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れん2nd  作者: 萌葱
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 図書室を出て、その横の階段を一気に駆け上がって屋上の手前の踊り場に背を預け

「やばい……俺…」

 手で顔を覆いながらゆっくりと体の力が抜けるままに壁に背を預けてしゃがみ込んだ。


 渡された包みがピアスだと知り、ドキリと胸が鳴った。

 俺にとってそれは、常に告白と共に渡されるものだったから…、なのに榎木はさらりとお礼とお土産何て言うから、一瞬高揚した気持ちがすっと冷えて…。

 けれど、このシンプルな形をしたとろりとした光沢の綺麗な石が俺みたいだなんて言ってくれたのは嬉しくて、付けているピアスを外して、ピアスを付け替えた。

 すると、そんな俺を見て良いねと言う榎木の、てらいのない笑顔にもう一度強く胸が鼓動を放つ音が、目の前の相手に聞こえてしまうんじゃないかと思うほど、体の中で鳴り響いた。


 ピアスを手のひらで受け取った時の高揚と、その後の失望感。

 けれど、綺麗な石を自分と重ねてくれて嬉しくなって、そして…似合うと微笑まれて胸に感じた衝撃は初めてのもので…、ジェットコースターの様な上がり下がりを体験して…、漸く気が付いた。


俺は榎木に惚れている…本気で。

今まで、恋愛なんて数知れずして来たのに、こんなに気持ちが浮き沈みした事なんてなくて、

「王子もこんな思いしてんのかな…」

 呟いた途端、屋上へ続く扉が開き凄い勢いで女の子が階段を駆け降りていった。

 あー…、振られちゃったのかな? その様子にここがわが校の告白のメッカに続く出入り口であることを思い出していると、再度扉が開いて

「…何やってるんだ、こんな所で?」

わが校で恐らく一番にここに呼び出されているであろう先輩が出てきて、俺を見つけると、不思議そうにそう呟いた。


「先輩こそ…、相変わらず大人気ですね」

 しゃがみ込んだ姿勢のままで見上げてそう言うと

「あれ? お前、最近大人しかったのにまた女変えたのか? …しかし、今回は妙に趣味が良い、お前をきちんと見てる人間な気がする…」

 これだから、聡い人間は嫌いなんだとため息が漏れる。

 最近は、どうも気が乗らなくて告白を断ることが殆どだったし、ピアスも髪に引っかかるのに難儀して、プレゼントの相手と会うとき以外は、自分で昔に買った無難な物を付けることが多くて。

 偶々冬休み中にもかかわらず、近所のショッピングモールで先輩とばったり会った時には、ふっと耳元に目をやって、最近おとなしいんだなと妙な笑顔で笑われたばかりだった。

「榎木です」

 そう言ったら、珍しく驚いた顔をされた。


「いつの間に…」

 なんて言われて、我ながら情けなくなりつつ

「礼で土産だそうです…」

 答えると

「天然な所まで似てるのか…、お前に土産にピアスって、由来知らないわけじゃないんだろ?」

「知ってます…」

「で、お前はこんな所で凹んでいるわけか」

 妙に疲れたようにため息を付いて俺の横に座る先輩に、思わず

「何でわかるんですか」

 なんて言ってしまい、挙句に呆れた様に横目で見られて、やけくそになってピアスを渡された経緯を話すと

「お前、やっと自覚したのか」

 と呆れられて、けれど、

「ま、俺より早いな…」

 そう言われて、驚いて隣に座る端正な横顔を見る。


「先輩って、第一通いだしたのって一年の一学期とか言ってましたよね?」

「そうだな」

この先輩は頭の回転が速く、何より人の感情に聡い…それが、気がつくのが俺よりも遅かった?

 俺が榎木を知ったのも時期は同じで、今は出会ってから半年以上は経っている…

「でも、自覚があったから同じ委員を選んだんですよね? だったら似たようなもんじゃないんですか?」

 委員を決定するのは学年が上がってすぐの新学期だから、それより前に自覚しなければ間に合わない、今は三学期に入りたてだから、後三ヶ月もすれば学年が替わるタイミング

…そう考えて

「1.2ヶ月の違いなんて誤差範囲じゃないんですか?」

 そう言ったら、くっと口の端っこで笑う先輩独特の笑い方でこちらを見ると

「俺が自覚したのは二年の夏休みだ」

「え…? って、自覚なかったんですか? 同じ委員とか、えええええっ? あの体育祭も!?」

 この学校入って間もなく開催された体育祭で、一番目立っていたこの人は借り物競争でグランド突っ切って、一番目立つ放送席に何故か座っていた工藤先輩を引っ張り出して、二人して素晴らしいスピードでトラックを駆け抜けて行った。

 会場を盛り上げる放送部のアナウンスによるとお題は『長い髪』、確かに緩やかにカールする長い髪をなびかせてしなやかに走る先輩は納得の行く人選だったけれど、

そんなお題ならあの時もっと近くに幾らでも居たわけで…。

 存在が派手な割に、だからこそなのか目立つことを避けようとしているこの先輩が、あんなふうに工藤先輩を引っ張り出したのは、この人の工藤先輩への想いを知っているだけに、それ故だと思っていた。

「だな、だから俺もあまり人のことは言えない…、人のことだと見えるんだがな? お前が工藤におかしなちょっかいかけた時位からお前おかしかったし」

 そう言って人の悪い笑顔で笑われて

「勘弁てして下さい、俺今日はもうエネルギー残ってないです」

 そう言って俯くと

「ま、頑張れ」

 そう言いながら背中を叩いて、階段を降りていった。


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