海先輩はとても綺麗に見えて
「任せてください第一は私が頑張ります、でも、行き届かないときは助けて下さいね」
そう言ったら
「勿論よ」
「当たり前だ」
頼もしい二人の先輩の言葉に、私は次期副委員長に立候補して、第一図書館を担当することを決めたのだった。
「ごめんね、いっぱい迷惑かけたのに冬華ちゃんに報告しなくて…」
私の当番の日の放課後愛海先輩がひょっこりと顔を出してそんなことを言ってきた。
柏木君が用事があるとかで、私一人のカウンターの隣に座ってぺこりと頭を下げられて焦ってしまう
「そんな…、何にも迷惑かかってないですよ?」
「ううん、三学期の終わりごろ当番を変わってもらったじゃない? あの頃の事だったの…」
そう言えば、三学期そんなことがあったなと思い出す。
あの時はカウンターに座る瀬名先輩が図書室に入室する私を見ると、一瞬苦しそうな顔をして、そのあと笑ってすまないなと言ってくれるのがなんだか切なかった。
「あの頃ね、私、瀬名くんを好きだって自覚したんだけど、彼の迷惑になるって思って気持ちを殺すことしか考えてなかったの…」
「せ…先輩?」
側で見て居ただけの私でも、何となく瀬名先輩の気持ちは判っていたというのに…その瀬名先輩をいつの間にか好きになって、でもそれを迷惑と思って心を打ち消そうとしたという先輩に驚いていると
「私、相当鈍いらしいのよね…後で美幸にも恵ちゃんにも相当呆れられた…」
友達のの名前を出してしょんぼりとする先輩は妙に可愛くて、うつむいるから表情までは分からないけど耳まで赤い様子が微笑ましい。
瀬名先輩もこういう所が放っておけないと思うのかなぁ…なんて思っていると
「色々あってね、気持ちを伝え合えたあとにね、迷惑かけた冬華ちゃんには話ししなきゃって…思ったんだけど…、は…恥ずかし…くてっ」
真っ赤な顔して、潤んだ瞳で私を見てそんなことをいう先輩に、よほどこういう話が苦手なんだなと予想が付くと同時に、そんな姿はたまらなく可愛らしくて…。
らしくもなく、思わず先輩をぎゅっと抱きしめて
「大丈夫ですよ、私はいつでも先輩の味方です、もし瀬名先輩に泣かされたら言ってくださいね、加勢しますから!」
そう言うと、先輩もぎゅっと私を抱きしめ返してくれて
「ありがとう…」
「あ~、百合だ…」
用事があるとかで遅れた柏木君が、図書室のドアを開けて丁度抱き合ってた私達を見るなり、そんなことを言うから
「不特定多数相手にするくらいなら、アブノーマルのほうが良いでしょう」
「ちょ…冬華ちゃん?」
私の返した言葉に愛海先輩が何故か慌てて、柏木君は、はいはいどーせね…、そう呟いてそのまま書棚のチェックに行くと
「でも、柏木君もずいぶん落ち着いたよ?」
愛海先輩が私に囁いた
「そうですか?」
そんなことを言うのに少し驚いて先輩を見ると
「うん、拠り所を見つけたのかもしれないね」
最近ほんとうに綺麗になったなと思う表情でふわりと笑った。